第39話 4人目の候補
幸せにしたいと思ったの。
この理不尽な世界で傷ついた、皆んなの事を。
「この場にいる他のお客よりも、ディア様に買われた方が彼も幸せです。絶対に。」
「コクヨウも、私に買われて幸せだって思ってくれている?」
「もちろんです、ディア様!」
即答するコクヨウ。
そこに、なんの躊躇いも、微塵の迷いも見えない。
あるのは、私への揺るぎない絶対の信頼。
「ふふ、コクヨウ、ありがとう。とても嬉しいわ。」
笑みが広がる。
コクヨウが幸せだと思ってくれるって事が、私にとって何よりも嬉しいから。
「僕こそ、見つけてくれて、こうして大切にしてくれてありがとうございます、ディア様。」
「あら、まだまだよ?私はコクヨウが嫌ってくらい、まだまだ可愛がる気だから。」
「・・嬉しいです。」
繋がれた手に、力が込められる。
これから買う全員がコクヨウと同じように、そう思ってくれれば良い。
私と一緒にいて、幸せだ、と。
「さて、そろそろ彼に会いに行きましょうか、コクヨウ。」
「はい、ディア様。」
手を繋いだままコクヨウを連れて、ゆっくりと歩き出す。
彼がいるであろうブース内へ。
「・・・いたわ。」
小さく呟く。
ようやく、見つけた。
今日の4人目の、購入候補をーーーー
『ーーーーディア様、最後の4人目は、片羽の妖精族です。』
足を踏み入れた私とコクヨウの事を、リリスの報告通り片羽の妖精が無感情のまま迎え入れた。
金色の長い髪。
緑色の瞳。
私の視線の先にいる秀麗な容姿の片羽の妖精は、ぴくりとも表情を動かさず椅子に黙って座ったままだ。
まるでーー
「・・・人形のようね。」
誰かの手によって精巧に作られた綺麗な人形のよう。
息をしているのかさえも疑いたくなるほど、微動だにしない妖精族の彼。
こうして、沢山のお客達に見られていても、なんの反応も示さない。
「彼が本当に生きているのか、疑いそうだわ。」
それほどの美。
他者を惹きつける魔性さを、目の前の彼は秘めている。
「ディア様、彼、とても綺麗ですね。さすが妖精族と言うんでしょうか?」
感嘆の吐息をコクヨウが吐き出す。
「えぇ、さすがは、希少種な妖精族。エルフ以上の容姿だわ。」
コクヨウの賛辞に同意する。
エルフよりも希少種である種族なだけあると感心するばかり。
感嘆の溜め息しか出ない。
「ーーーあぁ、いらっしゃいませ、お客様。珍しき、妖精族の奴隷はいかがでしょうか?」
じっと、目の前の片羽の妖精族の彼を見つめていれば、1人の男性がいそいそと私の側に近寄って来る。
「お客様、私は奴隷商人のビルと申します。どうぞ、お見知り置きを。」
どうやら、この人が奴隷商人らしい。
当たり障りなくビルと挨拶を交わし、私はまた視線を妖精族の彼へと向ける。
「我が商品が気になりますか?ああして片羽なのですが、貴重な妖精族ですよ。お客様、良かったら、もっと近くで商品を見て行って下さい。」
「あの、なぜ、彼は片羽なんですか?」
「それが、本人から聞き出したところ、どうやら生まれつき片羽なんだそうですよ。妖精族にとって、羽が損なわれる事は蔑視の対象なんだとかで、住んでいた場所から放逐されてしまったよんなんです。そのまま彷徨い、行き場もお金もなくなって最後には奴隷となったと言うわけです。ささ、お客様、どうぞ、もっとお近くに。」
「えぇ、」
奴隷商人に促され、椅子に座ったままぴくりとも動かない妖精へと近づく。
「こんにちは。」
「・・・。」
無言の彼。
・・ふむ、目に光が無い、か。
覗き込んだ瞳の奥には、何の感情も宿ってはいなかった。
鑑定してみる。
名前:ディオン
LV 4
性別:男
年齢:68
種族:妖精族
HP:460/460
MP:930/930
スキル
生活魔法、風魔法
うぉ、年齢が68歳だよ。
まぁ、エルフや妖精族はとても長命だって聞くから、この年齢はまだ若い方なのかな?
「ーーーー私は、ディア。ねぇ、私の声は聞こえてる?」
「・・・・。」
虚ろな瞳が私の事を見上げる。
その瞳の奥に、やはり感情と呼べるようなものは全く見当たらない。
「・・この瞳、苦手だわ。」
小さく呟く。
昔、あちらの世界の私がしていた目だ。
毎日の様に鏡の中で見ていた。
自分の虚の瞳を。
「貴方、期待する事を止めたのね。この世界の誰も自分を救ってくれないって。」
ただ、彼は心を閉ざしているだけ。
なら、まだ救える。
片方の羽がないと言うだけで、傷付けられてきたこの子を。
「・・・、」
「ふふ、あぁ、良かった、一応は私の声は貴方に届いているのね。」
ピクリと私の声に反応した彼に微笑む。
「苦労したのね、貴方も。」
年齢が68歳だと言うのに、レベルが低いのは、そのせい。
ただ片羽と言うだけで、ずっと彼は周りからろくな世話もされなかったのだろう。
「お客様、どうでしょう?お気に召していただけましたでしょうか?」
「はい、気に入りました。」
「おぉ、ありがとうございます。では、この後にあります競りにご参加下さい。」
「えぇ、そうします。」
この場にいるのも、ここら辺が潮時だろう。
頷いた私は最後にディオンにだけ聞こえるように小さく呟き、嬉しそうな奴隷商人にお礼と別れを告げ、彼がいるブースから離れた。
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