1-19 光の先には

エンマリアの乗る馬車は猛スピードで森を抜け荒野に出た。

暗い森から抜けた先には光があふれて目に刺さるほど痛かった。


 この辺りからだと、今のままで2頭立ての荷馬車が全力で走ると1刻(約1時間弱)でプレネスへたどり着く。さっきのゴブリン共の速度を考えたら減速しても何とか逃げ切れそうだが念のため速度を維持することにした。


「だんな様 馬達がへばってきています。このままじゃプレネスに着く前にダメになってしまいますぜ」御者の男が根を上げてきた。もうここまで離せば大丈夫だろう。

「よし 少し速度を落とせ。フェルフォ警戒は続けろ」

「分かりやした エンマリアさん。 おい冒険者ども馬車の上に出て周囲を警戒しろ」フェルフォが護衛のパーティーに指示を出し自分も荷馬車から身を乗り出した。もう少しでプレネスが見えるはずだ。


 今回も賭けに勝った。

 

 そう思うと肩の力を抜いて深く席に座りなおした。プレネスの入り口で衛視にゴブリンの群れが近づいていることを知らせれば、後は領軍が始末してくれる。落ち着くまでは中で商売に励むとするか。そんな事を取り留めもなく考えていた。


ふと 空を見上げた。

「今日も暑いな」誰に話す訳でもなく口に出した。後1/3刻ほどで着くだろう。


「何か土煙がすごくないか?」

「おい どうした?」

「魔の森の方にすごい土煙が上がってるでさ」


進行方向右手に地上に落ちた雲のように広範囲に大きな土煙が立っていた。中から大きな地響きが聞こえてくる。


「何だありゃ?」フェルフォが目の上に手を掲げ日陰を作りながら目を細めてその正体を見極めようとしていた。


その時だった。2台目の馬車から何かの叫び声が聞こえた。


ひっひっっっんんん 馬の悲鳴が重なるように響いた。


皆が振り返るとそこには大きな魔獣であるフォレストウルフに騎乗したゴブリンの集団が2台目の馬車を襲撃した瞬間だった。

数匹の狼が走行中の馬の首に喰いつき引き倒そうとしていた。また別の数頭がゴブリンを乗せたまま荷台に飛び乗り商品の奴隷に切りかかっていた。奴隷たちは鎖でつながれているので逃げることができず、ただ切り付けられ、噛みつかれ生きたままフォレストウルフとゴブリンに喰われていった。最初の襲撃から逃れた護衛の冒険者も武器を構える時間を与えられず数頭のフォレストウルフに同時に噛みつかれ内臓をまき散らしながら絶命していった。


後ろを見ると更に50頭以上がこの馬車を狙って追走してきている。

「どこから来やがったんだ こいつら」フェルフォは茫然としていた。

忽然と現れたその集団に死の危険を感じていた。

実際これらの集団は死角になる小高い場所やえぐれた土に身を伏せて待ち伏せしていたのだった。


「荷物を捨てろ!」とっさにエンマリアはフェルフォに命じた。

頷いたフェルフォは何の躊躇もなく荷台にいた10人の奴隷たちを落としていった。全力で走っているので速度は40ミーリ/刻(地球世界で45kmほど)出ている。この速度で落とされると大けがするのは間違いない。


「怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ」何語か分からないが呪いじみた言葉を叫びながら落とされた奴隷達は落ちた衝撃で動けなくなっていたところをフォレストウルフやゴブリンに襲われていった。


フェルフォは呆然としている護衛パーティーのローラウスの腹にケリを入れた。

不意をつかれて思わず腹を抑え上半身をかがめたところを「お前も降りろ」後ろから蹴飛ばし荷台から落とした。


その時、1頭のひと際大きな体躯のフォレストウルフが静止した。

大きな叫び声を上げ、その後騎乗していたゴブリンが更に大きな叫び声をあげた。


落ちた奴隷たちや倒した馬をを食べていたフォレストウルフやゴブリン達は食事をやめ、また騎乗すると群れに合流していった。こうして総勢100頭以上のゴブリンライダー達はエンマリアの馬車を囲むような位置取りで並走していった。


「何が起きてるんだ?」エンマリアはフェルフォと御者に聞いてみた。

「ひょっとして助かるのか?」フェルフォは確信はないがこのゴブリンライダー達は俺たちを襲わない気がしてきた。どんな意図があるかは分からないが。


「このまま入り口で止まらずに突っ切れ」


遠くにプレネスの入り口が見えてきた。いつものように出入りする荷馬車で混雑しているようだった。


「へい」御者はこれ以上鞭を入れると馬が2度と使い物にならないことは分かっていたが、それでも自分が生きるために敢えて鞭を入れた。


並走するフォレストウルフたちの呼吸音が妙に大きく聞こえた。

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