1-12 覚醒

今日は大きな森を抜け、いよいよ明日は町に着くらしい。

森の中に馬車が一台通れるくらいの道を歩いていると遠くで人の叫び声と何か獣の吠える声が聞こえてきた。


『ステラ あれは何か分かるか?』


『推定ではございますが、人族と野生の魔獣が交戦中と思われます』

ここで加勢すべきか?このまま離れて巻き込まれを避けるか。悩みどころだ。


 ある意味馬車が魔獣に襲われているところを助けるのは異世界物のお約束イベントだ。王女や商人を助けその後の物語の重要な出会いになるエピソードが序盤によくある。ここは避けない方が良いだろう。助けて街まで載せて行ってもらえたらラッキーだし、都市に入る際に手助けをしてもらえるかもしれないし。何よりも謝礼が欲しい。今は現金が無いからな。よし、乗るしかない、このビックウェーブに!


『ステラ 助けよう』


駆け足で走って目視可能な距離へ到達した。2台の馬車が止まっていてその周りで何人かが戦っている。昔と違って強化されたこの体だと少々走っても息すら上がらない。鍛え上げられた格闘家のようなスペックになっている上に身体強化魔法が使えるのである意味スーパーサイヤ人状態だったりする。もっともこの身体強化は慣れていないせいか長く使えない。魔力によるドーピングだから強化された体でも長時間耐えのはしんどい。試しに長い時間やってみたが気持ち悪くなった。


『交戦中の人族と思われる部隊を支援することを了解しました。戦闘に際し必ず確認をお願いします。これはフレンドリーファイアを防ぐためです。ゴブリン ファイターを確認しました。戦闘力はD相当、但し群れでいるときはC相当です』

見ると森で殺しまくったゴブリンの仲間とは思えない体系をしている。背丈は成人と同じほどあり体全体は引き締まった筋肉で包まれていた。武器も手入れは不十分だが人が使うロングソードを持ち、その刃先は血で濡れていた。


「加勢はいるか?」300mほど離れた処から無意識に興奮しているのか自分でもびっくりするような大きな声で叫んだ。


「頼む。後で礼はする」2匹を相手にし長剣を振り回しながら若い金髪の男がこちらを見ずに大声で返事してきた。

段々近づいていくと若い男の他に3人ほどが戦っているが2人が血を流して倒れてるのが見えた。


「了解」 俺は左手でショートソードを引き抜くと手前のゴブリンファイターの背中へ向けて走り出した。そのまま近づきショートソードで首を狙って振り下ろした。ショートソードはゴブリンファイターの、ど太い首を胴から切り離した。体から首が離れる瞬間、目があった。何が起きたか分からないまま死んでしまったようだ。


 振り向くと2匹がこっちに走って向かってくるのが見えた。静止して左手にショートソードを持ったまま、右手でマキシム45を持ちオープンサイト越しにゴブリンファイターの目を見ながら引き金を引く。ぷすっぷすっ 軽く鈍い音とともに放たれた2発のフルメタルジャケットはゴブリンファイター達の顔面に吸い込まれるように飛翔し、驚いた表情のまま顔面に穴が空きその大きな体は前のめりで倒れ込んだ。


ショートソードを鞘に納め、倒れたゴブリン達の無残な姿を見ないようにして若い男が戦っている馬車の横まで走る。

「大丈夫か?」若い男に声をかけるが、返事を聞かずその男と戦っているゴブリンファイターに触れ「モディフィカル ウォーター」を発動させる。この魔法は接触している限りファブリケーター扱いで発動する水属性魔法+錬金術の複合魔法で水分を一瞬にして魔素へ変換してしまう。木材の乾燥や野草からポーションを作る時に重宝しているが、こういう使い方もできるのだ。

 俺を殴ろうと体の向きを変えかかっていたゴブリンファイターはあっという間に干物みたいな状態になって転がった。


「ああ すまない。助かった」返り血なのか本人の出血なのかは分からないが血まみれになった男が返事をした。

「これ使うか?」ストレージからハイポーションのビンを3本出して若い男に手渡した。

「いいのか?」

「ああ自家製だから効果は保障しないが、倒れている奴らにも使ってくれ」

「すまない 後で金は払う」


周りを見渡すとまだ10匹以上ゴブリンファイターがいる。鑑定と頭の中で唱えるとARで情報が表示される。数は17匹 全てゴブリンファイターだった。口の中に酸っぱい胃液が込み上げてきた。森の中でしたゴブリン狩りの時とは違う緊張をしている。そこらかしこに漂う死の匂いが緊張を強いる。緊張を通り越して吐き気がする。ただ、ここでは吐いている余裕はなかった。


「ライムント しっかりしろ」

後ろを見ると金髪の若い男が渡したポーションを倒れていた男の傷口に振りかけながら意識を取り戻そうとしている。ライムントと呼ばれた男はピクリともしない。よく見ると他にも2人ほど斬られて倒れている男たちがいるが死んではいないようだ。


『ゴブリンファイターにロックされました。既に3匹が有効射程内です。対応をお願いします。』ステラの声が妙に機械的に聞こえ脳裏に響く。


 上半身を前かがみ気味に少しだけかがめ足を開き腰を落とし気味にし狙いを付けた。サイトに1匹のゴブリンファイターを捉えた。体が機械的に反応し引き金を引いた。更にそのまま上半身を左に振ってターゲットを捉え2射目を放つ。弾は顔面を捉えていた。ロングソードを振り回し俺を殺そうとしていたゴブリンファイターは頭部を失った後、さっきと同様に一瞬止まって前に倒れた。目の前で2匹の仲間が動かなくなったゴブリンファイターは何が起きたか理解できないようだった。そのままサイトに捉えると3射目を奴に放った。1匹目と同様に腹にめり込んだ弾は何が起きたか理解できる余裕も与えず3匹目のゴブリンファイターへ死を与えた。


『残り6匹です。次2匹来ます』何匹かは他の護衛が始末したようだ。少し落ち着いてきた俺はステラのナビゲートに返事もせず、マキシム45をホルスターへしまうとディメンションストレージからマキシムカービンを取り出し1匹ずつアイアンサイトに収め引き金を引く。俺の殺意を載せたホローポイント弾が1匹ずつゴブリンファイターを肉の塊へと変えていった。


『残り4匹です。次2匹来ます』ここに来て我慢できず足を止め道端に胃の中の物をぶちまけてしまった。胸の中の物を吐き出してしまうと少し落ち着いたと同時に下がっていた体温が徐々に上がるような気がしてきた。アドレナリンが分泌されているのだろうか?それと同時にゴブリンファイターの動きが良く見えるようになった気がした。心なしかゴブリンファイターの動きが遅く感じる。銃を握りしめるとやるべきことを体が理解しているようだ。


2匹は咆哮を上げながらこっちへ走り出した。こちらも走り出す。2匹が上段からロングソードを振り下ろそうとしているタイミングで足元にスライディングして胴へ向け引き金を引き、そのまま膝の裏側を引っ掛ける様に蹴りを入れ、そのままもう一匹を巻き込むように倒した。巻き添えで体勢を崩したゴブリンファイターへ2発ホローポイント弾を撃ち込んだ。鑑定をかけると2匹ともゴブリンファイターの死骸と表示された。


『1km周辺に脅威はありません。お疲れさまでした』ステラの声が戦闘の終了を告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る