1-10 ファースト・キル
『では始めにご自身へ身体強化魔法をかけた上で探査魔法を使用してください。草原の300m先にゴブリンが3匹いますので確認の上攻撃してみてください』
目を閉じて身体強化魔法をかけ、体を中心に水の波紋が広がるイメージを持つと2時の方向にそれらしき塊があった。目をやるとAR表示でゴブリン3匹の情報が表示された。
ゴブリン レベル5
所持スキル
身体強化レベル2 棍術レベル1
ゴブリン レベル7
所持スキル
身体強化レベル3 剣術レベル1
ゴブリン レベル6
所持スキル
身体強化レベル2 棍術レベル1
転生前だと絶対に見えない距離なのだが何故かきちんと目視できてる。子供位の大きさの3匹が角突きウサギもどきを解体しているようだ。ステラに言われた事を思い出しながらマキシム45を引き抜き、足音を殺しながら中腰でそっと近寄っていく。
100mほどに近づいた辺りから銃を両手で構えオープンサイトで右端の1匹に狙いを定め伸ばした両腕を絞り込んだ辺りで連中に気付かれた。右端の一匹と目が合う。
「グヂギディィ・・・」
何か叫ぶと一斉に立ち上がったところに引き金を引いた。
プシュッ! 軽い発射音がして放たれた弾丸は顔面の真ん中に当たりそのまま頭部を爆ぜさせ辺りに血と肉片をまき散らした。
頭部を失った体はそのまま前に倒れた。その後、独特の血の匂いが鼻をついた。
自分の意志で生命を奪う。その意味を生まれて初めて理解した。
『残り2匹が逃げます。追撃してください』ステラの声で我に返った。
見ると獲物と武器を投げ出してゴブリン達が森の奥へと走り出していた。
そのままオープンサイトで狙いをつけるが中々定まらない。段々距離が開いていく。
「くそっ」射撃姿勢を解き、そのまま走りだした。思いっきり走るとこちらの方が足が速いので距離が縮まっていく。50mを切るころには奴らは森に差し掛かりつつあった。そのまま静止してスタンディングポジションから狙いを定め2発胴体へ向けて撃った。そのまま結果を確かめずもう一匹へ更に2発発射した後 草原は元の静寂を取り返した。
銃を斜め前に構えたまま近寄りながら 鑑定 と頭の中でつぶやくとAR表示で ゴブリンの死骸 と2か所で表示された。
銃を構えた腕の力を抜きふっっと息を吐きだした。
『お疲れ様です。死骸の処理はどうしますか?』
『ありがとう。何か疲れたな。ゴブリンって魔石だけだっけ使えるの?』
ディメンションストレージから水筒を取り出し水を一口飲んだ。
『はい 後は冒険者ギルドへ討伐証明として提出する場合は右耳を切り取る必要があります。他には有用な部位はございません。切り取り後は燃え移らない場所で死体を燃やしてください』
『了解した』
ディメンションストレージから弾のストックを取り出し発射した銃に補充するとそのままホルダーしまった。
死骸から小指の先ほどの魔石を取り出し右の耳を切り落としコンビニの袋くらいの大きさに作った亜麻の袋へしまった後、死骸を一か所に集めて調理用に抽出した油をかけファイアで燃やした。死骸が他の魔物を呼び寄せたり、グールになるのを防ぐために必要だから癖にした方がいいとステラに言われた。
少し離れて燃えていく死骸を見ながら 案外と生き物を殺したことに対する贖罪感が無い自分に驚いた。わずか数日で異世界に適応してしまったのか元々冷血漢だったのか。この世界で生きていくには、これからいくつもの死をこの手で作り出すのかと思うと気が重くなった。
それでもこの世界で生きていかないといけない。俺は銃をマキシムカービンに持ち替え更に森の奥へ向かった。
それからは落ち着いて森に巣喰うゴブリン達を処理していった。
後ろからそっと接敵してショートソードで首を刎ねたり、わざと格闘に持ち込んで顔を殴り潰したり、マキシムカービンの射程スレスレで狙撃したりと、身に着けた技能を確かめるように殺しまくった。殺した死体はディメンションストレージへ一度収納し耳と魔石だけを取り出して保管するようステラに指示を出した。死体は最後にまとめて処理するためだ。
森の中央にある少しだけ開けたゴブリン集落を潰した時には日が暮れかかっていた。今日殺したゴブリンの総数は68匹。目の前には65匹分の死体をディメンションストレージから出し積み上げた。
『燃やすのですか?正直 延焼のリスクがあるのでお勧めできませんが』
『大丈夫だよ。ネロ モディフィカルで干物にして、家作る時に使った杭打ち用のハンマーで砕いて欠片にするよ。これなら大丈夫だろ?』
『はい それなら延焼の心配はございません』
積み上げた死体の山の1匹に触れ『ネロ モディフィカル』と脳裏でつぶやくとわずかな時間でドス黒い魔素を周囲に巻きながら、大量の干物状の何かが出来上がった。無言で杭打ち用ハンマーで砕く。この時点で目の前にある何かは、かつての生き物ではなく単なる不用品が積みあがったものであった。
砕いたのはゴブリンだった物ではなく、俺の生物への無垢な信愛の情だったのか、地球世界育ちの自分の甘さだったのかは分からない。
唯々機械的な作業として受け入れていた。
『これで十分かと思います。そろそろ暗くなります。早めに森から離脱することを推奨いたします』
『了解。走って森を出よう。草原まで戻ってそこで野営するか』
俺たちが去った後、広場を囲むように森に隠れていたゴブリン達は危険が去った事を確認して広場に集まった。そしてかつての同胞だった物を争う様にむさぼり食べだした。彼らの背中には辺りに漂っていた黒い魔素が静かに降る雪のように積もってやがて吸収されて消えていった。
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