第125話 非道な国
フィリアとフィリオ、コクヨウの3人に対して嫌悪感や悪意はないが、恐怖心はあるらしいのに奴隷の子達は誰一人としてこの部屋から出て行こうとしない。
俯いて立ち尽くすばかり。
・・やはり、勝手な行動はしないか。
奴隷である彼等の方から買取拒否なんて言い出せば、お店からどの様な罰を受けるか分かったものではない。
「ーーー・・まぁ、彼等にハビスさんが酷い事をするとは思えないけれど。」
あのお願いをハビスさんにしておいて良かった。
安堵する。
が、目の前の状況をどうしたものか。
「お前達、もしこの部屋から出て行ったとしても私は何のお咎めも与えない。それは、お客様の願いでもある。」
どうしようと私が困っていれば、ハビスさんが助け舟を出してくれる。
そう、それが私のお願いだった。
フィリア、フィリオ、コクヨウの3人を見て私に買われたくないと思った子を無理矢理に購入はしたくないから彼等にも断れる権利を与えて欲しい、と。
「ただ、私は奴隷に対して、こんなにも心配り下さる方を主人に持てたらお前達は幸せになるだろうと思う。良く考えて、この場に残るか出て行くかを決めなさい。」
ハビスさんの言葉に彼等の瞳に宿る希望の光。
結局、誰一人としてこの部屋から出て行く者はいなかった。
「全員、この部屋から出て行かないのは、魔族でも受け入れてくれるって事なのかな?」
聞けば頷く彼等。
ふむ、24人全員が残るとは驚きだ。
3人の姿を見たら数人は買われる事を拒否して部屋から出て行くと思っていたから。
あまりにも嬉しい誤算に、自分の頬が緩むのを感じた。
「ソウル様、いかがでしょう?この中に気に入った者はおりますでしょうか?」
ハビスさんが私に問う。
「ハビスさん、この子達全員の事がとても気に入りました。」
「はい?全員、で、ごさいますか?」
「えぇ、全員です。」
私の大事な3人を恐怖心がありながら受け入れてくれた大切な子達だ。
全員、とても気に入った。
「っっ、で、ては、全員お買い上げいただけると?」
「はい、24人、全員買います。」
私が気に入った24人、全員購入決定です。
早速、ハビスさんと24人分の奴隷契約を交わして彼等の権利を得る。
支払いは一括で。
新しく24人の家族が増えました。
「ーー・・そう言えば、ハビスさん、1つ気になった事があるんですが。」
たわいない話をしながら、ハビスさんとお茶を飲んで寛ぐ私。
ハビスさんから出されたお菓子も、もちろん美味しくいただいている。
ふと、お茶の入ったカップをテーブルの上に置き、ずっと気になっていた事を私はハビスさんへ問い掛ける為に口を開いていた。
「気になる事?一体、何でしょうか?」
ハビスさんと奴隷契約と支払いを済ませた私は、アディライトとフィリア、フィリオの3人にお金を渡し、24人の新しい家族達と街へ必要な物を買いに行かせめて有る為、不在。
アディライトとフィリア、フィリオの3人は彼等の護衛だ。
もちろん、新しい家族が一緒な為、余計なトラブルにならぬ様にフィリアとフィリオの2人には魔道具、『幻影の指輪』を付けさせてある。
この場に私の護衛として残るのは、コクヨウとディオンの2人だけ。
「オーヒィンス商会の中に弱々しい生命反応が2つあるようなのですが、それはどうしてなのでしょうか?」
新しい家族を迎えて用の済んだオーヒィンス商会にこうして留まったのは、気になる事があったから。
それは、弱々しい2つの生命反応。
奴隷を大切にしているハビスさんが、こんなにも弱らせる理由がとても気になったのだ。
「っっ、そ、れは、」
「私は冒険者ですよ?これぐらの事を探るのは簡単ですから嘘は無しでお願いします。」
「・・・。」
「ハビスさんが奴隷に対して酷い事をするとは思えません。だとしたら、弱ったその子達は何かしらの訳ありなのでしょう?」
微笑みながらゆっくりと、紅茶の入ったカップをソーサーの上に置く。
それは、気になる事だよね?
思わず、忙しいリリスの事を動かしてしまうぐらいには。
「・・はぁ、さすがはSランク冒険者になられた方だ。敵いませんなぁ。」
苦笑いを浮かべたハビスさんは、諦めた様に溜息を吐いた後に2人について語りだす。
ーー・・悲しい過去を。
「ソウル様のお察しの通り彼女達は訳ありの奴隷。捕虜奴隷なのです。」
「捕虜奴隷?」
「はい、捕虜奴隷とは敗戦した国の者がなる最底辺奴隷の事。犯罪奴隷と同じ処遇となります。」
「・・犯罪奴隷と同じ。」
犯罪奴隷とは奴隷の中で最も蔑視され、買う為の金額も安い。
大量に奴隷を集める場合を除き、普段は犯罪奴隷は買われる事はないと聞く。
しかも、安く買われた犯罪奴隷達の働き先は鉱山や劣悪な所が多いらしい。
「ソウル様はリュストヘルゼ帝国をご存知でしょうか?」
「確か軍事国家で知られる大国の1つですよね?竜騎隊が有名な国でもあるとか。」
図書館で調べた地図を頭の中で広げた。
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