第2話 襲来、外国少女
妙なことになったあの日から、二週間。
今日は、俺の通う高校、私立
一クラス四十人前後の七クラス。一学年に三百人ぐらいいるのか。
組み分けは、A~Gまで。A、Bは特進クラスで文系理系に二年から分かれる。C~Eまでは普通。こっちも文系理系分かれるらしいが、今年は文系が多いんだとか。
それから、残るのが専門学校、並びに就職を目指す特殊クラス。
俺は、Bクラス。文系だ。数学とはお友達になれないけども、理科系科目とは同居できるそんな生徒が俺なのさ。
そもそも、数学の数式何ていつ使うんだよ。いや、プログラミングやモデリングとかなら使うらしいけども、証明とかさ。
一回やらかしたのが、問題に出てくるんだから証明されてるって答えた時。担当の数学教師に呼び出された。
いや、仕方ないだろ。数式何て、格ゲーのコンボみたいに複雑で繁雑。あんな物延々と書いてる人間の気が知れない。
「なあ、五稜。聞いたか?」
「あ?何が?」
「何かよ、このクラスに転入生が来るんだと」
「転入生?編入試験って結構難しいって話じゃなかったか?」
「その試験を突破して、しかも特進クラスに来るから、話題にしてるんだろ?」
「お前、その、何言ってんの?的な顔止めろ、腹立つ」
その顔面を掴んでやろうかと、わしゃわしゃしてみせればお調子者は退散していった。
にしても、編入、ね。
確かに、宇田方学園はこの辺の高校の中では進学率も就職率も良い。私立の割に学費も安いし、何でもOBやOGが資金援助してくれてるんだとか。
で、編入の話だ。やっぱり、一定の進学率とかを維持するには生徒の質も必要になるのは当たり前の事だよな。
だからこそ入試に関しても結構難しいし、授業の進行度も特進クラスにもなればかなり早い。一年の時点で、数学が四十ページ近くまで進行してたからな。あの時は、発狂するかと思った。
「おっはよー!かげっちー!」
「ぶっ!?……毎度毎度、その頭を叩く奴はどうにかならないのか、
「えっへへ……ごめんねー、かげっち」
この明らかに馬鹿なのに、テストの成績は良いこいつは
藍色のストレートロングの髪に、着崩さない制服と見た目だけなら大和撫子なのに口を開けば残念。それがこの、美作って女なんだ。
絡みに関しては、去年から。この性格だからな、周りに分け隔てなく接するし、その一環だったか。
「変なこと考えてない?」
「は?いや、別に?」
何故か、美作は俺をジト目で見てくる。何だその、国民的な青狸みたいな目は。俺はあの眼鏡少年みたいにダメじゃない、筈だぞ。きっと。
「ふーん…………あ、そうだ。かげっちは、聞いた?編入生だってよ。しかも、
「まあ、それが前提条件だろうしな。と言うか、美作が頭いいとか言うと、皮肉に聞こえるよな」
「むっ、かげっちはアタシが、そんな嫌味な女だと思ってるのかな?」
「学年で三本の指に入って、尚且つ全国模試でも上位の成績修める奴だしなぁ」
プンスカ怒っちゃいるけども、この似非大和撫子は頭がいい。少なくとも、俺よりは圧倒的に。俺?まあ、テストでも三十番目辺りをウロウロしてる位だな。特別頭も良くないけども、勉強すればある程度取れるそんな頭の出来さ。
それにしても、
「何でこんなに、情報回ってるんだろうな」
「あ、それがね。何でも、外国人って話だよ」
「外国人?留学生、じゃないのか?」
「さあ……でも、スッゴイ美人だって」
「美人ねぇ…………」
「ありゃ?興味ない感じかな?」
「まあな。どうせ、関係無いしクラスメイトになるだけだろ」
そもそも、クラスで話すのが美作かあのお調子者位のもんなんだよな。後は、遠巻きにされてるし、二人組作ってー、は地獄。
といっても、苦労してるかと聞かれたらそれ位だな。高校生活って案外一人でもなんとかなる。部活にも入って無いし。
第一、俺は運動部には入れない。これは、元々中学の頃から決まってたことだし、正直どうしようもない事。
だから俺は、この時暢気に構えていたんだ。外国人の美人ともくれば引く手数多だろうし陽キャ軍団が掻っ攫うだろうって。
始業の時間が近づいてきて美作含めた席を離れた面々が自分の座席に戻ったころ、担任教師がやって来る。
「よーし、席についてるな、お前ら。これから一年担当する、
筋肉質なこの人は、新島先生。担当教科は体育…………じゃなくて、英語。リスニングの外人先生ともペラペラ話せるバイリンガル。
割と当たりな先生だ。厳しいっちゃ、厳しいけども理不尽なことを言ったりやらせたりする人じゃない。冗談を言ったり、教師の立場を笠に着て横暴な事もしない。
マシな一年になりそうだ。
「これから始業式だ、と言いたい所だがな。まずは先に、転入生を紹介する。その為に、早めに教室に顔を見せたからな」
新島先生がそう言えば、クラスがにわかに騒がしくなってきた。
ま、当たり前だわな。噂にもなってたし。
そうして、先生が声を掛けるのは教室の黒板側の入り口。磨りガラスの向こう側には、黄色が見えた。
「…………うん?」
気のせいか、見たことがあるような気がする。幸い、俺の声は周りには聞こえなかったらしいけども…………。
具体的には、二週間ぐらい前。その辺りで見たような気がする。
そして、この嫌な予感は的中した。的中しやがった。
「―――――リズリー・F・レッドガードです、よろしくお願いします」
「…………マジかよ」
野郎どもが色めき立つ中、俺はその見覚えのある金の髪から目を離せない。
金髪をツーサイドアップに纏めて、真っ赤なルビーみたいな瞳は真っ直ぐに俺の目を見返してくる。
あの時の子じゃねえか?というか、何でここに居るんだ?編入生なの?来ちゃった、なの?
いや、落ち着け俺。偶々彼女がこの近所の学校の中でここを選んだだけもかもしれないだろ。うん、そうだ。きっとそう。
そもそも、二週間前にちょっと会っただけだし。中々衝撃的な出会いだったかもしれないけども、それ以上の接触は無かったし、そもそもあの子は病院に搬送されて、俺は救急車の同乗してたお医者に左手の治療してもらってそのまま、警察署の方で事情聴取受けてサヨナラしたし。
よし、QED。大丈夫、大丈夫。俺は冷せ―――――
「先生。私の席はどこですか?」
「ん?……ああ、五稜の後ろが空いてるな。そこに頼む。机と椅子は……五稜、手伝ってやれ」
「…………へ?」
「このクラスに、お前以外の五稜は居ないだろ。何、席が隣になったんだ。レッドガードの手伝いをしてやれ」
「………………………………うす」
フラグった。なんてこった。
席に関して特に規定が無いから窓際一番後ろの席を取ったのが、裏目に出やがった。いや、確かに俺の席の後ろは空いてるけども。アレだ、長方形の左下の角だけ切り取られたみたいな形になってたのさ。
俺が現実逃避している間にも、件の編入生はこっちに歩いてくる。
くそ、入学して初めての注目っぷりだけども、嫌な注目のされ方だ。なんだその、血涙でも流しそうな血走った眼は。やめろ、そんな目で見るんじゃない。
「ゴリョーカゲトラね?」
「…………おう、っとせんせー、机って今取り行きますかね?」
「ん?いや、式が終わった後に取りに行ってこい。特別教室棟の空き教室からな」
「うっす」
…………いやちょっと待て。この間どうするんだ?彼女立たせっぱなしにするのか?ダメじゃね?
「あー……レッドガードさん?立ちっぱなしも、どうかと思うし、この椅子使いな」
「あら、良いの?」
「まあ…………良いっすよね、せんせー」
「お前が良いならな」
「という訳で、この椅子どうぞ」
「優しいのね、カゲトラって」
「ッ」
そんな蠱惑的に微笑まないでもらえますかね。いや、本当。周りの目も凄いし、耳まで真っ赤になりそうなんだけど。
「…………」
だから気付かなかった。嫉妬の視線の中に、別種の視線が俺に向けられている事に。
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