1-21 プレネス襲撃 午後

「まずい! 全員で正門周辺の魔獣を排除しろ」騎士団の事務所内に聞こえるよう大声で叫んだ。


「他の2か所の門と鉱山門が閉じたか確認して来てくれ」従卒に指示を出すと、腰の片手剣を引き抜き、正門へ向かって走り出した。


「おい 何が起きたんだ」副団長が怒鳴りながら騎士団の前の広場に出てきた。そこをものすごい勢いで飛び掛かったフォレストウルフが副団長の喉笛を引き千切った。その顔は何が起きたか分からぬまま大きく目を見開いたて事切れた。


「くそっ」後に続いて出てきた団員達によってフォレストウルフは殺されたが、動揺が伝わった。

 戦闘中に本部から出てきたヒーラーが副団長を治療しようとしていたが俺の方を見て首を横に振った。


「副団長の部隊は先任のアンセストが指揮を取れ。まずは土魔法で正門を塞ぐ。エルマリオ、オットー お前達はそれぞれ班を率いて魔導士隊を護衛しろ」

「「はっ」」

「アンセストの部隊は防壁内に侵入したフォレストウルフの掃討だ」

「はっ」

「残りの班は防壁上で迎撃。これ以上の侵入を許すな」

「「「「はっ」」」」


その場に集まったフィロッコとアンセンストの部隊員約150人が力強く返答した。


 この時点で既に正門を50頭以上がくぐり抜けていて門の外ではフォレストウルフが渋滞していた。

くぐり抜けて来たフォレストウルフは広場にいた民間人を無差別に襲いだし逃げ惑う人々によって防壁内は混乱しつつあった。

フォレストウルフ達は倒した人間に止めを刺したり、食べたりせずひたすら襲撃と殺戮を繰り返した。


 瞬く間に広場には流れ出た血と引き裂かれた肉と死の匂いが漂い始め、叫び声と喚き声、鳴き声が舞台の臨場感を高めた。

舞台の名は地獄絵図。 昼下がりの平和な田舎町が一瞬にして戦場になった場面だった。

 

 フォレストウルフ達は何者かに指揮された部隊のように1つの意志の元、整然と戦闘を続けていた。それはよく知られる魔獣のフォレストウルフとは思えない動きだった。


 更に外にいた残りのフォレストウルフ達は、先ほど衝突した荷馬車の残骸が扉に対して斜めに乗り上げるようになっているのを見てそこを踏み台にして防壁上に飛び込んできた。防壁上にいた団員達はフォレストウルフ達の行動に不意を衝かれ一瞬でその命を狩られた。


駆け付けたフィロッコ隊50名がフォレストウルフ達を正門付近から排除しようとするが魔物たちは避けるようにすり抜け広場から居住区方面へ散っていった。後はアンセスト隊に任せるしかない。


「ターナー 扉の内側を土魔法で補強して穴をふさいでくれ」

「任された」素早く地面に手を着きながら詠唱をはじめると魔法が発動した。周囲の土を集め扉の内側にあっという間に小山を築き上げた。


「よし 防壁上に展開して侵入してくる敵を迎撃するぞ。魔導士隊と弓師隊は物見塔から地上にいる魔物どもを始末してくれ」

「「「「はっ」」」」


 フィロッコ達が防壁上に展開しようと内部の階段を通り外に出たところでロングソードを持ったゴブリンライダーと鉢合わせた。

思わず持っていたロングソードを前に突き出すと走ってきた勢いを殺しきれず鎧を付けていないゴブリンの柔らかい腹に突き刺さった。

そのままゴブリンの下腹部を蹴り飛ばし防壁上から突き落とした。


そこからはまるで決闘のようになった。狭い防壁上では大人数では戦えない。まるで決闘のように一対一で戦う羽目になった。ゴブリン達はフォレストウルフ達が踏み台にした馬車を利用し踏み台にして、この5mの防壁に上ってきていた。部下たちが一当て二当てすると交代する戦い方で損害を抑えながらゴブリン共の足を止めた。後ろから登ってきているゴブリン共は物見塔からの弓撃で増援を送り込むことができなくなっている。


「ターナー 誰かに外の足場を焼かせてくれ」俺は怒鳴るように指示を出した。

しばらくして防壁の外へ向かって大きな火の玉が打ち出され足場の周りにいたゴブリンともども焼かれた。

程なく防壁上のゴブリン共も一掃された。更に複数発の火の玉が正門前をうろついていたゴブリン共を死体に変えていった。


「けが人はいるか」息を整えながら声をかけた。周りを見渡すといくつかの部下の死体と数人のけが人が出ていたが取り敢えず正門は守り切った。

まずは死体を降ろすか。この後の段取りと後始末に思案を巡らせ始めたところ物見塔からの声でまだ、終わりではない事を知った。


「後方にいたゴブリン共が速度を上げて接近しつつあります。数は分かりません。見渡す限りのゴブリンです」

部下たちは茫然自失の状態だった。これで選択肢は籠城だけになった。


「救援の狼煙を上げろ」

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