第一章 ようこそ異世界 ガルムガルドへ

1-1 GoTo トラブル ようこそガルムガルドへ

気が付くと真っ白い空間にいた。床も見えず天井も見えず壁も見えず、ただただ白いだけの空間。


「見慣れぬ天井だな・・・ってお約束のセリフ言ってみたかった」

というか天井無いじゃん ってセルフ突っ込みも忘れずに入れてみた。

こんなところになぜ俺がいるのかよく分からない。

 Web小説やラノベが好きでよく読んでいたからそんな夢でも見ているのか位に思った。なんか一度言ってみたかった台詞が言えて得した気がする。よかったまたひと眠りするかな。



「気が付いたかの?」

女性の声で呼びかけられた。そこには背中に大きな羽をはやした西洋人形のような、かわいらしい天使がいた。ということはさっきのは夢じゃない?


「ここは?」

「世界と世界の狭間に作った時のない部屋(仮)じゃよ」

「・・・・ちょっと何言っているか分からない」

そりゃそうだ 理解できる方がおかしい。というか何で言葉が通じるとか。


「まあそうじゃろうな。自己紹介しよう。妾はガルムガルド世界の管理神 生と死を司る女神シェミエル。崇め奉ってもいいのじゃよ」

「・・・・・・もっと意味わからない。」

気まずい空気が流れる・・・


「・・・・さて、ここは今までお主のいた世界とこれから行く世界の丁度真ん中に作り出したんじゃ。お主には少し話をしないといけないからのぅ」

「いた世界?行く世界?」

「地球の管理神から連絡を貰っての。これから邪神を妾の管理する世界ガルムガルドの結界に飛ばすからと。まあ、いつもなら全員結界で弾かれるのじゃが今回はお主が混じっているとのことで取り敢えずこの部屋に留め置いて色々と準備をすることにしたのじゃ。何せ人間が結界を通るのは初めてなのでなあ」

 本当に異世界召喚なの?えっ 動揺というか混乱して言葉も出ない。それでもこの自称女神様は話を続ける。


「さて お主ここに来る直前の事どこまで覚えておる?」

「目の前の地面に変な文字が現れて、それがいきなり光って中にいた女の子に手を掴まれかけた瞬間、何か魔物っぽい感じになりかけてところでそのまま意識が遠のいた あたりまでかな」


「そうか危ない所だったのう。お主の手を掴もうとした子 あれは人間ではなく邪神なのじゃよ。手を掴もうとしたのは魔方陣から逃れるためお主に憑依しようとしてたみたいじゃのう」


「この人痴漢です!って叫ばれるかと思って腰と手を引いたのが良かったのか」

 電車通勤だった頃、両手を上にあげて乗ることが当たり前になるほど気にしてた。大体、仮に痴漢しても冤罪でも新聞やWebポータルに顔写真入り実名報道されるんだよな。無罪でも訂正されることもなく一生痴漢野郎とか言われることだけは避けたかった。親兄弟甥姪に迷惑かけたくなかったし。悲しい習性だよね。でも、憑依されずに済んだのは良かった。ナイス俺 とりあえずおつかれ。


「彼女達は邪神とその取り巻き いわゆる眷属。 地球世界に置いておくといずれ世界を破滅に追い込むので地球世界の管理神が排除したのじゃ。」


女神シェミエルはニコッと微笑む。いいことをしたという感じで。要はサラッとぶっ殺したって宣言してる・・・こえーーよ 地球世界の管理神。 殺戮神(ゴッドオブジェノサイド)ってどこのデスメタルバンドだよ?


更に彼女は続ける。

「邪神は地球世界にわだかまる不のエネルギーから湧き出るように生まれるのじゃ。地上に現れてまずは邪悪な素質のある魂を乗っ取り、体を奪うと周りを徐々に浸食して眷属を増やして勢力を増やしていくのじゃ。あのタイミングで一網打尽にできたのは幸いじゃった」

満足げに独り言ちでうなずいていた。自己評価高すぎだろ


「何で普通の住宅街の中学校にそんな物騒な物が出現したんだ?」

「邪神の同級生に次世代の神の子がいたのじゃ。神の子が力を持つ前に邪神が始末しようとしたようじゃ。」

実際 あの5人組はその神の子を苛め抜いていたらしい。中学生と言ってもやることは大人顔負けのえげつなさだ。世知辛い世の中だね。


「で、奴らを始末するために眷属もろとも異世界へ転移させてやったのじゃ。」


「それって転移先は迷惑じゃないのか?」思わず自然にツッコミを入れてしまった。


「大丈夫じゃよ。転移先の世界には結界があるので邪神は弾かれる。そうなると次元の狭間で永遠に彷徨うしかない。元々邪神には生命が無いので殺せないからこの方法しかないのじゃ。もし浸食されてなければ魂はそのままあちらの世界へ転送されるから全く問題なんてないのじゃよ」


「いや それって誰か巻き込まれたら大問題だろ。」つい更に突っ込んでしまった。


「そんなことは起きないのじゃよ。眷属達が次期神様を精神的に深く傷つけたのは事実。天罰を受けるに値するのじゃ。」逆切れ気味に反論する女神様。ちょっとかわいい。


ここでふと気が付いた。


俺どうなる?ひょっとして俺の件は無かったことにするつもりか?


機嫌を損ねて得体のしれない世界へ飛ばされたり,存在そのものを消滅されたりするのは勘弁してほしい。

せっかく手に入れた自由だ。謳歌する前に消される位なら何のためらいもなく国産社畜の必須スキル”下手からのご機嫌取り(WithOut プライドモード)”発動を選択した。


「そうですか。何はともあれ これで地球も異世界も安心だ。流石できる管理神様は違いますね」

頭の中で俺のワッショイ隊がヨイショ!ヨイショ!と神輿を担いでいる。頑張れオレ!


「まあ この位なら朝飯前じゃ」

平べったい、まな板胸を自慢げにそらしながら勝ち誇る女神シェミエル様。


「ところで、私はいつ元の世界に帰れるますかねぇ?」

最大級の満面の笑みを張り付けた笑顔で聞いてみた。


「あっ その件じゃがの。ごめん ムリポ!」


彼女はあふれるばかりの笑顔で告げた。えーーーーっちょっと冗談っすよね?


「またまた シェミエル神さんも冗談上手いっすねー。ひょっとしてどっきり系の仕掛っすか? ”おっさんをだましてみた!"とか。イマイチ再生数稼げそうにないっすけど。」


「いや 申し訳ないのじゃが本当の話なのじゃ。まぁ恨むなら邪神か地球世界の管理神を恨んでくれたまえ。」


「つーか あの5人を吹っ飛ばすために無関係な非戦闘員を巻き添えにしたと・・・・。」

シリアのロシア軍並みにエゲツない。無慈悲すぎるぞ 管理神様。


「決して無関係なわけではないぞ。あのタイミングで手をつかまれていたらお主も浸食されたリスクがあったしのう。」


「いわゆる尊い犠牲というやつでしょうか?」


「理解してもらえて妾は嬉しいぞ。」にぱーっと満面の天使の笑顔を見せる。


「理解はできても納得はできないっす。」俺は多分チベットスナギツネのような顔をしていたに違いない。


無言の間が流れた。


「お主は帰りたいのか?元居た世界に?」


ふと考える・・・帰る理由ってなんだろう?

冷静になって考えると帰る理由が見つからない。親は昔から出来の良い兄がいれば俺は迷惑さえかけなければそれでいいと思っている節がある。会社は俺がいなくなればまた誰か雇えばいい。存在する理由が極めて希薄だった事に気が付いた。それにあのまま独立するにしてもビジネスがうまくいくとは限らない。それを考えると決して楽な環境という訳ではないのだ。戻ったところで。


 ただ、心残りがあるとすれば自分で色々と揃えてみた3DプリンタやCNC、若干の蓄え位かな。色々と作りたくて環境を整えていたんだよね。


 それよりも何よりも行きたくない最大の理由は行き先がよく分からないからだ。恐竜時代や氷河期とかに飛ばされたら生き残る自信がない。リアルジュラシック〇ークとかモンスター狩人ワールドとかはマジ勘弁してほしい。


「なるほど」


女神シェミエルが納得している。


「何が?」


「お主が何を考えているか分かったからの」つか 初めから頭の中が読めるので分かっていたのか。


「では こうしよう。これから行ってもらいたい世界”ガルムガルド”について説明しよう。そしてお主に与えるスキルについて説明し予想される問題も隠さず説明しよう。その上でもう一度考えて欲しい。」

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