第105話 ずっと、愛してる

寝室内の空気が凍り付く。

虚ろな眼差しを、私は皆んなへと向けた。



「あの、ね・・?」



ゆっくり自分の過去を語る。

自分がこの世界とは別の日本と言う国に生まれた事。

何でか、この世界に転移させて貰えた事について告げたら、全員が驚きの表情を浮かべた。



「ーーー・・私は母親の命を貰って生まれたの。」



言葉にすると、胸が痛む。

本当なら、その命を私は大切にしなくちゃいけなかったのだろう。

誰よりも、お母さんの為に。



「・・それでも、お母さんが命懸けでくれたのに、私は自分の復讐の為に、この命を使った。」



最低な娘だ。

お父さんが私の事を嫌うのも、分かる気がする。



「あちらの世界の私が死んでも、誰も悲しまないと知っていたから、躊躇いは無かった。だから、簡単に自分の命も捨てられたの。」



自分が生まれた時に実の母が亡くなり、愛する妻を殺した私を憎んだ父親から育児放棄され事。

そして、施設へ入りーー



「・・・学校での生活も、あまり良くなかったよ。」



思い出したくもない。

された事。

言われた事を、何1つ。



「児童施設でも、私の居場所はなかった。」



あったのは、あの男の嘘を信じた大人達からの冷たい言葉と呆れ、そして叱責。



「ーー・・あちらの世界で、あの日、そんな日々の毎日を私は全て終わらせるつもりだった。」



それが、私の復讐。

1人の生徒が学校で死を選ぶ。

その理由が世間に注目されない訳がない。

お母さんから貰った大切な命を使った私の壮大な復讐劇だった。



「『お前、生きてる価値なんてないよ。』と言われ続けた私の、最高の当てつけで、復讐だったの。」



見返したかった。

こんな私の命でも、あの人達を苦しめる事が出来るんだと。



「っっ、」



あ、あれ・・?

なぜか、寒気がするんだけど?



「ひっ!?」



俯けていた顔を上げた私は目の前の光景に小さく悲鳴を上げた。

お、鬼が部屋の中にたくさんいらっしゃる。

変な汗が私の背中を伝う。



「あ、あの・・?」

「ふふ、ディア様を傷付けるなど、その者達は一体、何様なのでしょうか?」



口を開いたディオンの目は一切笑っていなかった。



「えぇ、全くです。」

「うふふ、ディア様のお父君ですが私達の敵ですね。」

「敵は叩き潰すの!」

「敵は排除するの!」



コクヨウ、アディライト、フィリア、フィリオと剣呑に呟く。



「うむ、特大の恐怖をお見舞いするしかないな。」

「私の炎で火あぶりにするのも良いかもしれませんね。」



そんな物騒な事を相談しているアスラとユエの従魔組み。



「お辛い事を経験したディア様には悪いのですが、それで私達が貴方様と出会えたと言うのなら、感謝せずにはいられません。」



リリスにそっと手を握られる。



「ディア様がこうして生きて私達の前にいられる事が何より嬉しいのです。」

「っっ、」



私の目から止めどなく涙が零れ落ちた。

生まれてきた意味を探してた私。

リリスの言葉は私の全てが報われた気分にさせた。



「ーー・・では、ディア様の事を不安にさせてしまったので、お慰めしなくてはいけませんね。」

「・・はい?」



にこりと微笑むコクヨウの言葉に思わず私の涙も引っ込む。

慰める?



「まぁ、それは良い提案です。」

「ちょ、アディライト!?」

「ディア様の事を不安にさせた責任は取らねばわなりませんね。」

「ディオンまで!!?」



妙案とばかりに頷き合う皆んな。

なぜ、そうなった!?



「てば、ディア様、ごゆっくり。」

「何を!?」



出て行こうとする皆んなへ手を伸ばすけど、無情にも閉められる寝室の扉。

寝室に残るのは、コクヨウとディオンと私の3人だけ。



「・・何なの?」



呆然とベットの上に座り込む。

どう言う事?



「ディア様、申し訳ありませんでした。私達からのディア様への愛情が少なかったようですね。」

「へ?」

「ディオンの言う通りです。ディア様が不安など一瞬でも感じないぐらい、僕達が愛して差し上げますね?」



私ににじり寄る2人。

身の危険を感じるのは私だけだろうか?



「や、ちょっと、待とう!?」



コクヨウとディオンが側にいなくて、パニックになったよ?

でも、なぜ、私ににじり寄る?

頬を引攣らせる私にディオンが晴れやかな表情で微笑んだ。



「大丈夫です、ディア様。皆んな気を利かせて、私達の事を明日は一日中そっとしておいてくれますよ。」

「っっ、バレてる!?なんか色々と、皆んなにバレてるの!?」



もう半泣きだよ。

フィリアとフィリオにもバレちゃてる感じですか!?

あの子達には、まだ早いから!



「て、違うッ!そんなとじゃなくて、っっ、や、どこ触ってっっ、」



卑猥な手の動きをするディオンに抗議しようとしたら、唇をコクヨウに塞がれる。

なぜ、こうなった!?



「ふぁ、やっ、」



コクヨウとディオンに愛された身体は、敏感に反応する。



「・・嫌?ディア様、本当に嫌ですか?」

「本気でディア様が嫌だと言うなら、このまま止めますよ?」

「っっ、狡い。」



絶対に2人は確信犯だ。

私が2人の事を拒否らないって、分かっているんだから。



「好きです、ディア様。」

「ディア様、愛してます。」

「んっ、私、も、」



好きよりも2人の事を愛してる。

ずっと、これから先も。

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