第1章〜序章編〜

第1話 不思議な場所

そこは、何とも不思議な場所だった。



「・・・ここは?」



気が付いた時には、私は何故かこの不思議な場所に立っていて。

見渡してみても、私以外の人っ子一人いない。

どこまで透明な空間に、草木。

この不思議な光景に、ぽつんと1人で佇んでいた私は、ただ首を傾げるしかなかった。



「私、屋上から飛び降りて・・。」



最後の記憶を辿る。

高校の4階の屋上から飛び降りて、どう考えても自分が無事だとは思えない。

だとしたら、自分は病院に搬送されて治療されて、どうにか生きながらえたか、それとも、そのまま私は死んだのか。



「それにしても・・。」



じっと自分の手、身体を見つめる。

綺麗な手と身体。



「・・怪我の形跡もない。」



自分の身体を見ても、一切の怪我もない。

と言う事は。



「やっぱり私、あのまま死んだ?」



って事なんだろうか?



「なら、一体、ここは何処なの・・?」



死んだはず、何だよね?

例え生きているとしても、私が目覚める場所は病院のベットの上だろうし。

考えられるとしたら・・。



「ははっ、もしかして、ここは死後の世界ってやつ?」



ここは天国か地獄?

乾いた笑いが止まりそうにない。

だって、そうでしょう?



「っっ、やっと、これで楽になれると思ったのに!」



もう、これ以上、何も考えたくなくて、傷付きたくなくて、全てを終わらせたはずなのに、まだ自分自身は消えていない。

拳を握り締める。



「・・どうして、私の事を楽にさせてくれないのよ?」



神様は、私にまだ何をさせたいの?

もう、良いじゃないか。



「っっ、ねぇ、もう十分でしょう!?」



悲痛な声を上げる。

十分、私は人からの悪意に晒されてきたし、耐えてきた。

一体、これ以上何をさせたいのか。



「・・ねぇ、私に、どうしろって言うのよ?」



この何もない、不思議な場所に立ち竦み、途方にくれた。

私は、神を憎む。

ーーーー何1つ、救いを差し伸べてくれなかった神を。



「今更、何なの!?」



宙を睨む。

何度、助けを望んでも、その願いは叶う事はない。

当たり前だ。

神様なんて、この世界にはいないのだから。



‘助けて’



何度、その言葉を叫んだだろう。

その度に絶望する。

自分には、誰の助けなどないんだと。



「っっ、私は、他には何も望んでいないのに!!」



だったら、もう何も期待しない。

望みもしないの。

無駄だと知っているから。



「おや、お待たせ致しましたか?」

「っっ、!?」



不意な後ろから掛けられた声に肩をびくりと跳ね上げる。

慌てて振り向けばーー。



「始めまして。」



ーーーーにっこりと私に微笑む、爽やかイケメン男がいた。

金色の髪。

瞳の色は、優しく綺麗な青。



「・・・・誰?」



胡散臭い笑顔に、無意識に一歩後ろへ下がる足。

警戒心が湧き上がる。



「あれ、僕、怪しいやつだと思われてます?」

「・・・・。」

「ははっ、警戒心が強いのですね?」

「・・・・。」

「はい、調子に乗ってごめんなさい。」



ぺこりと頭を下げるイケメン。

容姿は良いのに、その性格は残念なようだ。



「えーと、」



無言で警戒する私に、困ったように眉を下げ、ぽりぽりと頬をかいたイケメン男は言う。



「ーーーー初めまして、僕は天使です。」



なんて、誰が聞いても馬鹿だと思うような事を真面目な顔で。



「・・・は?」



天使?

思わず唖然と口を開く。

マジマジと目の前の自称天使と言う存在を見つめる。

金色の髪に、青い瞳。

どう見たって、その容姿は日本人ではあり得ない。

だとしたらーー。



「・・あの、さ。」

「はい?」

「・・・その、天使って、本当なの?」



本物しかない。

どんなに、疑わしくても。



「そうですよ?これでも僕、天界の中でも高位の天使なんですから。」



えっへんと胸を張る、自称天使。

残念な事この上ない。

・・黙っていれば、イケメンなのに。

誠に残念な自称天使である。



「え、何で僕から離れるみたいに、後ろに下がるんですか!?」

「・・私、変な人には近付かないと決めているので。」



常識である。

不審者を見る目を向ければ、あわあわする自称天使。

その姿に後退させていた足は止めるが、自称天使への警戒は解かない。



「人、ではありませんが、賢明な判断ですね。」



思わず半目になる。

それは、何?

自分が怪しい人間だって言いたいのか?



「確かに簡単に人を信じる事は、愚かな所業ですからね。貴方が僕の事を警戒されるのも仕方ありません。」



何て1人しみじみと呟き始めてしまう。

急に私の前に現れた自称天使は、怪しさ満点である。



「・・・自分で天使って言う癖に、とても酷い言い様なのね?」



まぁ、嫌いじゃないけど。

胡散臭い笑顔よりは信用が出来る。



「ははは、僕達、天使はたくさんの人間を見て来ましたからね。それだけ人間の醜い一面も知ってしまっているだけです。」

「・・・そうね。」



もしかして私より、他の人間の誰よりも、目の前の天使は人間の本質を知っているのかも知れない。

それは、嫌ってほどに。



「そうだ!そんなに疑うのなら、僕が天使である、その証拠を出しましょう。」

「・・どうやって?」

「ふふ、それはですねーーー」



自称天使が意味深に笑った後、その背中に真っ白な羽根が生えた。

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