第106話 閑話:闇夜の悲鳴

コクヨウside




順調に進んでいる迷宮攻略。

全員のレベルもディア様に迫る勢いだ。

ディア様が眠りに就いた深夜、これからの事について皆んなでリビングで話し合う。



「リリスさん、ルーベル国の迷宮、最後のボスについての情報はどうですか?」

「それが、迷宮内を調べていた私の配下達との繋がりが途切れました。しかも、最終階層を調べていたもの達だけが、ですね。」



険しくなるリリスさんの表情。

リリスさんの報告に、この場にいる皆んなの顔に緊張の色が走った。

モンスターランクBとは言え、迷宮内にいたのはリリスさん自らの指導を受けた配下達だ。

その配下達が、やられた・・?



「・・、ディア様に、迷宮攻略を諦めて頂く事は出来ないでしょうか?」

「アディライト、ディア様は迷宮攻略をお望みですよ。」

「っっ、ですが、コクヨウ、それでディア様の身に何かあったらどうするのですか!?」



僕が諌めても、普段のアディライトの冷静さは戻らない。

その顔は悲痛のまま。

恐れている。

この場にいる全員が、大切な主人でもあるディア様を失う事を。

僕だってそうだ。

失う事が怖くて堪らない。



「少し落ち着きなさい、アディライト。そんな風に貴方が取り乱してどうするのです?」

「っっ、リリス、さん。」

「そんなのでは、いざという時にディア様の身を守れませんよ?冷静さを欠くものではありません。」

「・・・、はい、」



さすが、と言うべきか、リリスさんの諌める声にアディライトが口を噤む。

うん、やはり、ディア様以外の全員がリリスさんには逆らえない。

それは、僕もなのだが。

この場の全員がリリスさんには逆らえないみたいだ。



「ーー・・アディライトの直感スキルも、大きくは反応しなくなったのでしょう?」

「・・今の所、私の直感スキルは迷宮の奥へ行く事に警鐘を鳴らしません。」

「では、今の貴方達の実力なら迷宮の奥へ進むのに何の問題もないと言う事なのでしょうね。」



リリスさんが指を顎に添える。



「ある魔道具をディア様に作っていただきましょう。」

「魔道具を、ですか?」

「そうです、コクヨウ。ディア様には、全員に転移のスキルを付与していただくのとは別に、帰還の首飾りの魔道具を人数分作っていただきます。」



重々しく、リリスさんが頷く。

帰還の首飾り。

その名の通り、持ち主が願った瞬間にその場から登録した場所へと一瞬で戻れる国宝級の魔道具だ。



「不安要素は少しでも減らした方が良いでしょう。最終階層であるボス部屋の中の危険度によっては、すぐさま退却する事も視野に入れます。」



この場にいる全員へ、リリスさんが厳しい眼差しを向ける。



「貴方達を失えば、ディア様が絶対に悲しまれます。必ず全員が生き残る事を最優先に迷宮攻略に挑みなさい。」

「「「はい!」」」



全員がリリスさんへ頷く。

ディア様にこの事実を打ち明け、迷宮攻略を諦めて頂くのは簡単だ。

しかし、その脅威が迷宮内に止まると言う保証がない。



「なら、ディア様への脅威となり得る前に叩きのめすまでです。」



ディア様の幸せを奪うといのであれば、敵が僕は誰であろうと容赦はしないだろう。

僕にとって、ディア様以上に大切な存在などないのだから。

決意を胸に秘めた時だった。



「~~~っっ、!」



ディア様の悲鳴が寝室から響いたのは。



「っっ、ディア様!?」



寝室へ駆け出す。

一刻も早く、愛おしい人の側へと。



「やだ、嫌だよ、1人は怖い、助けて、」



全員で寝室へ飛び込めば、恐怖に身体を震わせてベッドへ蹲るディアの姿。

痛々しい姿に、胸が締め付けられる。



「っっ、お側を離れ、お一人にして申し訳ありません。ディア様、何か怖い夢でもご覧になりましたか?」

「・・っゆ、め・・?」



僕の事を見上げるディア様の瞳は虚で、その姿に焦燥感が募る。

目の前から消えてしまう。

この手からディア様が遠い場所へ行ってしまうかもしれないと言う大きな焦りが胸の中に広がる。



「ーー・・貴方をそんなにも不安にさせる原因は、一体なんですか?」



貴方の心を蝕むものは何?



「っっ、私が、生まれてしまった事がいけなかったの。」



ぽつりと呟かれた言葉は切なく。

語られたディア様の過去に驚きと、傷付けた相手への怒りを覚えた。



「ーーー・・私は母親の命を貰って生まれたの。」



虚の瞳が語る。

生まれてきた事を後悔している、と。



「『お前、生きている価値なんてないよ。』と言われ続けた私の、最高の当てつけで、復讐だったの。」



ディア様を傷付けたクラスメイト達。

そして、そんなクラスメイトの言葉を信じて、ディア様の事を信じなかった大人達。

もう、誰にも傷付けさせない。

この日、強く誓った。



「ーー・・では、ディア様の事を不安にさせてしまったので、お慰めしなくてはいけませんね。」



この人は、誰にも渡さない。

ディア様の、その心も、身体も、全部、僕達が慈しみ、大切に愛そう。



『っっ、私が、生まれてしまった事がいけなかったの。』



そんな事、二度と言えなくなる様に。

良いんです、貴方は僕達と出会う為に生まれて来たのですから。



「好きです、ディア様。」

「ディア様、愛しています。」



ディオンと2人、ディア様の事を愛し、どろどろに溺れさせていった。

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