1-8 ガンスミス
ステラの情報+現時点での資材を考えるとまずは
・ショートソード 1本
・ナイフ 2本
・ハンドガン 2丁
・スタンバトン 1本
・弾丸 3種類 2000発位
を作ることにした。ナイフ以外は小・中魔物と対人用 ナイフは解体や剥ぎ取り目的だ。ショートソードは短剣扱いなのでスキルを活かす意味でも必要だろう。ショートソードとナイフは取り敢えず練習用に鉄素材でサクッと作った。
スタンバトンは木の棒に雷撃魔法を付与して作った。何でこんな物を作ったかというと確実に人を殺さないで無力化できる武器が欲しかったからだ。鑑定魔法を発動してAR表示させれば野盗や山賊の類は簡単に分かるが、だまそうとする輩までは判断できない。やはり一番怖いのは人間なのだ。普通の人間が敵か味方かは鑑定でも判断できないらしい。敵意はわかるらしいが。
付与魔法は埋め込んだ魔石や使用者の魔力を利用して指定した特定の魔法を実行する術式だ。結界で使う雷撃をバトンの先端で実行するだけのカンタンな仕組みにした。今回はバトン本体は木をファブリケーターで削り出しミスリル銀で回路を作成。回路には死なない程度に威力を抑えるようリミッターを取り付け、魔力は握り手から俺の魔力を吸収して実行する設計にした。全部自分でやっているように思えるが実際にはステラにほぼ丸投げで作成は10分かからないで終わった。
問題はメインアームの銃である。作るにあたって材料、特に無煙火薬が手に入るか?という当たり前に疑問に加え そもそもこの世界の魔獣に対して効果があるのか?という問題だ。試しに作るにしても全く目途が立たない物に労力を使いたくない。
『ステラさんや このガルムガルドで銃という物はあるの?』
『一応存在しましたが今は廃れています。地球世界で近いものと言えば火縄銃でしょうか?』
『何で廃れたの?威力不足?』
『一番大きな理由は攻撃魔法の存在です。魔法は使える人間は限定されますが、威力も大きく手間もかからず人件費を除けば低コストなので。』やはり環境が異なると進化の仕方も異なるか。まあ地球世界に魔法があったらそうなるよな。
『もし地球世界の銃を持ち込んだ場合、魔獣に対して効果はあると思う?』
『はい。一般的なハンドガンでしたら小魔獣や人間に対して有効かと推定できます。先ほど食べたホーンラビット位が丁度良いかと。この付近で最強のフォレストベアですと7.62mm強装弾とアサルトライフルが必要になります。』
アサルトライフル要は軍隊で使われる自動小銃の事だ。7.62mm弾は一昔前に主流だった弾丸のサイズ、強装弾はそいつの火薬マシマシ仕様って意味だ。何で一昔前かというと反動が強く最初の一発以外は当てにくいので今は小口径の5.56mm弾が主流になっている。自衛隊でも7.62mm弾を使っているが反動を抑えるため敢えて火薬の量を減らした弱装弾を使用している。日本人の体格だと反動を抑え込むのに苦労するからだそうだ。という事は何か反動を抑え込む方法を考えないといけないってことか。
しかもフォレストベアでもCランクだ。これより強い相手と戦うことを考えると、これですら心もとない。何かいい方法はないか考えないと。
『単純に威力を上げるなら弾頭に付与魔法を加えればどうでしょうか?』
・空気抵抗を無効化する魔法と大気中を押し出す魔法を付与することで貫通力を大幅に上げることができる。そのためには弾丸1つにくず魔石の小片1つが必要。くず魔石はゴブリン等のEランク魔獣からも集められるが、ギッハと呼ばれる魔力の無いくず鉱石に魔力を注ぎ込む事でも代用できる。他にも空気抵抗低減の代わりに爆破魔法や氷結魔法を付加する事で様々な効果が得られる。ギッハはトン単位でストックしてあるし今のところはタダなのでお財布にもやさしい。加工は精製、魔力充填、術式付与までファブリケーターで完結出来る点も魅力的だ。ただ、後で手に入れようとしても値打ちが無いので店で売られていないから自分で集める必要があることが難点。
・火薬も錬金術を駆使すれば手持ちの材料で最新の爆薬ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン(CL20)モドキを作り出せるらしい。これはTNT火薬の1.9倍の威力がある。これらの対策を合わせるとランク換算で2つ以上威力が上がる見込みだ。これなら十分魔獣と戦える。
・これらの衝撃を抑えるために発射の衝撃をある程度、空間魔法を組み合わせてディメンションストレージ内へ逃がして命中率を上げる。この逃がしたエネルギーはまとめたり、圧縮したり、取り出したり出来るので空気銃のように相手にぶつけることができる。これはぶつけるエネルギーはディメンションストレージの取り出し扱いで魔法ではないのでノーモーションで使える優れものだ。
アサルトライフル類は後日で、まずはハンドガンを2丁作ることにした。
1丁はマキシム9を選択した。見た目はアニメに出てきた未来の喋る銃みたいだが消音機を組み込んだ自動拳銃だ。というかアニメの元ネタらしい。検索魔法で地球世界から部品単位の設計図を入手しAR CADで表示する。材料が異なるし、火薬の威力も異なるため大幅な修正が必要なはずだが、サジェスト機能で変更箇所が提案され承認して行く形で作業を進めて行く。オリジナルの銃は9mmパラベラム弾を使用するが威力を上げるために45口径弾を使えるベース銃に変更 グロック36を選択し、マガジンも7発のところを延長して10発入りに変更した。ここまで変えると名前も変更しないと。マキシム45にするか。また自動で図面が表示され修正が必要な部品が提案される。それらを画面上で修正して、衝撃を和らげる空間魔法を付与する部品を指定してプリントする。この間1時間位。楽すぎる。マジで。本来だったら必要な試行錯誤がほぼ必要無いから作業が早い。
もう一つ、この銃に組み合わせるピストルカービンキットも1セット作った。ピストルカービンとはハンドガンをベースにオプションパーツを組み合わせてセミオートカービンとして使用できるように改造された銃の総称だ。筐体は大きくなるが逆に持ちやすくなり命中率が上がったりオプション類を取り付けやすくなったり長いマガジンを取り付けてもバランスを取りやすくなるので、屋内戦闘が想定される特殊部隊や警察のSWATで採用されている。今回はイスラエルのメーカーの物をベースに銃身を延長したマキシムを組み合わせられるように改造しマガジンも20発入りの物を新規に設計してこれに組み合わせた。名前はマキシムカービンと呼ぶか。
プリントされている間も弾丸を設計する。作るのは3種類。貫通狙いのフルメタルジャケットと内部で破裂するホローポイント弾、それと念のため柔らかい物を対象にするための弱装弾の3種類。設計と製造は単純だが問題はこれの組み立てだ。2000発を手作業で組み立てるのはちとつらい。
『ステラさんや この弾をある程度簡単に組み立てられる治具はテンプレートに無いかい?』
『そんな事もあろうかとご用意しておきました。』なんかどや顔で答えてきた気がする。
プリントされた銃のパーツを薄暗い部屋でちびちびと組み立てていると気分はテロリストか密造銃のディーラーだ。銃が組みあがると次に弾の製造治具を作り弾の生産をする。
こうして初日の夜は更けていくのであった。
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