第40話 閑話:ディオンの過去

ディオンside




私の世界は生まれたその瞬間から、もう終わりを告げていた。

ーー・・そう、残酷にも。



「っっ、おお、ついに生まれたか!」



産屋から聞こえてきた元気な子供の産声に、妖精族の長は普段は寡黙な相好を崩して愛おしい妻の元へと飛んで行く。

ーーー今日と何も変わらぬ、幸せな明日を信じて。



「セリス、良くやった!無事に子供が生まれたのだな。心から礼を言うぞ、セリス!」

「・・・ムググ様。」

「・・?セリス、一体、どうした?」



産屋に駆け込んだ長、ムググは愛おしい妻の悲しげで泣き出しそうな眼差しの意味が最初、全く分からなかった。

・・その理由は、直ぐに知る事となるのだが。



「っっ、なっ、羽が・・。」



ーーなぜ、と、あまりの事に固まり、言葉を無くす。

生まれて来たばかりの自分の赤子の背に、あるはずの羽が片羽だったから。

妖精族は長命だが、出生率が低く子供が生まれにくい。

だから、妖精族は自分や同族の子供をとても大切にするし、愛おしむ。

ーーー・・片羽と言う忌み児と言う例外を除いて。



「っっ、な、なぜ、なんだ。ようやく授かった私達の子供が、よりにもよって片羽なんて。」



声を震わせ、手で顔を覆う。

父親は現実を直視する事が出来なかった。



「っっ、違う、こんな片羽のまがいものなど、決して私とセリス、お前との子などでは無い!!」



・・・そう、蔑視の対象ではない両羽が揃った子供だったなら父は自分の子だと思ってくれたのだろう。

ーーーーそれからの私の人生は、一体、何だったんだろうか。



「・・・・ムググ様、どうかディオンに会って下さいませんか?あの子も父親に会えず、とても寂しがっております。」

「馬鹿な事を言うな、セリス。欠陥品の者などに会う暇など私にはない。」

「っっ、ですが!あの子は、貴方様の血を受け継いだ子供ではないですか!?」

「セリス!!」

「っっ、!」



前だったら向けられはずのない、夫であるムググの鋭い声にセリスが身体を震わせる。



「これから先、2度と欠陥品の事について私の前で話すな。良いな?奴を生かしてやっているだけでも、私の温情だと思いなさい。」



父親から見捨てられ、疎まれる事だけが私の生まれた意味だろうか?



「・・ディオン、ごめんね。」



私の記憶の中の母親の姿は、いつも泣き顔ばかりだった。

泣いて、絶望して。



「私は、ディオン、貴方の事を愛しているわ。」



偽りばかり言い続けた母親。

愛していると口では言いながら、私に決して触れようとしないのはなぜ?



「っっ、貴方は、欠陥品なんかじゃない。」



それは一体、誰に向けて言った言葉だったのか、今でも分からない。

日に日に弱っていった母親が亡くなるのに数年と掛からなかった。



「・・ムググ様、どうして、私へ会いに来てくれないの?」



最後まて、自分たちに背を向け続けた最愛の人を待ちながら。

私に本音を隠し、現実から目を背けた母親の哀れな最後だった。



「・・・ようやく私に跡取りが生まれた。」



数十年ぶりに会った父親は、私に見下すような冷たい眼差しを向ける。

今この時も、私に会う事が不本意だと言わんばかりの顔で。



「・・・跡取り?」

「セリスが亡くなり、新たに後妻を迎えた。その妻が立派な跡取りを生んだのだ。お前みたいな欠陥品ではなくてな。」



ーーーーよって、お前は用済みだ。

そう父親から吐き捨てられたのは、私の存在を否定するもの。

その後、父親によって里から放逐され、外の世界など知らない私は、数年後に奴隷商人に捕まり売られる事となる。



「いっそ、その手で殺してくれ。」



自分の事が不必要だと言うなら、その手で終わらせてくれたら良かったのだ。

なぜ、生かした?



ーーー『私は、ディオン、貴方の事を愛しているわ。』



嘘を吐き。

偽りの愛情で事実から目を逸らした母親。



『ーーーっっ、このままだと、あの人の愛情を私ではない他の誰かに奪われてしまう!』



失う恐怖から逃げる為に。

愛していた。

だからこそ、母は父親から見捨てられるかも知れない真実など見たくなかったのだろう。



『あぁ、ディオンは、あの人と私の愛の証になるはずだったのにっっ、』



今はもう、叶わぬ夢。

私が生まれた事が罪だと言うのなら、いっそ、その手で殺して欲しい。

きつく、瞳を閉じる。

こんな残酷な現実など、見たくなくて。



「・・片羽だが、妖精族だから高く売れるな。せいぜい、稼がせてくれよ?」



心に蓋をする。

きつく心に蓋をすれば、奴隷商人に何を言われても、感じない人形となれた。

ほら、もう私の心は痛まない。



「ーーーー私は、ディア。ねぇ、私の声は聞こえてる?」



心を蓋をし、全てを閉して暗い闇の中にいた私。

そんな時、声が聞こえた。



『ーーー・・・待ってて、貴方の希望を取り戻すから。』



そんな貴方の声が。

ディア様。

貴方に出会えた事が、私の何よりの希望。

奇跡。

そう、信じても良いでしょうか?




名前:ディオン

LV 4

性別:男

年齢:68

種族:妖精族

HP:460/460

MP:930/930

スキル

生活魔法、風魔法

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