第2話 天使

どうやら、天使と言うのは本当らしい。

こうして証拠を見せられては、天使だと言う話を信じるしかないと納得する。



「ね?僕が天使だって言う事は、本当でしょう?」

「・・・そうね、で?死んだ私を、天使である貴方が迎えに来たって事?」



目の前の瞳が見開かれる。



「・・・ちゃんと認識していたんですね?ご自分が死んだ事を。」

「当たり前でしょう?」



鼻を鳴らす。



「自分の意思で、死ぬ為に校舎の屋上から飛び降りたんだから。」



そう、それで私は死んだ。

終わりにしたの。

あの、悪意と増悪に満ち、奪われるだけの日々から。



「・・・あのー、」

「何?」

「それなら、僕が本物の天使だとご理解していたんでは?」

「まぁ、理解したくは無かったけどね。」



死んだら天使に会った?

なにそれ。

どこのファンタジー小説の中のお話しなんだか。

笑えない。



「うぅ、なのに疑ったんですか?」



酷いです。

そう言い、自分の顔を手で覆いめそめそと、うざったく泣き始める天使。



「ねぇ、うざったいから嘘泣きは止めてくれない?」

「・・・本当、良い性格してますね。」



どっちがよ。

ゆっくりと顔を上げた天使は、もう泣いていなかった。

目元さえ、涙で濡れてさえいない。



「まぁ、良いですけど。」



天使が肩を竦ませる。



「改めまして、天使のリデルと申します。」

「はぁ、どうも。」

「突然ですが、」



そして、目に前の天使は言ったのだ。



「ーーーー人生、リセットしてやり直しませんか?」



と。



「・・リセット?」



胡乱げな眼差しを天使へ向ける。

・・・一体、この天使は何を言っているのだろうか?



「僕の上司、神と呼ばれる存在が貴方の人生を哀れに思い、救済する命を今回、僕が承ったんです。」

「は?救済?」

「はい。」



リデルの顔が翳った。



「貴方の人生を見守っていた神は、どんどん世界に絶望していく事に大変心を痛めておりました。そんな貴方が自らの手で、その人生を終わらせてしまった事を知り、急ぎ僕を派遣したのです。」

「貴方を?」

「はい、貴方の人生のリセットの為に。」

「へぇ~。」



救済、ねえ?

自分の口元が歪む。



「派遣された貴方って頼りなく見えるんだけど?」

「!?」



ショックを受ける天使。



「ごめん、冗談。」

「っっ、うぅうぅ、酷いですよ~」

「ごめん、ごめん。」



べそをかきいじけ出す天使に謝る。



「でもさ、私思うのよ。」

「何をですか?』

「今まで何もしてくれなかった神が、今更ってさ?」



遅くない?

皮肉げにリデルに笑う。



「っっ。」



苦しげに歪む、リデルの顔。

何度も願ってきた。

この地獄のような毎日から助けてほしい、救ってほしいって。



「ふふ、そんな些細な願いも叶えてくれなかった神が、今更私を救うって言うの?」



なのに、現実はどうよ。

救いはあった?



「私の少しくらい皮肉、許してよ。」



願いは、1つ。

ーーーー普通の平穏だった。



「だから今更そんな事を言われてもね。」



簡単に神様だとか天使だとかの話を信用なんか出来ない。



「っっ、すみません!」



頭を下げるリデル。

私は頭を下げるリデルに目を瞬かせた。



「ですが、神と言えど人間界には不用意に手を出せないのです。」

「なら、なんで今?」

「貴方が死んだからですよ。」

「うん?」

「貴方の魂は死んだ事により人間界の輪から外れました。今なら神が何をしようとも、なんの制約に縛られる事なく救済が出来る。そう、貴方の望む人生を与える事さえ、今の神には可能なのです。」



リデルの真剣な目が、私を射抜く。



「神の力で、次は幸福な人生を選べますし、地球の裕福な家庭に生まれ変わり、今まで貴方を虐げていた人達を、いえ、他の人達さえも見返す事も可能ですが、いかがでしょうか?」

「見返す。」



私を見下して、嘲笑ってきた人達を。

拳を握り締める。



「はい、貴方が望む通りの人生を、神の命により僕が与えます。」

「・・・私が望む人生を。」



あぁ、それはなんて、魅力的で。

ーーーーとてつもなく、 私にとって甘美な誘惑なんだろうか。



「それを望むかは、貴方次第です。」



全ては、私次第。



「・・どんな事でも叶うの?』

「はい、貴方が望めば、何でも叶えます。」



リデルが頷く。

ずっと、あいつらに復讐する事だけを考えてきた。

良いだろうか?

もう自分の幸せを考えても。



「ただ、僕にできるのは環境を整えるだけ。」

「その後は、私の行動次第?」

「そうなりますね。」



リデルが頷く。



「貴方が普通に幸せになりたいと望むなら、子供を何よりも大切にしてくれる夫婦の元へ、僕が責任を持って転生させます。」



心が揺らぐ。

ずっと欲しかった家族。

それを、私が望めが叶うとリデルは言う。



「私はーー」



私の本当の願いとは、一体、何なんだろう?

考えた事がある。

私をバカにして見下し、嘲笑っている人達を見返せたら、と。

何度も夢想した。

ーーそれが、叶わぬ夢と知りながら。



「私は、幸せになりたい。」

「はい。」

「愛されたいっっ、」



一人ぼっちは、もう絶対に嫌だ。

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