第6話
この時期は雨が振る度に季節が進む、暑かった秋の初めも今日の朝は寒いくらい。 秋の服装が大人びた物から防寒用・機能重視に変わり始めている、。
薄かったカーデガンは少し寒そうに冬の長袖を包んでいる。
「シンイチは良いわよ、年中暖かそうで」
「男は筋肉量と率が多いんだよ、その分イリスは皮下脂肪が・・・」有る方が女の子らしいと思うのだけど、女性はそうでは無いらしい。
(なぜ睨む)どれだけ頑張っても骨密度やホルモン、筋肉の付きが違うんだ。
それにガチガチの筋肉少女より、少し丸みを持った女の子の方が男から見れば魅力を感じると思う・・多分。
雄雄しい女性ってのは格好いいが、性別的な見方や意味において不自然を感じるのは仕方無いと思う、女々しい男ってのと同じでさぁ。
そういうのを分ける時代じゃないって事は解るけど。遺伝子や体の作りとしての男女が別れているのだから。
遺伝子的に・肉体的・精神的にも本能としてやっぱり男女は違う物とオレは思う。
「脂肪なんて飾りよ、男なんて女が必要な所を飾ってたら直ぐに欺されるんだから」
これ以上の肉体的論議は危険!本能がそれを訴えた、故に。
「そう言えば今日は随分きちっとしてるね、何となく」服装や髪、それに雰囲気。
いつもと違い二人とも少し緊張しているような。
「・・お父様が帰ってこられるの、数日だけどしばらく滞在するようよ」
貿易交渉で年に数回しか帰ってこないアリス達の父親、オヤジの出資者でもある。
月に何度かモニター越しに挨拶と話をするが、そんなに緊張するような人柄でも無い。 帰って来る度にサッカーや野球、卓球やバスケの相手をしてくれる良い叔父さんだ。 オヤジが極度のインドアだから、アウトドアの叔父さんは憧れるべき大人だ。
「シンイチは随分嬉しそうだけど、私は少し違うの。このまま毎日が続けば良いと思う私からすれば、父さんは生活を変えようとする波風よ」
『父は元気で留守が良い』確か昔の言葉だったか?叔父さんが働いているから今の生活が守られているんだよ、愛娘にそんな風に思われているなんて不憫だ。
女性は種を守る本能があるとか、狩猟採集時代の家族も男が狩りを、女性達は子供と共に家と集落を守る、その為にコミュニティーを作ったとか。
女性の愛想笑いや、時々感情の掴めない表情や話方をするのはその為。
その反面、男は直ぐに感情が顔に・声に・行動に出てしまう。だから男は女性からすればガキに・子供に見える。
(日本人特有の物かも知れないけどさ。力強い女性より、芯の強い女性に惹かれるのは腕力で語る男とは違う強さを求めているからだろうなぁ。だって、男と女が腕力で語るような社会や世界なんて修羅の国過ぎるだろ?)
そんな力こそ全て、目に見える強さ・積み上げた資本や賞状が全ての社会なんて馬鹿馬鹿しいと思わないか?
武力・暴力に負けない強さ、たとえ戦争や戦いに負けても最期まで戦い続ける背中、命を守り・家族を守る強さは腕力だけじゃできやしない。
心の強さ・魂の強さってのは折れない強さだ。
命を取られても・命より大事な物を守る強さ。
それは戦う父の強さでは無く、守る母の強さだと思う。
「変な事を考えてる顔、シンイチは良いわよ。ヘンテコなお土産でも喜べるんだから」
「砂の花とか木彫りの猿神様の事?・・アレは良い物だよ」壺と同じでさ。
クジラの胆石とか・腕ほどある香木とか、本当に貴重品なんだよ?
「・・シンイチ?タール時計とかは普通の家には必要無い者なのよ?」
「あれは!いつ落ちるかって毎日見てるのが良いんじゃ無いか!」それで、気が付かないうちに落ちてガッカリするんだよ!
冷えたタールの時計は、液体として最も粘度と堅さを持つらしい、数十年掛けて一滴を落とし時間を計る、時計好きの中でも最も珍奇な時計の一つと言える良い物だ。
「つまりタール時計は人間の時間じゃなく、地球時間・宇宙時間を計るんだ!
偉い人にはそれが解らんのです!」
「・・・・それで、シンイチは宇宙時間を計ってどうするの?」
「キツいことを言う」浪漫じゃないか。80%の完成は、浪漫と新たな目覚めで補って、パーフェクトにするんだよ!
「気休めかも知れないけど、シンイチならきっと出来るわ浪漫だもの」
ヤレヤレだぜって顔、やっぱり浪漫は理解されにくいなぁ。
「気休めだと解ってるけど、ありがとう」
あれで負けたのは、大佐の新たな資質の目覚めが足らなかったからだ・あと近距離戦装備が無かったせいだ。設計時点から格闘戦用の装備を付けるべきだったんだ。
(足があったら!足さえあれば大佐得意のMSキックで逆転出来た・・など女々しいか)
足の重要性・・・・・
ピリピリした空気は緩んだものの、昼過ぎに屋敷の前で止ったオールドカーのブレーキ音と重いエンジントルクの振動音。
重戦車のような重い低音が空気を揺らし、功日彦達が集まり大の字の体で壁を作る。
先に降りたのは、ハチさんとは別の犬顔のアンドロイド。
シェパードの顔は黒いスーツと共に黒騎士を想像させる。
「それほど気を使わなくても大丈夫だろ?娘の待つ我が家に帰るくらいで大仰な」
シェパードのロクさんがロールスロイスの扉を引き、中から五十代に見える叔父さんが顔を出した。
窓から覗くイリス達に手を振って微笑む、がその娘達は父親の顔を確認して窓から下がって叔父さんガッカリ、
(四年ぐらい前なら飛び出して行ったのに、難しい年頃という訳だろうか?)
でも家族を最初に迎えるのはやはり家族だろう、オレが先に出るのはちょっと違う。
扉を二度ノックされ、ハチさんが扉を押し開けた。押し戸は家人の守りに弱いから内側に開かない設計、荷物があると正面から入りにくいので裏に回るのだ。
「お帰りなさいませお父様」アリスが頭を下げてスカートの端を摘まんで上げる。
「お帰りなさい、父さん」こっちはニッコリと笑顔を作る感じだ。
だがオレは知っている、あの作り笑顔は機嫌が悪い時の笑顔。
「叔父さん、お帰り。元気そうで何よりだ、お土産はなんですか?」
「シンイチはいつも通りで安心した・と言うべきだろうか?あと叔父さんはやめたまえ」
ハハハハ、叔父さんもいつも通りだ、変わらない。
「叔父さんは叔父さんだよ。大体アリス達がいるんだ、その内におじいさんになるんだから、今の内に耐性を付けておかないと」
「ハハハ・・・シンイチ君、いつも言っているが。娘を欲しければ私を倒してから言うんだな!私はそう簡単におじいさんにはならないよ?」
「ハハハ、そうだよ。アリス達と付き合うなら当然僕を納得させるような男じゃないと」
・・・・・・・
素早い蹴りと流れるように対角の拳、右ローからの左フックを潜りかわし、右フックを脇に、パシッと響き二人が離れる。
「シンイチくん、少しは拳が重くなったがまだまだだ」
「叔父さんの蹴りは相変わらす重い、油断してたら終わってたよ」
足を止められ、左フックで頭を打たれたらそのまま吹っ飛ぶか、頭を揺らされる。
来る事が解っていたから踏ん張れたが、年齢を考えろと思う。
「じゃれ合うのは荷物を分けてからしましょうね、お父様?」
イリスがお父様と呼ぶのは機嫌が悪い時だ、漢同士のコミュニケーションを理解出来ないから怒っているのは解るけど、そんなに怒気を纏ったら美人が台無しだよ?
「本当にイリスは母さんに似てきたよ、おっかない所なんかそっくりだ」
イリス達の母親をシンイチは知らない、写真や肖像画で見た事はあるが穏やかで優しそうな人だと思った。
事故や病気で殆ど死ぬ事の無い時代で、何故彼女達の母親が死んだのか。彼女達の家庭事情にまで踏み込むにはオレ自身が他人過ぎる。
玄関が閉まるまでロクさんは動かず、ハチさんとオレが荷物を運ぶ。
土産は手渡し?が重要なのだと、多少サイズの大きい物でもトランクに詰まれ、叔父さんとアリス達は屋敷の奥に行く。そこでようやくロクさんも搬入作業に加わる。
この執事型の二人が揃うと基本会話が無い、動きに無駄の無い足取りで土産と荷物を持ち上げて軽々運ぶ。中には古い木像から謎の石版、厳重に梱包された何か。
「シンイチ様、それはこちらで」
タグの番号で管理しているらしいのでオレには解らないが、仕事用かそれともオヤジの研究用か?(機械部品って?)
車のトランクの底には水槽とスズキ?ノッキングされた冷水保存、今日の晩ご飯だ。(このサイズならムニエルか姿焼きか?)相変わらず積み荷の種類といい積み方といい、ゴチャゴチャしている。細かい事とか興味の無い事には無頓着な性格が出ているよ。
「そちらはハチが調理場へ。ではシンイチ様、お嬢様方のお土産を落とさない様にお願いします」ロクさんはトランクを頭に、手荷物を腕に、大箱を抱えて先に行く。
屋敷の見取り図とセンサーで障害物を避けて歩く、昔背後からチョッカイをかけたが簡単にかわされ痛いでこピンを喰らった事がある。
「要人警護が仕事ですので」そう言うロクさんを調整した事は無い。
執事仕事中心のハチさんとは少し違う、防弾・刃・火・電・繊維の服だけでもかなりの重量、それを着こなしつつ、索敵と要人を軽々運ぶ機動性。
(そうなると出力だけでもかなりの物になる筈なんだけど・・動力は何だ?)
水素か・液化ガスか・核って事は無いだろうけど。
荷物を運び入れる為に開けられた扉を進みリビングへ、中では滅多に嗅がない芳ばしいキャラメルの香り。
「先に休ませて貰ってるよ。ああ荷物はそこへ、それと荷解きをしたいから・・ああっそっちの大きいヤツと白いトランクは別だ。ロク、そちらは娘達の部屋へ」
またか、叔父さんは娘達のサイズを把握しどこで買ったのか謎の衣装・服を買ってくる。 先日のアリスが着ていたやたら面積の少ない水着とか、ハロウィンの仮装とか・・・ まったく良いセンスしてるぜオジキ!
お菓子・オルゴール・画集・レコード・娘に対する気遣いとか大変だなぁ。
そして反応は思ったより不評なのが哀愁をさそう。
「ははは・・シンイチ君、この菓子なんか美味いぞ?少し食べてくれれば解るが・・」
ナッツのパウンドケーキ、それもタップリと酒気を含んだ本格的な物は確かに美味い。
口に入れると口中から上がるアルコールの甘酸っぱい香りと、噛めば歯応えあるナッツ、しっとりとした生地と交わり噛む程に味が変化を起こす。
(ナッツが3・・6種類か、一切れでここまで変化する味わいを、更に紅茶を飲む事でブランデーを含んだような芳醇な香りが喉から鼻へ抜ける)
『美味!』「美味であ・る・・ます」確かにチョコやクッキーの直接的な美味さや甘さとは少し違うが、味の変化と余韻を考えれば最上のケーキの一つと言える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます