1-14 再生

うぉおおおおおおおおおおおおおおおお


俺は大声で叫びながら後ろを振り返らずに全力で必死に走った。


『この先 左方向 広場が見えます。目的地まで100mです』カーナビっぽくステラがナビゲートする。ARで左側に大きな矢印が出てきた。このタイミングでこのギャグ。むむむ 流石できる女は違うな。少し精神的に余裕が出てきた。


広場が見えてきた。真ん中まで走るとディメンションストレージからコテージを出して設置し、ドアを開け入ってすぐの土間に亜人を寝かせた。


『すぐに防壁を作ります。コテージを中心に半径5mの円周に高さ4m厚さ1.5mの土壁を生成します。「フェラフォス フィフォス」』


コテージを中心に魔法陣が出現し円周に沿って8つの小さめの魔法陣が土壁に沿うように現れた。淡い光を放ちながらグルグルと円周に沿って回りだし徐々に壁が生成してくる。ゴブリンの先頭が広場入り口まで来た。まだ壁の高さは1mにも満たない。


『大丈夫です。まだ慌てる時ではありません』


それでも少し不安になってディメンションストレージからマキシムカービンを取り出して狙いを付けた。この時1.5m。既に壁に取り付きかかってる。


『フラッシュバン!』ステラの声に条件反射的にディメンションストレージから閃光音響手榴弾Mk13もどきを取り出し安全ピンを抜いて壁越しに投げ、屈んで耳をふさいだ。一瞬壁の向こうからものすごい音と光が聞こえ、頭がふらついた。こちらからは既に見えないがゴブリン達も無事では済むまい。


その間も魔法陣は動き続け落ち着いた頃には4mの高さに壁ができていた。

『まだ 終わってはいません。壁に硬化と攻性防壁の術式を付与します』両手を出来立ての壁に付けステラがトリガーワードを詠唱する。これで一安心できるか。壁にもたれかかるように座り込み探査術を使う。この家の周りには大体100匹前後いるようだが、奴らの本隊1000匹以上は町の方角へ向かっている。壁を攻撃しているようだが攻性結界の雷撃に阻まれてダメージを受けているようだ。ここからは持久戦だ。


『次は亜人の子か。可能な限り助けよう。ステラ指示を頼む』

『かしこまりました。全力で対応させて頂きます』ここからは俺はステラの助手に徹するつもりだ。


『まずはハイポーションを1本口から飲ませてください。これで少しは持ち直します。次に衣服を全て剥がしてクリーンをかけて、その上で防水布を引いてベットに寝かせてください。そのままベット上を拡張仮想ディメンションストレージとしてバイオプリンティングによる手術を行います』


 ステラの指示通りにする。ディメンションストレージから取り出したハイポーションを少しずつ口から流し込む。その後ぼろぼろの貫頭衣を破き捨てクリーンをかけて洗浄した。身体全体から発していたひどい匂いは収まったが、腐敗した部分の匂いは残っている。


 身長は140cm位 体重は下手したら30kgない位か栄養状態も悪そうだ。身体の1/3位にケロイド状のやけどの跡がある。耳としっぽがあるところから亜人であることは分かった。胸にはやけどで良く見えないが魔方陣の入れ墨っぽい物がある。


「鑑定」 

名前:リーザ 

奴隷 所有者:なし

 種族:猫人族

 年齢:12歳

 性別:女

 LV 18

 HP(生命力):566/1885

 MP(魔力) :60/160

【スキル】

  格闘術:LV3

  短剣術:LV2

  探知術:LV2

  隠密術:LV2

  身体強化:LV3

  


首輪がされていた。スキャンすると”隷属の首輪”とあり所有者名が空欄になっていた。

『ステラ この首輪このまま外すとまずいか?』

『はい。このまま外しますと体に刻まれた奴隷紋から痛みを与える恐れがあります。所有者である奴隷商が手放したことで所有者無しになっていますが、念のため首輪を無効化することを推奨いたします。体の奴隷紋はこの健康状態で悪影響を与えることは推奨致しかねますので今はそのままにしておくことを推奨いたします。この首輪を無効化する際には、付与魔法の強制魔力術式介入:効力無効化を実行してください』


「了解 強制魔力術式介入 」隷属の首輪を左手で持ち、右手を小さく書かれた魔方陣に添えて詠唱した。小さな魔方陣が上書きするように現れた 更に 効力無効化 と詠唱すると 一瞬ぼんやりと白く光り首輪が外れた。その後ベットに防水布を引きクリーンをかけ、その小さな体を横たえた。


『次は全身にスキャン 診断モードをかけてください。多分全身のやけど、左腕、右足欠損の他にも問題があるはずです』


「スキャン 診断モード」彼女の寝かされたの下に魔方陣が現れると、ARで目の前で少女の体がCTスキャンっぽく表示され次々と病名が表示される。


内臓系の疾患がありすぎて多臓器不全状態になっていた。腎不全・重症感染症が特にひどい。多分大けがをした後、ろくに手当てもされないまま細菌が入り込んで重症化したようだ。


外傷も酷い。2か所の欠損の他に体の1/3にやけどがある。声が出ないのはやけどのせいだった。よく生きていたなというのが本心だ。


『ファブリケーターで重症感染症用の薬を作りマイクロナノマシンで投与しましょう。これで落ち着いたら次は緊急度の高い腎臓に再生魔法をかけ正常化させます。その後他の臓器と声帯を順々に再生し、その間に欠損した腕と足の細胞、皮膚を培養し、増やした細胞を使って最後にファブリケーターで直接体に再生させます。その後はある程度、療養が必要になると思われます』

『これから作る薬って猫人族にも効くの?』

『問題ございません。ファブリケーターは種族を問わず一度生体データを取り込んでしまえば近似の生物のデータを基に解析しますので対応可能です』


さすが2200年製のプリンター 製薬までできるとは凄すぎる。3Dスキャナーは病気の診断までできるし医者の機能まで内包しているとは。科学雑誌の記事で22世紀までにはできるであろう医療技術を読んだことはあるので概念は既に2020年にはあった事は知っている。だからファブリケーターで使えるのか。再生魔法とこのファブリケーターの治療の違いって何だろう。後でステラに聞いてみよう。


ARが目の前に現れ重症感染症の薬ができたこと表示した。次に小さな魔方陣が現れ大き目の注射器が出てきた。少女の方を見るとAR上で注射する箇所が表示され、サブウィンドに注射の仕方を説明する動画が流れる。その動画通りに注射するとぴくっ少しだけ体を動かしくっっと小さな声を上げた。少しずつ薬剤を注入し針を抜いた。


『今の薬剤に麻酔成分も入っていますので少し楽になると思います。今のうちに爛れた皮膚を少しだけ切除して「素材収納&前加工」を実行してください。DNAを採取し細胞を培養して交換する皮膚と臓器と手足を作る準備をします』


ファブリケーターで作り出したメイヨー(皮膚等固い組織用ハサミ)とペアン(ハサミ型ピンセット)で爛れてはがれかけた皮膚を1cm角で切り取り魔法陣上にあるシャーレに置き「素材収納&前加工」と唱えた。するとシャーレごと収納されて行きAR表示で リーザの皮膚、DNA 加工中 と表示された。


『ディメンションストレージ内では、これから組織培養に入ります。現在は患者体内で血液の洗浄作業中です。この後順次、内蔵の再生 平行して皮膚の再生を行います。これらの終了予定は18時間後です。終了後一度麻酔の投与をやめ体調の安定を図ります。その段階まで行けば生命の危機は脱するでしょう。その後本人の体調をみて再度、肢体の再生手術を行います。今から18時間後まではファブリケーターの大半のリソースを手術に投入しますので生活魔法以外のご使用はお控えください』


ふと横たわる少女を見ると体の下に大きな魔方陣が1つ、体の周りを小さな魔方陣が8つ光りながら動き回っていた。


邪魔にならないよう外に出て防壁で守られたコテージの前のスペースで小枝を集めて生活魔法:種火で火をつけた。ボア肉を枝にさして肉をあぶり塩を振って焼いて食べた。たまにはこういう野営ぽいのも悪くないなと思う。肉だけは何年も食べことができる量がある。ただ調味料が塩しかないので調味料が欲しいところだ。飽きるからね。キラービーから採取した蜂蜜で作った蜂蜜酒をちびちびやりながら夕食にした。


ぼんやりと焚火を眺めながらリーザの無事を祈った。

外ではまだゴブリン達の喚き声が聞こえている。


2つ見える月が妙にきれいだった。

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