第129話 閑話:誇り
ロッテマリーside
私の生まれ育った街は小さな辺境にある所だったけど、緑が多く自然豊かで、とても大切な場所だった。
そこの領主の1人娘。
それが私、ロッテマリー・シュトレーゼン。
「・・・結局、私は、最後、の時、まで主人を、見つけられ、なかったわね。」
ぽつりと呟き苦笑する。
もう私に残された時間は少ない。
ポーションで小さな傷は治せても、じわじわと私の身体は弱っていっている。
「っっ、お、父様、様。」
私は、マリーは貴方の娘として失格です。
シュトレーゼンの娘として、お父様の期待に応えられなかった。
私の目尻から涙が零れ落ちる。
『主君を見つけなさい、マリー。自分の全てを預けても良いと思えるような主君を。』
代々、リュストヘルゼ帝国で武家として名を残すシュトレーゼンの下に生まれたお父様の、『心から仕えたいと思える主人を見つけろ』が口癖だった。
武を磨き、その力を主君と領民の為に使う。
それが誇り高き、我らがシュトレーゼンなのだ、と。
「主君の為に私達シュトレーゼンは、どこまでも強くなれる。」
「・・お父様、よく分かりません。」
「もう少し大きくなれば、私の言葉の意味がマリーにも分かるようになるさ。」
優しい眼差しで幼い私の頭を撫でるお父様。
お父様の教え。
お父様の生き方。
今も私の中に息づいている。
「・・マリー、落ち着いて聞いてほしい。陛下がこの街へ宣戦布告をした。」
領主の娘に生まれ、お父様と、シュトレーゼンの名に恥じぬよう生きてきた。
武力を磨き、弱き者を助ける。
そんなお父様の教えを、ずっと守ってきた。
明るい明日を夢見て。
「っっ、宣戦布告!?では、戦争になるのですか!!?」
なのに、現実は残酷で。
お父様から聞かされたたのは、私達の人生を大きく変えるものだった。
リュストヘルゼ帝国からの宣戦布告。
それは、私達への事実上の死刑宣告に過ぎない。
「ーー・・逃げろ、マリー。領民達を連れて、今すぐに。」
「なっ、お父様、一体、何を言うのです!私もお父様と一緒に戦います。」
「マリー、それはならん。」
「なぜ!?」
「我がシュトレーゼンは、領民を守る盾であり、剣。その誇りを忘れぬでない。」
「っっ、」
何も言えなかった。
お父様の気迫は、それほどまでに恐ろしいものだったから。
「私の可愛いマリー、どうしてもお前には生きてほしいのだ。どうか不甲斐ない父を許してくれ。」
そして、愛情深い人だった。
理解してしまったお父様との永遠の別れに、私の目から涙が零れ落ちていく。
お父様と一部の家臣達を残して燃え盛る街を背に、小さい頃から仕えてくれたルルと領民を連れて私は逃げた。
「ーーー・・寵妃様と出会われてから陛下は変わられてしまった。」
忘れません、お父様。
貴方が苦しそうに、悲しそうに呟いた最後の姿を。
「た、助けて、」
「死にたくない!」
お父様に託された、たくさんの命。
守りたかった人達。
呆気なく、私のこの両手から大事な命が滑り落ちていった。
「っっ、ごめんなさい。」
救えなかった命。
泣く資格などないのに、私の目から涙が止まらない。
ーーー・・命の儚さを思い知らされた。
「・・醜いな。」
いつしかルルしか側にいなくなった頃、リュストヘルゼ帝国の兵士に捕まり、そのまま捕虜として連れ戻されるはずった私達。
だが、過酷な日々にぼろぼろになった私達の姿に兵士達も興味をなくしたのか、見捨てられる事になる。
『我がシュトレーゼンは、領民を守る盾であり、剣。その誇りを忘れぬでない。』
では、お父様。
その守るべき存在が目の前からなくなってしまった時、一体、私はどうすれば良いのですか?
『私の名前は、ディアレンシア。』
死を願った私の前にディアレンシア様、貴方は現れた。
生きる希望を失った私の前に。
『これだけは、2人に言わせて?生きていてくれて、ありがとう。』
おめおめと生き残った私が生きている事に、ディアレンシア様は感謝すると言う。
空洞だった心に、その言葉が染み渡る。
良いの?
私は生きていても。
『愛してるよ、私の可愛いマリー。』
優しく私の事を抱き上げてくれたお父様の温もりはないけれど、あの幸せだった日々の思い出は私の中にある。
厳しい教えも、悲しさも。
『ねぇ、生きる理由がないって言うならさ、作れば良いじゃない。生きる理由を。』
生きる理由。
今の私の、生きる理由はーー
『ロッテマリー、ルルシェル、まずは貴方達の傷付いた身体を私が治すよ。だから2人とも、これから先もずっと私の側にいてね?』
淡い光が私の身体を癒していく。
「えっ、?」
「っっ、身体が、治った!?」
何が起こったの?
ルルと一緒に、自分の身体に起こった事に驚きの声を上げる。
治っているのだ。
私とルルの、欠損で傷ついた身体が。
「な、なんと、ソウル様は光魔法の使い手でしたか!」
ハビスさんのおどきの声で知る。
私達の体の欠損を治してくれたのは、目の前にいる方なのだと。
『主君を見つけなさい、マリー。自分の全てを預けても良いと思える主君を。』
・・あぁ、お父様。
私とルルの身体の事を気遣う声に、ベットから飛び降り、そのまま跪き頭を下げた。
「・・あの、2人とも?」
「はい、我が女神よ。このロッテマリーに何なりとお申し付けを。」
「女神様、私の数々のご無礼、どうかお許しください。」
私はの名前はロッテマリー・シュトレーゼン。
誇り高きシュトレーゼンの娘。
唯一無二の主君を見つけてしまいました。
「私ロッテマリー・シュトレーゼンは、貴方様に生涯、絶対の忠誠をお誓い申し上げます。」
この方が、私の生きる理由。
希望なのだ。
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