第136話 呼び方

羞恥に震える私は、そのまま2人に美味しく食べられてしまった。



「大丈夫ですか、ディア様?」

「ディア様、無理をさせて申し訳ありません。」

「ん、」


ぐったりしながら頷くが、とても疲れて動けない。

労るように私の髪を撫でるコクヨウ。

ディオンは許しを請うように、私の手の甲に口付けを何度も落とす。



「責任持って、今日はディア様のお世話を全てしますね?」

「私とコクヨウに全てお任せ下さい。」



良い笑顔の2人。

なんで、2人はそんなに元気なの!?

理不尽だ。



「・・・お風呂、入りたい。」



人間、諦めも肝心。

今の自分の希望を2人に伝える。

生き生きした2人の表情を見ていたら、突っぱねる事が出来なくて。

本当、私はこの子達に甘いのだ。



「あぁ、お風呂ですね?」

「ん、」



頷けばコクヨウに抱き上げられる。

そのまま室内にあるお風呂場へと向かうコクヨウが私をお風呂へ入れてくれるらしい。

・・もう、どうにでもして。

コクヨウにされるがまま、お風呂を満喫する私。



「はい、冷たいお水ですよ、ディア様。」

「・・ありがとう、ディオン。」



甲斐甲斐しくコクヨウからお風呂のお世話を受けた私は、ちゃんと着替えも済ませてベッドへ運ばれる。

ベッドのシーツが綺麗に整えられていた事は、気にしたら負けだ。

お風呂に入ってさっぱりした私。

一息付けた気がする。



「ディア様を髪の毛を乾かしますね?」



すぐさま冷たい水の入ったコップを手渡され、そのまま意気揚々と私の髪を乾かし始めるディオン。

なに、この連携感。



「・・私、ダメ人間になりそう。」



あり得る。

こんなにデロデロに甘やかされているんだもの。

将来、何も出来なくなりそう。



「ふふ、私達以外を必要としないダメ人間になら、ディア様にはなって欲しいですね。」

「コクヨウと私、他の皆んながディア様の全てのお世話を喜んでしますよ?」



また良い笑顔の2人。

・・・うん、悠々と私の世話をしたがる皆んなの姿が想像する事が出来てしまう。



「そんな人間には、絶対にならないから。」



頬を膨らませる。

自分で出来る事は、ちゃんとするとも。

そんなダメ人間じゃないし。



「それは残念です。」

「ディア様が何をなさらずとも、何もご不便は無いと思うのですが。」



心底、私のお世話が出来ない事が残念そうな2人。

でも最後には絶対に私の意思を尊重してくれるんだよね、この旦那様達は。



「・・・、あっ、」

「・・?ディア様?」

「どうかしましたか?」



思わず声を上げた私に2人が首を傾げる。

これ言いずらい。

が、気になってしまったんだよね。



「・・あのさ、いつまで2人は私の事を様付けで呼ぶの?」

「え?」

「はい?」

「いや、2人とも私の事を様付けで呼ぶじゃない?あの、その、」



恥ずかしかに目が泳ぐ。



「つ、妻なら、呼び捨てにしても良いんじゃないの・・?」



だって可笑しいでしょう?

旦那様が妻を様付けで呼ぶのは、さ。



「「っっ、!?」」



ピシリと固まる目の前の2人。

あ、あれ?

私またなんかやっちゃった?



「・・あの?」

「「・・・。」」

「おーい、2人とも?」

「「・・・。」」



ひらひらと固まる2人の前で手を振ってみる。

が、なんの反応も示さない2人。

ダメだ、これは。



「・・はぁ、もう一眠りしよう。」



うん、そうしよう。

現実逃避の為に夢の中へと私は旅立つ。

次に起きた私を待っていたのは、いつも以上に甘い表情のコクヨウとディオンの2人だった。

機嫌良く2人は私の世話を焼きたがる。



「ディア様、まだパンを食べますか?それとも他の物にします?」

「んー、コクヨウ、お肉が食べたい。」

「あぁ、ディア様、冷たい飲み物はいかがですか?」

「ん、ありがとう。」



慣れって本当に怖いって思う。

こうやって2人に食べさせてもらう日常も、溺愛されるのも普通の事になっていく。

周りの皆んなも、そんな私達を微笑ましげな表情で見つめるだけだし。



「あぁ、今日のディア様も素敵ッ!私もディア様に食事を食べさせてみたいわ!」

「ロッテマリーお嬢様、私も同じ気持ちです。ですが、畏れ多くて私は出来る気がしません。」

「そうね、私がディア様に食べさせるなんて行為は恐れ多いかも知れないわね。」

「ですが、いずれはその栄誉を得ましょう、お嬢様。」

「えぇ、ルル、一緒に頑張りましょう!」

「はい!」



・・若干、違う事で盛り上がる人達も中にはいるが。

うん、これぐらいなら形容範囲かな?



「ディア様、ロッテマリーとルルーシェルに食べさせていただきますか?」

「今の2人からは止めておきましょう、アディライト。何があるか分からないわ。」



苦笑いのアディライトに首を振って止めておく。

暴走中の2人。

そんな2人から食べさせてもらったら、歓喜に倒れてしまうのではないだろうか?



「しばらく、2人の事はそっとしておきましょう。」

「かしこまりました。」



この2人の暴走、治るのかしら?

ロッテマリーとルルーシェル2人の会話を気にしつつ食事を続ける。

パンにオムレツ。

スープにドレッシングのかかった新鮮な野菜のサラダ。



「はぁ、今日のごはんも美味しかった。」



今日も満足感でいっぱい。

幸せである。



「うーん、でも、お米がいないのが少し残念かな?」



今の食事も満足だ。

しかし、そろそろ米が恋しくなってきた。

後、味噌と醤油も。

日本食が食べたいのだ。



「この世界に日本に近い国はあるかしら?」



もう少し余裕が出来たら色々な街へ行ってお米や味噌、醤油に近いものを探してみたい。

小さな願望。

元日本人としては、この世界にもお米などがある事を願いたいね。

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