第127話 生きる理由

聖女が患者を選ぶ?

皆んなを救う、聖女様が?



「ふふ、聖女様は箱入り娘なのですね?そんなにも大切に守られているなんて、笑ってしまいますわ。」



どこが聖女だと言うのか。



「・・・お怒りは分かりますが聖女様への物言いは十分にご注意下さい。もしも信徒の者に聞かれたら、ソウル様のお命に関わりますので。」



真剣なハビスさんの声と表情。

ハビスさんが注意するほど、ニュクス神への信仰は深いと言うことか。



「ハビスさん、その子達に私を会わせてください。」

「どうぞ、こちらへ。」



ハビスさんに案内されてたどり着いた先にいたのは、身体を欠損し、ぼろぼろになった人間と獣人の少女の2人だった。



「・・お嬢様、私の後ろへ。」



入って来た私達に獣人の子は警戒心を向け、お嬢様と呼んだ少女を背に庇う。

獣人の子に背に庇われた少女が、領主の娘。

昔の私と同じ瞳をしている。

全てを諦めた瞳。



「ーーー・・だから、貴方は死ぬ事を望んでいるのね?」



聖女の力は頼れない。

自分は、このまま死ぬしか無いと諦めているのだ。



「・・何、を、言って・?」

「貴方、とても死にたそうな瞳をしてるから。もう、生きたくないって顔だね。」



この瞳を、私は知っている。

死を渇望する瞳だ。

獣人の子に庇われた目の前の少女は、歪んだ笑みを浮かべた。



「・・・いけ、ませんか?」



諦めたような笑みを。



「っっ、私、は、領主の娘で、あり、ありなが、ら、街の、皆んな、を、守れな、かった、人間、です。」

「うん。」

「たくさん、の、命が、散りゆく、のを、見まし、た。」

「うん。」

「はぁ、くっ、なのに、私には、まだ生きろ、と、言うの、ですか?」



少女の目から涙か零れ落ちる。



「楽に、なり、たい。」



死への渇望。



「皆んな、に、謝りたい、の、です。」



生への心苦しさ。



「それに、私、の、命は、もう、長く、は、ない。」



一体、いくつの事を諦めてきたのだろう?

目の前で消えていった命。

守れなかった人々。



「良いの?貴方を守ってくれる存在が、まだ側にいるのに、生きる事を諦めて。」



絶望感が彼女の心を蝕んでいく。

でも、知って欲しい。

貴方はずっと、1人ではなかった事を。



「・・え?」

「ずっと、彼女は貴方の側にいるのに、生きる事を諦めてしまうの?」



私が視線を向けた先。

顔を歪ませて、今にも泣き出しそうな表情をした獣人の少女がいた。



「・・あっ、ルル・・、私、」

「お嬢様、死を望むなら私も一緒に!」

「っっ、ダメ、お願い、ルルだけでも、生きて。」

「そんな!?」



獣人の少女の耳が萎れたようにぺたりと下がる。

・・やだ、可愛い。

あまりの可愛らしさに不謹慎にも頬が緩む。

たらーー



「・・何が可笑しい、人間。」



バレて、がっつりと獣人の少女に睨まれる事になったけどね。



「そんなに睨まないでよ。」



彼女と仲良くなるのは、まだまだ難しそうだ。

道のりは長い。



「ねぇ、自分に生きる理由がないって言うならさ、作れば良いじゃない?生きる理由を。」

「・・生きる、理由・・?」

「幸せになっちゃいけないって思ってた私も、生きる理由を作ったよ?人って、1人では生きられないから。」



私の生きる意味は、皆んなだ。

皆んながいるから、こうして私は生きていける。



「私は貴方達2人が家族になってくれたら心から嬉しいけどね。」



決めるのは彼女達。



「でも、これだけは2人に言わせて?2人とも、こうして生きていてくれて、ありがとう。」



ありがとう。

過酷な中、生きていてくれて。

心から2人に感謝を。



「っっ、」



ぽろりと、お嬢様の目からいくつもの涙が零れ落ちていく。



「どうして、泣いているの?」

「っっ、最後に、ディア、レンシア様の、よう、な方に、出会えて、良かった。」

「え?最後?」

「ルル、ルルーシェルの事を、どうか、頼み、ます。」

「お嬢様ッ!?何をおっしゃるのですかっっ、!!?」



獣人の少女が悲痛な声を上げる。



「だって、ルル、私、は、助から、ない、から。」

「っっ、嫌です、諦めないで下さい、お嬢様!きっと、お嬢様は助かりますから!」

「でも、」

「一緒に、ずっと生きましょうよ!1人ぼっちは嫌です!!」

「・・・ルル・・。」

「っっ、私の我儘の為に、どうか、どうか生きて、下さい、お嬢様ッ!!」



・・あぁ、獣人の少女も寂しいと、1人は怖いのだと泣いている。

同じだね?

皆んな、同じ恐怖を心の内に抱えてる。



「ーー・・ルルーシェル。」

「っっ、気安く、私の名を、」

「貴方の大切なお嬢様の事を私が助けるよ。その対価に、ルルーシェル、貴方も私が貰うね?」



呼ぶなと続くはずだったルルーシェルの言葉は、私に視線を向けた瞬間に途切れた。



「な、に?」

「今まで良く頑張ったね、ルルーシェル。もう、大丈夫だから。」



ルルーシェルの髪を撫でる。

振り払われるからと思ったけれど、固まった様にルルーシェルは動かない。

その事に気を良くした私は、お嬢様へと手を伸ばすと、その頭も撫でる。



「貴方も良く頑張ったね?名前を教えてくれる?」



鑑定すれば名前は分かるだろう。

でも、私は本人の口から名前を聞きたかった。



「・・私、の、名前は、ロッテ、マリー。ロッテマリー・シュトレーゼン。」

「ロッテマリー、ね?ふふ、とても良い名前。」



ロッテマリーと、ルルーシェル。

私の家族になる子達の名。



「貴方達は私の為に、全てを捧げてくれる?」



過去も未来も。

その全てを私へと捧げる覚悟はある?

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