第24話 嫌われ者の少年

驚愕するハビスさんに微笑む。



「私は、その子に会いたいのです。ハビスさん、会えますか?」

「ーーっっ、それ、は、」



目を見開き驚きに声を上げたハビスさんが、口を噤んだ。

ハビスさんが黙り込む事数秒。

探るような眼差しで、ハビスさんは私を見つめる。



「・・お客様。」

「はい?」

「本当に、その者にお会いしたいと申されますか?」

「えぇ、出来るなら。」

「分かりました。」



ハビスさんは、連れて来た奴隷の子達を、お茶を運んで来た男性に任せると、私を連れて歩き出す。



「・・・まさか、お客様があの子の事を知っているとは驚きましたよ。」

「驚かせて、申し訳ありません。どうしても、気になったものですから。」

「お客様、何処から噂を聞いのか教えてもらっても?」

「それは、・・・秘密、です。」



馬鹿正直に言えないよ。

このオーヒィンス商会へ、私の放った密偵が入り込んでいるなんて。



「ーーーーさようで、ございますか。是非、知りたかったのですが、・・・残念です。」



あまり残念そうな顔には見えないハビスさん私が連れられて案内されたのは、オーヒィンス商会の奥まった一室の前。



「ーーここで、ございます。」

「その子は、この中に?」

「はい、さようでございます。」



ハビスさんがドアの鍵を施錠し、ゆっくりとノブを回す。

開かれる目の前のドア。



「ーーーーあの子がお客様がお求めの、忌子の名無しですよ。」



開かれた、ドアの向こう。

ーーーー檻の中からこちらを見つめる、一対のがあった。

約100年前。

魔族と連合国の争いで、両者ともにたくさんの犠牲者が出た。

その爪痕は、未だ残っている。

一部で魔族の証である、黒を忌み嫌う人間が未だに残っているように。



「・・・本当に、瞳が黒いわ。」



ぽつりと呟く。

先ほどのリリスからの報告で、この子の存在を知った。

日本では珍しくない黒を持つ子を。

まじまじと、目の前の漆黒の瞳を見つめる。



「ーーーーだ、れ?」



久しぶりに出したかのように、それは、掠れた声だった。

私を真っ直ぐに、じっと見つめる一対の黒い瞳。

図書館の本で見て、私は知っている。

この世界で、魔族以外に人間や他の種族の色彩に黒色が現れないって事を。



「初めまして、私の名前はディア。よろしくね?」

「・・・・。」



無言で檻の中から私を見つめる、目の前の子に微笑む。

が、目の前の子の表情は全く変わらない。

私を無言で見つめるだけ。

その漆黒の瞳の中に、彼の何の感情も窺い知れない。



「ーー・・大変、だったのね。」



この世界は、彼にはとても生きにくかった事だろう。

ただ、魔族と同じ色を持ってしまっただけだというだけの理由で。

それだけの理由で忌み嫌われ、理不尽に迫害される。



「・・僕が悪いから。」

「え?」



僕が悪い・・?

眉根を寄せ、私は首を捻る。



「なぜ、貴方が悪いなんて事を言うの?」

「・・・黒色、は、悪い色だから。そんな色を持つ僕は、悪い子なんです。」

「っっ、」



・・・あぁ、目の前のこの子は、誰からの愛情も知らない。

自分が悪いんだと。

誰からも愛されないって事を諦めてしまっている。



「大丈夫。」

「・・・?」



首を傾げる目の前の子に、私は微笑んだ。



「貴方は何も悪くないわ。」



悪いのは世界。

この世界の理不尽な不条理。

しかし、なぜこの子は黒の色彩を持って生まれてきたのだろうか?





名前:???

LV1

性別:男

年齢:14

種族:人族

称号:闇に愛されし者

HP:280/280

MP:120/120

スキル

生活魔法





すかさず、目の前の子を鑑定してみる。

年齢は14才で、レベルが1。

称号にある、闇に愛されし者って言うのがあるが、もしかしたら、これが原因で黒目なのかしら?

鑑定で詳しく見てみる。




闇に愛されし者

闇の精霊に強く愛され、加護された者にだけ与えられる称号。

この称号を持つものは、闇魔法に強い適性を保持する。




ーーやっぱり。



「・・僕、悪い子、じゃ、ない、の?」

「えぇ、貴方は何も悪くないわ。」

「・・・。」



目の前の漆黒の瞳が揺らぐ。

ただ、少しだけ他の子よりも闇に好かれてしまっただけ。

ただ、それだけの事。



「貴方の瞳の色は、とても綺麗よ。」

「・・綺麗?」

「えぇ、とても綺麗。」



私の世界の色。

懐かしくて、切なくて、嫌いな世界の記憶たち。

捨て切れない思い出。



「ーーねぇ、貴方の名前は?」



檻の中で座り込む男の子の前に屈み、目線に合わせる。

鑑定の結果では、無しだった。

それは、一体なぜ?



「・・名前、」

「うん、教えてくれる?」

「ーーーー名無し、です。」



震えて掠れた声が小さく、そうとだけ悲しげに呟いた。

目を見開く。



「・・・え?名無し?」

「僕の名前は、名無し、なんです。」



目の前の男の子が顔を伏せる。



「ーーーーその子は、その漆黒の瞳の色から周囲から疎まれ、それ故に生まれた時から両親に放置されるように育ちました。」



私の疑問に答えたのは、今まで後ろでずっと黙り込んでいたハビスさんだった。

ハビスさん方へと視線を向ける。



「・・・放置?」

「はい、彼は聖王国の生まれで、両親は敬虔な信徒でした。故に、認めたくなかったのでしょう。自分達の中から、魔族だけが持つ黒色が生まれた事をーーーー」

「・・・だから、彼に名前さえも付けなかった、と・・?」

「えぇ・・。」



・・・何だ、それは。

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