第107話 微睡み

レベルが上がり、こちらの世界での私の体力は結構あるつもりだ。

が、それでも辛いものがある。



「・・・眠い。」



主に、眠気、が。

シーツに包まり、ディオンの腕の中で眠さに抗えず微睡む。



「ディア様、食事の用意が出来たみたいですが、起きられますか?」



ディオンの声に身体を揺らす。

食事?



「・・・んん、それよりも、今はもう少し、寝かせて。」



今は眠くて仕方がない。

目を開けているのも、今の私には一苦労。

2度寝に突入。



「おやすみなさい、ディア様。夢の中でも良い夢を。」



額に落ちる口付け。

ディオンの声を最後に聞きながら、深い眠りに落ちていった。

どのぐらいの時間、私は寝入っていたのか。



「ーー・・ディア様?」

「んっ、」



何度目かの微睡みの中、身体を揺すられて意識が浮上する。

この声はーー



「・・コクヨウ?」



うっすらと、重たい目を開けた先。

微笑むコクヨウがいた。



「おはようございます、ディア様。もう、お昼になりますが、お食事はいかがなさいますか?」

「お昼・・?」



そう言えば、お腹が空いてる。

眠さに負けて、朝ご飯を食べれなかったからなぁ。

安心するディオンの腕の中に抱き込まれたまま、眠たい自分の目を擦る。



「コクヨウ、お腹が空いた。」

「分かりました。でも、その前にーー」

「んっ、」



コクヨウの顔が近付いたと思った瞬間。

自分の唇に落ちる口付け。



「っっ、!?」



眠さも吹っ飛び、目を見開く。

パクパクと口を開き、真っ赤になりながら声無き悲鳴を押し殺した。

・・・コクヨウ、こんな朝からとても破廉恥です。



「なっ、」

「ふふ、ディア様、目が覚めましたか?」

「ぐぬっ、」



意地悪な表情で微笑むコクヨウ。

目は、覚めたよ?

でも、朝から心臓に悪いから!



「ーー・・ディア様、コクヨウにだけは狡いのでは?」



悶絶する私の背後から聞こえるのは、咎めるようなディオンの声で。

あっと思った時には遅く、顔を後ろに向かされた私は、ディオンによって唇を奪われる。



「っっ、あっ、」



あ、あれ?

ディオンの手が、変な動きなような?



「ディ、ディオン?」

「何でしょう?」

「あんっ、っっ、ディオン、澄まし顔で何でしょうじゃないから!」



ペチペチとディオンの不埒な手を叩く。

一体、誰のせいで私が寝不足だと思っているの!?



「っっ、これ以上は無理だから!??」



勘弁して。



「くす、ディア様?少し動けば、その眠気も無くなるのでは?」

「あぁ、ディオン、良い提案ですね。ディア様の為に眠気覚ましが必要ですから。」



私ににじり寄る、2人。

昨日のデジャヴを感じるのは、私だけ?



「っっ、め、目は覚めた!ちゃんと覚めたから!!」



朝から私の絶叫が響き渡る。

あの後、2人に色々と翻弄された私は、ふて腐れている。



「ディア様、そろそろ機嫌を直されては?」

「やっ、」



そっぽを向く。

ただ今私は、絶賛不機嫌中だ。

アディライトに促されたって、簡単にコクヨウとディオンの2人の事を許さないんだから。

コクヨウとディオンの2人に、私は恨めしげな目を向ける。



「お腹が空いたって言ったのに!」



あの後。

もちろん、2人に翻弄された私。

寝室を出られたのも、あの後しばらくしてからだったし。



「・・ディア様。」

「何よ、コクヨウ。」



名前を呼ばれ、身構える。

謝ったって、簡単には許さないからね?



「お腹が空いていなければ、してもよろしかったのですか?」

「・・へ?」



ぱちくりと、目を瞬かせる。

それも、一瞬で。



「っっ、~~~~!?」



コクヨウの言わんとした事の意味を理解した私は、盛大に赤面した。



「ち、違っ、」

「先に食事を済ませれば、ディア様を愛でる許可はいただけるのでしょうか?」

「っっ、」



妖艶さを醸し出すコクヨウに、絶句。

勝てる気がしない。

この先も、コクヨウ達に翻弄される未来が浮かんだ。



「「ディア様達、仲良し?」」



追い討ちをかける、フィリアとフィリオの2人の声に私が涙目になったのは言うまでもない。

コクヨウとディオンの2人に愛されるのは幸せだから良いんだけど、なんだかその言い方だと私が強請っているみたいじゃないか。

真っ赤な顔になり涙目で身体を震わせるしかない私。

羞恥に身の置き場がないのですが。



「もう、コクヨウ。ディア様の事が可愛らしいからと言って、それ以上揶揄うのはお止めなさい。」

「アディライトッ!」



溜め息を吐き出し、コクヨウを諌めるアディライトに抱き付く。

私の味方はアディライトだけだよ。



「とことんディア様の事を愛でるのは、寝室でになさい。」

「!?」



アディライトの言葉に、私は声なき悲鳴を上げた。



「「??」」



フィリアとフィリオの2人は、意味を理解していないようで不思議そうな表情だし。

うん、2人はそのまま無垢でいてね?



「ディア様も機嫌を直されて、食事をなさいませ。朝も食べていらっしゃらないのですから、身体に悪いですよ。」

「うぅ、だって、アディライト、コクヨウが私の事を苛めるんだもん。」



アディライトに泣きついた。

少し意地悪なコクヨウの事を懲らしめてあげてよ、アディライト!

主に、これからの私の為に!!



「ディア様の涙目姿をコクヨウはただ見たいだけなのですから、落ち着いてくださいませ。」



泣き付く私の髪を宥めるようにアディライトが梳く。



「コクヨウも良いですね?食事を済まされた後にディア様にお願いしたい事があるのですから、ここまででお止めなさい。」

「ふえ?」



お願いしたい事?



「今は何もお気になさらず、まずは食事を済ませて下さいませ、ディア様。」

「・・?分かった。」



首を捻りながら、食事を続ける。

アディライト達が私にお願い事するなんて珍しいなぁ、なんて思いながら。

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