第14話 公爵令息エリオット・フレインの疑問
公爵家に通されてお茶を出されてしばらく待っていると、アレンに手を引かれてエリザベートが戻ってきた。
アレンは憮然とした表情で、エリザベートはいつもの無表情を少しだけ戸惑い気味にしながらも「お騒がせいたしました」と公爵夫妻に頭を下げた。
どうやら、アレンはエリザベートを説得できたらしい。エリオットは胸を撫でおろした。
「それで、皆様は何故我が家に?」
アレンと共にソファに腰掛けたエリザベートが問うた。
「ああ。エリザベート嬢の様子を見に来たんだが、この後、バークス男爵家を訪ねようと思っている」
バークス男爵家の名前を聞くと、エリザベートは少し眉をしかめた。
「ミリア嬢から事情を聞いて、二度とエリザベート嬢に手出ししないように言い含めるので、安心してくれ」
「ええ。……いえ、ミリア嬢に会うのであれば、わたくしもお連れください」
エリザベートがそう言ってすっくと立ち上がった。
エリオット達はぎょっとした。
「馬鹿を言うな。エリザベート嬢がミリア嬢に会うのは危険だ」
代表して、エリオットが反対した。
また何をされるかわからない。ミリアの目的がわかるまでは、用心するに越したことはない。
だが、エリザベートは強いまなざしでエリオットを見据えた。
「ミリア嬢が殿下に何を要求するつもりだったのか。わたくしは知らなくてはなりません。わたくしを盾にしてでも殿下に聞いてもらいたいという望みがなんなのか、殿下の婚約者として知らずにいるわけにはまいりません」
すっかりいつもの凛とした公爵令嬢に戻ったエリザベートがそう主張する。エリオット達は顔を見合わせた。
「それに、出来ればスカーレット嬢とお話してみたいと思います」
「え?」
「完璧な淑女と、以前から名高い方ですもの。ミリア嬢に捕まった時に助けていただいた礼もしなくては」
エリザベートはそう言い張って譲らず、結局、共にバークス男爵家を訪ねることになった。
エリオットとクラウス、ガイは乗ってきた馬車に乗り、アレンはエリザベートと共に公爵家の馬車に乗り込んだ。
「……こう言ってはなんだが、アレンにエリザベート嬢を説得出来るとは思わなかった」
エリオットが馬車の中でそう漏らすと、クラウスとガイは呆れたように肩をすくめた。二人の態度にむっとして、エリオットは食ってかかる。
「だって、普段からあんなに不仲なんだぞ。それなのに……」
「はあ〜、エリオットは本当に男女のことに無知だよなぁ」
脳筋のガイにそう嘆かれて、エリオットは眉を跳ね上げた。
「はあ!?」
「アレンを見てたらわかるだろう?本気でエリザベート嬢を嫌っているわけじゃないって」
クラウスもガイに同意する。エリオットは納得がいかず口を尖らせた。
「だって、アレンは常にエリザベート嬢に対する愚痴ばかりじゃないか」
「だから、それは本心の裏返しなんだって!」
「冷酷、だの、可愛いげがない、だのってのは、要するに「俺に可愛いところを見せて欲しい」って意味だぞ」
クラウスとガイはあれこれと解説してくれたが、エリオットは些かも納得いかずにふくれっ面で黙り込んだ。その子供みたいな態度に呆れ笑いをして、クラウスが言った。
「まあ、エリオットにもいつか気になる女性が現れたら、わかるかもな」
その瞬間、何故だかふっとスカーレットの菫色の瞳が思い出されて、エリオットは一人で首を傾げた。
馬車が男爵家に辿り着き、車寄せに馬車を停めたところで、ミリアの叫び声が辺りに響き渡った。
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