第25話 名前と奴隷契約

ふつふつと湧き上がる怒りは、見たこともない彼の両親に対して。

この子が黒い瞳だから?

だから、そんな子は自分達の子供だと認めないって事?



「・・最低な親ね。」



へどが出る。

子供は、親を選べない。

そんな親でも、この子とっては大事なかけがえのない家族なのだ。

例え、どんな理不尽な事を親からされたとしても。



「なら、この子は私が貰うわ。」



もう、返さない。

両親がいらないと言うのであれば、この子の事は私が貰う。



「ハビスさん、私がこの子を買います。」

「っっ、誠ですか?」

「彼を私が買う事に、何か不都合が?」

「・・・いえ、ですが、全員と言いませんが、一部では黒色を不吉と呼ぶ者もいます。お客様に、良くない事態が起きるかも知れません。」



ハビスさんが、懸念の声を上げる。

どうやら、ハビスさんは良い商人のようだ。

利益よりも私の事を考えてくれている。

この子の事も不吉と虐げないで、何やら気にかけてくれているようだし。



「構いません。覚悟は出来てますし、私は簡単に悪意にやられたりしませんから。」



2度目の生で決めたんだ。

もう、悪意に負けるだけのか弱い自分でいる事を止めるって。



「この子は、私が買います。」



上等よ。

こんなあまりにも理不尽な事になど、簡単に負けるものか。



「貴方の事は、私が買うわ。」



漆黒の瞳を覗き込む。



「・・・?」



不思議そうに瞬かれる、漆黒の瞳。



「・・買う?」

「そうよ、貴方の事を私が買うの。そう、ね、まずは貴方の名前から決めましょう。」



名前は大事だ。



「貴方の名前は、・・・」



そっと、目の前の黒色の瞳を見つめながら、その目尻をなぞった。

私は、知っている。

その瞳の奥に宿る世界への絶望、そして、諦めを。

昔の私がそうだったように。



「ーーーー・・そう、貴方の名前は、今日からコクヨウにしましょう。私が昔住んでいた所で取れた、宝石の名よ。」



そんな貴方に、綺麗で高貴な名を。



「コク、ヨウ・・・・?」

「ふふ、今日から、貴方の名前は、コクヨウ

よ。」



黒い瞳だから不吉?

いいえ、その色を誇りながら、堂々と私の側にいれば良いの。



「私の可愛い子。貴方の瞳の色に相応しい、ぴったりの名前だわ。」

「・・・コク、ヨウ、それが、僕の名前。」



何度も同じように名前を繰り返し、言い聞かせれば、目の前の、コクヨウの瞳に強い光が宿った。

優しく、コクヨウの頬を撫で続ける。



「私のコクヨウ。」



今日から大切な私のモノ。

守るべき存在。



「ーーー・・・女神、様。」



頬に触れていた私の手に、コクヨウが甘える様に擦り寄る。



「っっ、」



・・・やだ、なにこの生き物。

この子、めちゃくちゃ可愛いんだけど!

これは、コクヨウが私を主人として認めたって事なのかしら?



「名無し、いえ、コクヨウも、今の様子を見る限り、貴方のお側に侍る方が幸せのようですね。」

「ハビスさん、なら、私にコクヨウを売っていただけますか?」

「もちろんです。すぐに、そのように手配いたします。」



恭しく、ハビスさんが頭を下げる。

その後は、檻から出されたコクヨウの契約がとんとん拍子に話が進み。



「まず、最初に奴隷についてのご説明させていただきます。」



先ほどていた部屋へ戻って来た私は、ハビスさんから奴隷について説明を受ける。

ハビス曰く。



・奴隷は、主人に絶対服従であるが、人の殺害などの指示は受けられない。

・奴隷が犯罪を犯した場合、主人も刑罰を受ける事もある。

・主人の命令を拒絶、又は反抗的な態度を行なった場合、奴隷紋から激痛を与えられてしまう。

・主人は、奴隷の生活、衣、食、住の保障を必ずしなければいけない。

・奴隷は、主人の持ち物であり、財産である為、他者が不当に傷付け、奪う権利は無く、それを行なった者は、犯罪者として刑罰を受ける。

などーーーー。



「あと、奴隷は自分の意思で自決できません。」

「えっ、そうなんですか?」

「はい、奴隷になった事を悲観して自決するのを防ぐ為に、奴隷紋によって禁止されています。」

「なるほど。」



奴隷になりたくてなった子達ばかりではない、と。

親に売られる子も多いのだろう。



「コクヨウ、お客様の良き奴隷となり、心から仕え、側に侍りなさい。」

「・・はい。」

「では、お客様の血で契約書に血判していただき、主人の登録の変更を行います。お客様、血を契約書に血判していだだいてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、構わないわ。」



ハビスさんから渡された小型のナイフで、指先を少しだけ切り、自分の名が書かれた血を流し契約書の紙に血判する。

次の瞬間、淡く光る契約書。

その光が治った契約書の半分を、ハビスさんが私に手渡した。



「これで、主人の登録が全て完了しました。今から、コクヨウの所有者は、お客様となります。この半分の奴隷契約書は、お客様がお持ち下さい。」

「えぇ、ありがとうございます。」



頷き、契約書を受け取る。

ーーーー無事、奴隷のコクヨウを手に入れました。



「コクヨウ、今日からよろしくね?」

「はい、女神様。」


少しだけ、コクヨウの表情が綻ぶ。

それは、小さな変化。

しかし、とても大きな変化だった。

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