1-13 囮 もしくは生贄

「ありがとう。助かった」その金髪の男は血まみれの手を差し出して握手を求めてきた。こっちの世界でも握手するんだなと変なところに感動しながら俺も手を差し出して握手をした。


「俺はローラウス。Cランクの冒険者だ。”荒野の牙”というパーティーのリーダーをやってる」おお 初冒険者だ!すげーパーティーの名前も厨二っぽいのがそれらしくてイイ!


「俺はコージ。旅人だ。たまたま通りかかったところだった。間に合ってよかったよ。けが人は大丈夫か?」リアル冒険者に会えたことが嬉しくて少し声が上ずってしまった。


「今回の護衛で一緒になったソロの冒険者は助からなかったが、他のメンバーはみな助かった。コージのポーションのおかげだ。で、ポーション代と助っ人の謝礼だが雇い主からもらって欲しい。紹介するから」


「それは構わないよ。それより少し聞かせてくれ。どうしてあんな数のゴブリンと戦闘になったんだ?」


「ああ この森に入ってしばらくして何かが周りにいることは分かったのでスピードを上げて森を抜けようとしていたんだが、この辺りで30匹以上のゴブリンに襲われたんだ。どうやら待ち伏せしていたらしい」ローラウスは荷物から革でできた水筒を取り出し水を飲みながら答えた。


「ゴブリンが集団で人間を襲うって珍しいな」俺も背中のメッセンジャーバッグもどきにつなげたディメンションストレージから水筒を出し水を飲みながら答えた。


「ああ 聞いたことはあるが襲われたのは初めてだ。1匹1匹はそれほど強くなくても、あれだけ数がいると厳しい戦いだった」

数の暴力というやつか。


「何はともあれ無事でよかった」


「ああ もっともだ。雇い主の商人に紹介するよ」


俺はローラウスにくっついて少し離れた場所にいた身なりと恰幅の良い背の高い男の元へ歩いて行った。その男は見るからにうさん臭さが服を着て無表情だが隙を見せたら血の毛まで抜かれかねない気がした。


男は荒事が好きそうな護衛と一緒に馬車のそばで、崩れかかった荷物を直している男に指示を出していたところだった。


「エンマリアさん 彼が助けてくれたコージです」


「ああ 助かったよ。」男は握手を握手を求めてきたので素直に応えた。「ところで あんた なんでこんなとこ通っていたんだ?」世間話というジャブか。俺のスキル小心者レーダーが警報を鳴らしだした。


「旅の途中なんだ。あんた達と目的地は同じだと思う」とりあえず無難な回答しておこう。


「鉱山都市プレネスか」おっそういう名前なんだ。いい事聞いた。


「そうそうプレネスに用があって。あんた達は何を商うんだ?」


「俺たちは奴隷と酒を運んで帰りは向こうで金属のインゴット積んで帰るんだ」


「奴隷?」1台の荷馬車を見ると荷台に貫頭衣を着た清潔感のかけらもない男たちが乗っていた。


「ああ 鉱山向けの戦争奴隷を売りに行くんだ。珍しくもないだろ?」


「俺の国では奴隷制がなかったんでな。ちょっと驚いた」ラノベではお約束の設定だが実際見るのは初めてだしな。


「聖国か公国から来たのか?」


「まっ そんなとこだ」異世界から来たとか言えねーしな。


「ところで さっき振り回してた魔道具 あれ譲ってくれないかな?」邪な視線で腰のマキシムをガン見してくる。


「そりゃ 困るな。俺の剣は飾りだから、あれが無くなると丸裸で歩いているようなもんだ」


「ただでとは言わねえ。金貨1枚でどうだ?」


「そんな安い物に見えるか?」金貨一枚の価値は分からないがオーバーテクノロジーの物は売っちゃいかんだろうな。


「安い高いじゃねぇんだよ」横にいた護衛の一人が後ろに回り込んで近づいてきた。おっさっそく異世界あるあるか。俺は右手をホルスターに入ったマキシム45にかけた。


「エンマリアさん 先ほどの謝礼とポーション代を・・・」ローラウスが空気を変えようと口をはさんだ。


「丁度いい では魔道具と謝礼とポーション代込みで金貨1枚と銀貨1枚だな」勝手に決めて満足している。独り言ちで笑っている表情がゴブリンぽい。後ろの護衛が手を伸ばそうとしてきた。そのままマキシム45を引き抜き護衛の顔面に突き付けた。


「顔面に風穴空くぜ。さっきのゴブリンみたいに」緊張した空気が漂う。護衛の目を見ながら言ってやった。


ほんのわずかな時間だが静寂が5人を支配した。エンマリアもローラウスも護衛の男も、そして俺もそれ以上言葉を発することができなかった。


その空気を読まずにステラの声が脳裏に響いた。


『お客様 1km圏内に大量のゴブリンと思われる集団を感知しました。早めに避難することを推奨いたします』

『大体の数は分かる?』

『現時点での数は200前後ですが段々と増えています。おそらく大量発生によるモンスターライアットと思われます』

『そのモンスターライアットって何?』

『集団として滅亡しかけた際に発現する現象で強力なリーダー種が発生し、それをリーダーとして食料を求めて集団で村や町を襲撃することです』

ゴブリンの滅亡って・・・・そういえばゴブリン狩りもしたけどキノコや果物、小動物も狩りまくったし・・・・・倒しまくったゴブリンはみんな痩せていたような・・・・

『大量の死体をネロ モディフィカルで処分した際 周囲にまき散らした魔素がリーダー種を覚醒させたかと思われます』

・・・・・・・俺のせい?

『とりあえず急ぎ避難を』

『それは分かったけど何処へ逃げる?』

『この先に馬車が2~3台停車できる位の広場が見えました。この商隊をやり過ごしたらそこへ向かってください。そこの中心にコテージを置き周囲に土壁による防壁を作り籠城します。食料や水の在庫は1週間位は問題なく耐えられますので』

『ラジャ』


緊張に耐えられなかった風に俺から口を開いた。

「分かった ポーションと謝礼込みでその金額で構わない。魔道具は売らんぞ」


「ちっ物わかりの良い冒険者なら良かったのによ ほら」エンマリアは銀貨1枚を俺の目の前に投げつけた。


俺は左手で拾いポケットへ無造作に突っ込むと背中を向け先へ歩き出した。


「おっさん 礼が無いぞ」お付の護衛が罵声を浴びせてきた。


俺は銃を足元へ向け引き金を引きホローポイント弾をばらまいた。


「釣りはいらんぞ」自分で言っておいていうのもなんだが何でここまで強気に出れるのか分からなかった。ひょっとして若返った肉体に精神が引っ張られているのか?


「てめぇ」男が剣を引き抜こうとすると


「もういい 行くぞ」エンマリアが制止した。彼の背中から不機嫌が滲んでいた。


その時、遠くからたくさんの何かが叫ぶ音が聞こえてきた。


「大量のゴブリンがこっちに向かってくるぞ」馬車の屋根にいた別の護衛の声が聞こえた。


「急げ!すぐに馬車を出すぞ」エンマリアが大声で命令した。


「けが人はどうする?」ローラウスが護衛の男に聞いていた。


「こうすれば場所が空くからけが人を乗せろ。後お前らは2台に分乗しろ。プレネスまで一気に走るぞ」


動き出した2台目の馬車から1.5m四方の檻が俺の前に投げ出された。


「こいつはお前にくれてやるよ。さっきの釣りだ。しっかり囮の役目を果たしな」笑いながら護衛の男が大声で叫んだ。


中を見ると右足と左手を失って糞尿まみれの貫頭衣を着た猫耳しっぽ首輪付きの少女とおぼしき生き物が入っていた。初めて見る亜人だ。呼吸はしているようだが意識は無いみたいだ。素人の俺がみてもやばい状態だって分かる。


『ステラ!』

『お客様 お時間の猶予がありません。この亜人をどうするか今、この瞬間に決めてください』珍しくステラの声に感情がこもっている。

『助けよう。手伝ってくれ』

『お客様のご要望は承りました。魔力制御権限を一時お預かりいたします。まずは檻を破壊しましょう。檻の柵の部分に触れてください』


俺は天板に近い右端の柵に触れた。”ネロ クシフォス”勝手にトリガーワードが口から出た。これが権限移譲か・・・。指先から高圧の水が噴き出てそのまま金属の柵を切断した。指先を次々と柵に当てあっという間に檻を破壊した。自分のしたこととは思えない所業に驚いた。


『その亜人を担いでください。身体強化魔法を発動します。そのまま500m先、左側の広場まで全力で走ってください』


体中が熱くなり力が漲ってくるのが分かった。後ろを振り返ると土煙が見えゴブリン達が群れを成して走ってくるのが見えた。俺はぐったりとした猫耳娘を担いで道なりに全力で走り出した。


命がけの鬼ごっこ状態のはじまりだ。

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