1-22 ネコと縞パン

『おはようございます お客様。ご気分はいかがですか?』


 ステラの呼びかけで目を覚ます。この会話はいつもの朝だ。BGMはゴブリン共の叫び声なのが残念だが。連中はまだこのコテージの周りを包囲している。いい加減諦めて、本体に合流するかと思ったが動く気配はない。だが気になっていた1000体以上の部隊は昨日中にコージの知らない本当の本隊と合流しプレネスを包囲しているとは知らなかった。


『おはよう ステラ。大丈夫だよ。体調の問題ないよ』いつもの返答をした。こうして気を配ってもらえることが嬉しい。

たとえ実体がない相手でも。ステラがいなければこの世界での孤独に耐えられたか怪しいところだった。こう見えても俺のメンタルはトーフ並みに弱いのだ。

『そろそろ リーザ様が目を覚まします。3Dスキャンで手術の成功は確認しましたので、実際に動かして確認してください』

俺はベット代わりに寝ているソファーから立ち上がって寝室に向かった。


「おはよう リーザ 気分はどうだい?」今日も出来るだけさわやかに、不安を与えないよう笑顔で声をかけた。

昨日欠損していた肢体の再生手術を行い、無事に済んだことは3Dスキャンで確認していた。


「うっ・・・・ おはようございます。はい すごく気分がいいです」

 彼女は少しはにかみながら笑顔で答えた。少しだけ猫耳がぴくぴくと動いた。嬉しい時の感情表現なのだろうか?

「それは良かった。早速 手と足を動かしてみようか」


 彼女は目を大きく開いて失ったはずの手を見て そして脚を見た。目から大粒の涙が溢れ出してきた。

「うそ・・・・」

「嘘じゃないよ。まずは手の指を動かしてみてくれないか」

泣きじゃくりながら再生された左腕を天井に向け小指から一本ずつ曲げて伸ばしてをしている。

「今度は足を動かしてみて」泣きながら頷いてまずは足首から順に動作を確認していった。

「うごきます・・・うごきます・・・・」後は言葉にならなかった。ただ泣きながら何度も取り戻した手足を動かしながら繰り返し言い続けた。


「大丈夫なようだね。今度はベットから出て立ってみようか」

少したって泣き止んだ頃合いで声をかけた。促されるとリーザは腰の横に手を突き上半身を起こした。


 ここで服を着せていないことに気が付いた。猫人族といっても体つきはほとんど人族と同じだ。

ベットに寝かせていた時は生きるか死ぬかだったし、身体欠損が気になって無意識に目を背けていたので気にならなかったが、こうして完治して普通に振る舞われると、改めてこの子はまだ子供だった事に気が付いた。


 思わず目を逸らして横に置いておいたタオルケットを渡した。

「これで体隠して」

キョトンとした顔をして何で?という顔をしている。

「ひょっとして猫人族は服を着ないの?」

「いえ 普通に着ますよ」

「だったらお願いします。頼むからこれで体隠してください」


 ダメだ。セクハラPTSDが発症してしまいそうだ。女性の無防備な瞬間をたまたま目撃しただけでセクハラ男のレッテルを貼られてしまうあの恐怖。骨の髄までしみ込んだこの社畜根性が異世界でも引きずるとは。ましてや相手は幼女。立派な犯罪者になりかねない。


「神様に見られても気にならないですけど」

「神様じゃねぇよ 単なるおっさんだ」

 もういい諦めた。15歳に見られなくても。このままおっさんで通してやる。年齢って見た目と自分の意識で決まるってことに今気が付いた。今更もう遅いけど。リーザはなんか納得いってない顔をしている。ここは一つ納得してくれ。頼むから。


『ステラ リーザに何か着せる物を作れるか?』

『かしこまりました。下着はこの世界の服飾のデータがないため地球世界のデータを元に作成いたします。上着とパンツ・ブーツ・グローブ・ベルト・靴下はお客様と同型同色サイズ違いで作成いたします』

『Tシャツだけは白に変更してくれ。後しっぽの穴は一度着てみてから本人に相談だな』


 今の服装は黒のTシャツにオリーブグリーンのカーゴパンツを同色のタクティカルベルトで吊っている。コンバットブーツとグローブは黒の皮製だ。

4つの魔方陣が出現しどんどんと服ができていく。


「何ですか?これは」リーザが驚きを隠しきれていない。しっぽがピンと立っている。

「まあ 気にしないでくれ。そのうち説明するよ」世の中には知らない方が良い事ってままあるからな。


 こうして出来上がった服をタオルケットで体を隠したリーザに渡した。

「これを着てくれ。着替え分は後で作っておくから」

「ありがとうございます」リーザは出来上がったばかりの服を受け取り、ごそごそと広げて確認している。


「あのー これどうやって着るのですか?」


目の前に突き出されたのは水色の縞パンツ(横紐タイプ)だった。


『ステラ これは?』

『はい 地球世界ではしっぽ穴の開いたタイプの下着は無かったのでしっぽの位置が下着にかからないタイプの物を選択しました。何か問題がございましたでしょうか?』


・・・・・・・

いや ない。でも ナイスチョイス。

いやいや イヤラシけしからん。

ただ まあ 今は仕方ない。緊急避難的選択だ。故に俺は無罪だ。

下着を付けさせないのは児童虐待になりそうだから仕方ない。

まっ下着類は、そのうち大きな街の服屋で買い揃え直そう。


目を逸らしながら

「それはリボンの付いている方が前だ」ごそごそと動いている音がする

「これは何ですか?」手に持っているのはハーフキャミソールだ。

「それは頭から被って着るんだ。胸を保護する下着だ」


 そう説明すると目の前で被りだした。ちらりと胸の先っぽが見えた。ラッキースケベってやつか?イカン 何ときめいているんだ?やばいだろ。・・・・ひょつとして15歳の体に感情が引きずられているのか?変態おじさんと後ろ指刺され、ご近所様にひそひそと噂され、道を尋ねて声をかけると事案扱いされるのは御免だ。


そもそもこの世界には下着は無いのか?流石にそれはないだろう。

『この世界、現時点では女児用の下着は人族だけが着用しています。多分 リーザ様は着用した経験が無いのでしょう』

なるほど。獣人族全てがそうかは分からないが生活レベルが違うんだろうな。まっその辺はオイオイ話してくれるだろう。


「これで大丈夫でしょうか?」

ステラとの会話に気を取られて不意を突かれて声かけられ思わず振り向いた。


「うぉっ・・・」

そこには縞パンとおそろいのハーフキャミを着けたリーザが立っていた。ヤバい 可愛すぎる。思わず目を逸らしながら

「それでいいよ。早く残りも着てくれ。それ着たらご飯を食べよう」


「はい♡」ご飯に思いっきり食いついた。猫まっしぐらだな。


Tシャツを頭から被り、カーゴパンツを履くまでは問題なかったがタクティカルベルトとブーツだけは分からなかったようなので手伝った。

「少し動いてみてくれ。着心地に問題ないか?」

「しっぽ穴を開けて欲しいです」よく見ると長めのしっぽが右足に入っているのが分かった。


『お尻を触って尻尾の根本の位置を特定してください。指先を穴の中心においてください。そこを中心に穴あけ加工します』

ステラが補正してくれるらしい。スゲーなファブリケーター。本当に何でもできる。


「分かった 後ろを向いてくれ。位置を確認するから触るぞ」


「尻尾の根元に触れたら教えてくれ。そこを中心にしっぽ穴開けるから」

背骨から指を降ろし腰下辺りに差し掛かった時


「にゃっ♡」と可愛い声がした。ヤバい 本当にドキドキする。

「ここでいい?」

「はい そこを中心に開けてください」

「じゃ一度脱いで。加工するから」

目の前でずっさっという感じでカーゴパンツを下す。少しだけ温かい、それを受け取るとスット言う感じで違う空間へと消えて行った。

また次の瞬間には再度出現し目を大きく見開いているリーザに渡す。


「履いてみて。引っ掛かる様ならもう一度修正するから」

驚きのあまり声が出ないがコクコクとうなずきおもむろに履きはじめる。

「どう?問題ない?」

少しかがんだり、足を動かして着心地を確かめている。

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」ペコリと頭を下げた。


「じゃご飯にするか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る