第4話 王太子アレン・ハッターツェルグの困惑
あれはいったい何だったのだろう。
一晩経っても答えが出ずに、エリオットは鈍く痛む頭を抱えたまま登校した。
いくら考えても、男爵令嬢が公爵令嬢のスカートをめくろうとした理由がわからない。目的は何だ。
いつものように生徒会室へ入ると、他の四人も既に来ていた。
エリザベートは普段と変わらず窓辺に佇んでいるが、こちらに背を向けているため表情は窺えない。男達は気まずげに目を見交わし合った。
「……昨日のことだが」
アレンが口火を切った。
「あれは……いったい何だったんだ?」
その質問に、誰も答えることが出来なかった。
アレンは沈鬱な表情でこめかみを押さえた。
「ミリア・バークス男爵令嬢は、何故エリザベートのパンツをめくろうと……」
「スカートですっ!!」
振り返らないまま、エリザベートが力強く訂正した。そこは重要だ。世界が変わってしまうので。
「……スカートをめくろうとしたのだろう?」
エリオットもガイもクラウスも、何も言えずに口を噤んだ。彼らの表情に、昨日まで浮かんでいた余裕はない。
彼らは男爵家の令嬢が身の程知らずにも王太子妃の座を狙って醜態を晒すのを薄笑いで見物してやろうぐらいの浅はかな考えしかしていなかった。どんな媚びを売ってくるのか、甘えてすり寄ってくるのかはたまた色仕掛けでもするつもりか。
幾通りもの可能性を考えていたはずなのに、彼らの予想はことごとく裏切られた。
「……誰だ?甘えて媚びてくるとか言ったのは?媚びるどころか脅迫されたんだぞ」
「申し訳ありません、殿下……」
「まさか王太子である私の婚約者のパンツ……スカートをめくろうとしてくる輩がこの学園に存在するとは……」
婚約者がいるにも関わらず、見目の良い王太子であるアレンに言い寄ってくる令嬢はこれまでにも掃いて捨てるほどいた。だが、婚約者のパ……スカートをめくると脅してくる令嬢はいなかった。初めての体験だ。
「ミリア嬢の目的は何だったんだ?我々は思い違いをしていた。彼女は王太子妃の座を狙っている訳ではないようだ」
公爵令嬢のスカートをめくるような娘が王太子妃になれる訳がない。そんなことはミリアにもわかっているはずだ。
「何かわかることはあるか?ガイ、どうだ」
「そうですね……一つ、言えることは」
アレンに尋ねられて、昨日の出来事を思い出すように目を閉じたガイは確信を得た口調で言った。
「あの踏み込みの速度と的確に急所を突いた鋭さ……スカーレット嬢はただ者ではありません!」
「そういうことを聞きたかったのではない!」
騎士団長の令息ガイ・チェンストンは脳筋であった。
「ええい!ミリア嬢の目的がわからない!その姉の淑女の鑑がタックル名人だとわかっただけだ!」
アレンは苛立たしげにダークブロンドの髪をかき上げた。
「とにかく、ミリア嬢が何を企んでいるのか調べよう。俺がスカーレット嬢に話を聞いてくる」
アレンの肩を叩いて宥めながら、エリオットは言った。
「いいのか?エリオット」
「ああ。彼女が義妹と言い合っているのを聞いたのは俺だからな」
あの時、ミリアの発言をきちんと問いつめていれば、エリザベートはあんな目には遭わなかったかもしれない。
エリオットは自らの怠慢を悔いていた。王太子の側近候補としてあらゆる危険の芽を摘むのがエリオットの役目だ。
「では、私達も一緒に……」
「いや、クラウスにもガイにも婚約者がいるだろう。俺には婚約者がいない。めくるスカートがなければミリア嬢も手が出せないだろう」
自分でもちょっとおかしなことを言っているような気もするが、エリオットは仲間達を安心させるために微笑んだ。
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