第26話 閑話:コクヨウの過去

コクヨウside




ぼくは、この世界でいらない子なんだ。

生まれた時からそう。

誰からも、ぼくは必要とされない。

実の親からさえ。



「ーーー・・なら、なぜ、この世界にぼくは生まれてきたの?」



そんな意味など知らない。

ただ分かるのは、ぼくが悪い子だって事。



『不吉な黒い瞳ね。」

『汚らわしい。』



誰もが、ぼくの事を見ては顔を歪ませて嫌悪する。

この黒い瞳の事をーー



「・・黒い瞳なんかで生まれてきてごめんなさい。」



自分の黒い瞳が疎ましかった。

どうして、ぼくの瞳の色は皆んなとは違うの?

皆んなと同じ色が良いと願っていた。



『コクヨウ』



ーーー・・ディア様、貴方に出会う、その日までは。

あの日、自分の瞳の色に感謝したんだ。

貴方が暗闇の中にいた僕の事を見つけてくれた理由が、この黒い瞳だったから。



『貴方の瞳の色は、とても綺麗よ。』



信じられた。

ディア様が褒めてくれるから、僕のこの誰からも嫌われた黒い瞳は綺麗なんだと。

貴方の言葉だから心から信じられたんだ。





名無し0才



ぼくが生まれたのは、聖王国の都市から離れた平凡な町だった。

みんな、普通に畑を耕して、平凡に生きてきたけれど・・・。

ある日、ぼくが生まれた瞬間から、少しだけ町の平凡だった日常の生活は変わっていった。



「ひっ、黒い瞳!?」

「な、何で、俺達の子供が黒色を持っているんだ!!?っっ、まさか、お前、魔族とでも浮気したのか!?」

「なっ、あなた何て事を言うの!?そんな訳、ないじゃない!」



生後間もない頃、ぼくの瞳の色が分かった時、両親は罵り合ったそうだ。

ぼくの瞳が、世界中で忌み嫌われる魔族と同じ黒色だったからーーーー

敬虔なニュクス神の信徒だった両親にとって、魔族と同じ黒色を持って生まれてきてしまったぼくは、嫌悪感と増悪を向けるだけの不必要な子供になった。





名無し3才




今日も、ぼくは生きてる。

生きる希望もなく。



「ーーーー・・ほら、お前の今日のご飯よ。有り難く食べなさいよね。」



汚物を見るかの様な眼差しを向ける、ぼくのお母さん。

これで自分の役目は果たしたと言わんばかりに、さっさと戸のドアを閉めてしまう。



「・・ありがとう、お母さん。」



面と向かって言わないよ。

だって、ぼくが話し掛けたら、お母さんの機嫌が、もっと悪くなるから。

お父さんの姿は、あまり見た事がない。

きっと、ぼくの事なんか、見たくなんかないんだ。



「・・・美味しい。」



お母さんから放り投げられたパンの切れ端は、固かったけど、1日ぶりに食べたからとても美味しかったよ。





名無し5才




「さぁ、行こうか。」



ぼくを迎えに来たおじさん。

ーーーー・・どうやら、とうとう、ぼくは両親によって、このおじさんに売られるらしい。

もう、この頃には、ぼくは両親に対して期待する事は止めていた。

だって、どんなに愛して欲しくて手を伸ばしても、ぼくが両親に愛される事は無いと思い知らされていたから。



「大丈夫、怖い事はないから。」

「・・はい。」



素直に頷いて、おじさんの馬車の荷台に乗り込む。

ーーー・・別れの最後になっても、両親がぼくに顔を見せる事はなかった。





名無し14才




あれから、何年もの月日が過ぎ去って、また新しい1日が始まる。

そんな毎日の繰り返し。

黒色は不吉。

畏怖の象徴で魔族の証。



「っっ、やだ、こんな不吉な黒色の奴隷なんて、いらないわ!!」



だから、ここでも誰もが僕の事をいらないと言う。

不吉だと。

黒い瞳を持つ僕の存在を、誰もが怖り険悪した。

だだ唯一、僕の世話を自らしてくれるハビスと言う名の人以外は。



「ーー・・疲れたな。」



生きる事が。

どうして、僕は生まれ、生きているの?

諦めと絶望。

今日も何も変わらない1日で終わるんだろう。

・・・確かに、そのはず、だったんだ。



「ーーねぇ、貴方の名前は?」



その日、何の前触れもなく僕の前に貴方は現れた。

貴方は誰?

どうして誰もが険悪し、嫌う僕の瞳を真っ直ぐに見てくれるの?



「ーーーー・・そう、貴方の名前は、今日からコクヨウにしましょう。私が昔住んでいた所で取れた、宝石の名よ。」



何度も。

言い聞かせるかの様に頬を撫でて、『コクヨウ』が僕の名前だと、何度も貴方は繰り返した。

僕の空っぽの心に染み渡る、何か。

・・これは、何?



「コク、ヨウ・・・・?」



分からない。

けど、確かに僕の心の奥底から湧き上がる何か。

後で知る。

この時、僕の心の奥底で湧き上がったのは、喜びだったのだと。



「私の可愛い子。貴方の瞳の色に相応しい、ぴったりの名前だわ。」



僕の女神様は、何度も名前を呼んで優しく微笑んだ。

・・あぁ、もう死んでも良い。

この人の為になら。



「僕の生まれてきた意味と、生きる理由は、ディア様、貴方です。」



今なら胸を張って言える。

この世界に僕が生まれてきた意味と、生きる理由を。



「ディア様に出会う為に僕は生まれてきた。」



他には何もいらない。

ディア様の為に、僕は生きていく。





名前:コクヨウ

LV1

性別:男

年齢:14

種族:人族

称号:闇に愛されし者

HP:280/280

MP:120/120

スキル

生活魔法

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