第5話
秋の夕日は早く、自転車ベルトをどれだけ早く回しても屋敷の明かりが見える頃には月が背中を追ってくる。
大きく丸い月のお陰で夜道は明るく、足元を照らすライトも使えば前輪で石を撥ねる事も無い。それに・・・街頭を減らして監視カメラが見ているから、普段はもっと暗い・・暗くしている。赤外線・音波・振動・熱、後は金属と静電気か?
対応するレンズを通せば彼方此方に警報ラインが引かれている。
「よお!お帰りシンイチ、今日はお楽しみでしたね」
ああ、久し振りに、大いに全力で遊んださ。
影から飛び出した案山子頭の声がやけに陽気なのは、なんだ?
「不純異性交遊じゃないからな?そのどこかの宿屋のオヤジのような言葉は、どこで憶えて来るんだよ」
ネットの海とかアーカイブから拾って来るんだろう、最初に性格設定したヤツは、
功日彦に一体何を求めたんだ?
チッ「お嬢が怒ってるから追加燃料にしてやろうと思ってたのに、お前それでも男かよ。監視に隙があったら女の尻を追い掛ける、それが思春期男子ってやつだろ?」
本当にどこからそのくそ情報を見つけてくるんだ。ウィキペディアなら書き換えが 必要な類いのデマ情報。全国の思春期男子に謝れ!
「イリス達・・・怒ってるの?」
「まぁ・家族が連絡も無く、日が暮れるまで遊び呆けてたら心配するわな」
メールくらいはするべきだったか、こうなれば平身低頭謝るしか無い。
(待て!オレの懐には美味そうな煮物がある、これでワンチャン無罪の可能生もある、と思いたい)少なくとも夕食の時間にはまだ早い、美食は人の怒りすら凌駕するだろ?
美味しいお菓子やディナーを前に、人間はいつまでも怒りを持続する事は出来ない。
貢ぎ物を持って来た属国の人間を鞭で打つ事はたとえ大昔のエジプトやローマ・
モンゴル帝国だってしたという記録は無い。
夕日も落ちて夜風が吹き始めた時間、虫の声はこれから夜に向けての月を待っている様に静かだった。本来優しく向かえる筈の外灯はやけに寒々しく、家からの明かりは何かを予感させるように眩しく明るい。
「功日彦さんや、先に玄関を開けてくれないかね」
鍵は帰宅者のシンイチを確認して開けてある筈、扉を少し開いて中の様子や音の一つでも捕える事が出来れば、素早い対応が可能のなる。そう謝罪の対応がな!
「・・偉くなったもんだなシンイチ、オレにドアマンの真似事をさせるとかな。生憎オレは庭師であってホテルマンじゃねぇんだ、そんな願いは聞けねぇ」
(こいつ、絶対解って言ってるだろ!)数パターンの表情を持つ案山子野郎は怒っていると言うより(^_^)っている、こいつのaiと性格プログラムを作成したヤツの性格だ。
顔認証・音声診断で人間の精神状態を把握した上で、嫌な返事をする。
「もし、オレが『頼む』と言ったらどうする?」
基本人間の願い・命令を優先するのが人に使えるロボットの宿命。曖昧なお願いでは聞けない頼みでも[命令]や[願い]は優先して実行するようにプログラムされている。
「しんいち、オレのマスターはここの家長だぜ?その次ぎがお嬢さん達だ、
それでず~~と下にシンイチだ。お嬢さん達が望んでいる事を、オレが無視する訳にはいかないんだぞ?」
男同士の友情は無いのか?大体イリス達の望みとか、功日彦の想像ロジックだろ? 人間の本当の望みなんて理解できるのかよ。
まぁこいつは昔オレを木につり下げた上に、棒でつつくようなヤツだ。姉妹の喜びそうな事なら率先してやる、そういうヤツだ。
仕方無い、[鷹の巣に手を伸ばさないと鷹の子は手に入らない]
たしか大陸の鷹匠の言葉だ。
出る時はあんなに軽かった戸も、今じゃ重く冷たいカサンドラの門。門番はいないが開放なくして英雄は生まれない。
三和土に靴を置きスリッパに履き替える、ただそれだけの時間。玄関を開けた時にはいなかった者が、シンイチが頭を上げた時にはそこに立っていた。
オスマントルコ・ゲルマン帝国にもいなかっただろう金色の強帝、
イワン雷帝の如く、怒りと恐怖を纏う者が其所にいた。
シンイチの感じた何かは素早く体を動かし、神速の土下座を敢行。
「帰宅が遅れました事、実に申しわけございません!」
ポシェットに入れたお土産を素早く差し出し、チラリ見上げる。 腕を組んだ雷帝は未だ溜飲を下げておられぬ様子。
ゆっくりとタッパーの蓋を外せば保温の効いた箱から出汁の利いた根菜と、鳥肉の良い匂い、さて・・どうでしょう・・チラリ・・
「イリス、シンイチを虐めるのはそこまででいいでしょう?それに反省だって、
している見たいよ」
はい反省しております、正に丹頂鶴餌を捕るが如く、頭を下げるしかございません!
「シンイチが外で遊んで来るのだって、元々予定されていた事でしょ?外で女遊びを憶えた不埒者でも無いのに怒り過ぎては可哀想よ。そうよね?」
・・・まことに・・その通りで・・ゴザイマス。
視線が後頭部に刺さる、ドライヤーで完全に乾かした筈の頭がぬれているのは・・・汗のせいです!
「・・たしかヨシハルさんでしたか?今日も都合良く時間が取れたのでしょう?」
「そう!そうなんだよ、それで野球をする事になって、気が付けば夕方になってさ」
「ヨシハル・・・佐倉・メグミ?」
子供のころ、最初出会った時・[恵春]ヨシハルと読んでからずっと、そう言っている。メグミが本当だけど本人も「ヨシハルでいいよ、いまさら」と言ってくれるので。
後、照れくさいから、そのままにしている所も大きい。
静かに空気の温度が下がった気がする、数秒の沈黙も体感では一分近くに感じる。
「確保!」素早く功日彦がシンイチを押さえ、ハチさんが何かでシンイチの頭を覆う。
後手に捕えられ、そのまま歩かされた。
(まさか誘導尋問か!ちくしょうめ!功日彦が背後で着いて来たのもこの為か!)
鞭の後、飴を与えるフリをして自白剤を投与してくる、なんてコンビネーション、 流石は姉妹、息の合った・・・
眩しい。座らされ袋を剥がれ、シンイチの前にあるのは無機質な金属テーブル。
「黙秘は認めない、沈黙は肯定と判断します。嘘は言わないでね、キズ付きますから」
正面に座るのはアリス、言葉巧みに聞き出すには感情の出やすいイリスには向かないと判断した結果か。
「先ず、本日の行動を一つずつ確認するわね?」
・・・・・
ちょうどシャワーを借りる話になった途端、「「ギルティ!」」ってなんでだよ!
「いやいや、アリスさん。汗を掻いたら流す、これ紳士の嗜み。おかしな事は無い」
「それで?その後シンイチの行動は?」冷酷な声だ、こちらの言い分は箸にも掛からず、これは・・・・・怒っている?
「ヨシハルの課題ロボの調整と油挿し、その後汗と油で汚れた体を洗う為にシャワーを借りて直ぐに帰ったんだ。時間は大体1時間くらい?とにかく急いで帰ったんだけど、夕日のヤツが早く降りちゃって!秋分過ぎにしては暗くなるのが早過ぎたんだよ!」
トラブルは口にしない方が良い、嘘は言わず本当の事でも多少ぼかすくらいは必要だ、生きていく為には。
「なるほど・・確かに動きの流れ・必要性・掛かる時間の妥当性、疑う余地もない完璧な行動順序ね」
「そうでしょう、そうでしょうとも。私は嘘偽り無く真実のみを話しているのだから」
これにて裁判は終了、判決は無罪、疑わしくは罰せずが原則、冤罪は駄目・絶対!
「ただ・・シンイチの言葉と話の辻褄・・・完璧すぎるのよ。普通、所々で何かが入ったり・急に思い出したり・意味不明瞭な事、おかしな事が有ったりするのよ?」
鋭い、『完璧なアリバイは、完全に犯人の証拠』とは推理小説の基本。
「イヤイヤ、世の中ってそう言うもんだよ?何もあやしい事なんてございませんよ」
「・・私はね、シンイチ。嘘・言訳・欺しを見破るには、相手の表情や声、血圧・視線・・それと発汗で解るらしいの、本で読んだから」
ゆっくりと近づき、その手が後で縛られた手の平を触る。「かぷっ」
「!!?な?なんか噛んだ!小さい何かが指を噛んだ!」つんつんと指先に指が触れた後、小動物[子猫]?のような硬い歯が指を挟み、柔らかくぬるんとした物が指を舐めた!
「・・恥じらいよ・・本当は・・」顔を赤らめたアリスが口元を押さえ、向こうを向いている、耳まで赤くするくらいならしなければいいのに。
「デ?ドウナノ?シンイチは嘘を言っているの?」こっちは雷帝より炎帝。
顔を赤く染めて笑いながら怒っていられる。
「そんなの・・解る訳ないじゃない、シンイチの普段の味を知らないのだから」
なら、なんでしたんですか!。
イリスが怒りを通り越し、御怒りになっているではございませんか。
「イリスさん、貴女はさぞ立派な淑女と見受けられる、なぜそのように御怒りになられておられるのでしょうか」ハハハハ。
首を掴まれイリスの真っ直ぐな目にオレが写る。硬いが細く、冷たいが、繊細な指が両耳を掴む・・・ぺろっ・・
「なんで顔を舐める!僕が家を空けた1日で何があった!」
「ん・・!つっ・・!ぁ」ハァハァハァ。
「この味は・・えっと、そう!嘘、嘘を言ってる味ね?」何故疑問符?
後、顔が見れないくらい照れるならしなければいいのに。
ゆっくりと左手が口を触る、噛めという事だろうか?
「ひゃ」・・すびゃやく指を引いたイリスは顔を向こうに向けたまま、
「そうよ、わたしは・・シンイチの口に指を突っ込む事だって出来るのだから・・・・えーと、これはもう、質問じゃない・・のよ?尋問?シンイチ、
なにか隠しているわね?」
二人は顔を背けたまま、聴取を続けるつもりらしい。
「お二人とも。積もる話は御有りでしょうが、そろそろ夕食にしていただかないとクマの料理が冷めてしまいますが」
ようやくの助け船、ハチさんは姉妹の作る妙な空間に割り入ってまでオレを助けてくれるなんて、なんていい人だ。
「シンイチさまへの拷問は、食事の後にゆっくりとなさっては如何でしょうか?」
・・・・この屋敷に味方はいないのか。
白身フライ・カボチャスープ・サラダとマッシュジャガイモ、その中で異彩を放つ根菜とこんにゃくと鳥肉の煮物。
食の少ない姉妹の前には小さい器と小さな食材、シンイチの前には大盛りの皿、
いつもの風景だ。
体の多くを機肢で補う彼女達の消費カロリーは少ない、消化器官が制御するらしい。
その分間食やサプリでバランスを取ってる、彼女達の栄養バランスや体調管理も
ハチさんの仕事。
おやつ・お菓子の取りすぎを押さえる為に、食事時間を守らせた可能生もあるのかもしれないなぁ。
下味の付いた白身と衣に掛かる僅かな胡椒、噛んだ瞬間は舌と鼻に胡椒の刺激・その後に魚自身の脂が溢れ、身はホロホロと弾けながら衣のザクザク感と混ざる。
カボチャスープは繊維の無いくらいに漉され、カボチャの甘みと飲みやすさを合わせ持つように牛乳でといてある。上に浮いているのはクルトンではなく、米を圧力で膨らませたポン菓子か、白と黄色の対比が面白い。
人参と水菜のサラダに掛かるのは梅酢のジェリー、黄色は細く切って上げた南瓜。
ジャガイモだけは・・ジャガイモだ、マッシュした熱熱ジャガイモを取分けバターを乗せると溶け出して柔らかいジャガバタを作る、食の細い姉妹の為に柔らかく美味しい物をと考えられたメニューだろう。
「良い仕事だ、シェフに感謝の言葉を」
食前には全ての食材に感謝の言葉を、食後にはそれを美味しく料理した料理人に、 最後に今日も暖かい食事を与えてくれた平和と大地に感謝を。
さて、デザートをいただいている姉妹より先に歯を磨いて、風呂をいただいて寝る。
「シンイチ、先にお風呂に入っていいわよ」
アリスのにっこりと笑顔に見えるのはデサートの甘みに対しての表情か、
それとも逃げようとした気配に対する牽制だろうか。
(素早く・烏の行水の如く・全てを済ませてたぬき寝入りす。それしかない)
はぐらかし・誤魔化し・返答を先送りする、その為に必要なのは沈黙より寝たふりだ。
一流の船乗りは嵐を予感すると絶対海には出ない、いかなる歴戦の船員を抱え、
最新最大の船を持ってしても海と言う自然の前では無力だと知っているからだ。
「もはやこの暖められ満たされた湯船すら罠だったのか・・」
手を伸ばせばいつでも指先が触れる距離、タオル1枚を理性の盾にしたアリス。
「罠とは酷いわね、イリスを見たのだから姉である私も見せるべきでしょう?それに家族なのだから、見る見られるなんて思う必要すらないのだから」
凹凸の少ない体に濡れたタオルが張り付き、白い肌が浮き上がっている。
風呂場の侵入後シャワーを浴びた彼女は何故か椅子に座ったまま動こうとしない。
「まさかと思うけど、オレに体を洗わせるつもりじゃないよね?」
機肢で体の動きが鈍いからといって、年頃の少女が年頃の男子に体を洗わせるのは、非常識、10歳の子供ならまだしもオレはもう16だ。
して良い事悪い事の区別は付く。
「そのつもりで混浴にしたのだから、早く浴槽から出て欲しいの。私を風邪引きにしたいのかしら?」
浴室が外より暖かいとは言え、濡れたまま座っていて冷えない筈が無い。
ましてアリスの細い体は元々無理が出来る状態では無い。
(オレが恥ずかしいと思う方がおかしいのか?)
それともアリスの幼い体は精神も幼いままにしているのか?
「もう大人だろ?自分で洗えよ」
「・・・大人としての答えが欲しいならして上げても良いわよ?」
「大人としての答えってなんだよ」思わせぶりな言い方して、大体・・
「こんな体でしょ?だから信用出来る好きな人に洗って欲しいの。
できれば優しく洗って欲しいわ」全身くまなくね。
背中を見せたままで・・「信用されるのはいいが、頭と背中だけだ!それ以外は自分で洗うこと、これ以上の譲歩はしない」あと後を見ない事、一部が結構大変な事になっているから。
女性から見て、信用を無くす部分が男にはあるんだ。そこが解らない限り、アリスはまだ子供だよ。
理性をフル動員して手を泡立て、アリス用のシャンプーはオレの物と異なる。
深い花のような甘い匂い。
細く柔らかい髪が指に絡み、切れない様に丁寧に洗いながら、柔らかく丸い頭皮に指先が触れる。もみもみもみもみ・頭全体をもみ洗い。
泡が細い肩・首筋・背中を滑り流れ落ちて行く。
普段は触れない髪は手の甲を流れるように包む、思わず指先で摘まんで、感触を確かめてしまうのも仕方無い事だ。
「そろそろ流すから目を瞑ってよ」
鏡の向こうからなにが楽しいのか微笑んでいるアリスの頭を下げさせ、シャワーを当てて泡を流す。次ぎに上を向けさせ額を中心にお湯を当て後に流す。
泡がオレの体に掛かる、甘い泡が気にならないのは家族だからだ。
(だから一部!お前は大人しくなれ!)泡に撫でられ勢いを増すのは男だからしかない。
「後はコーディネートな、大人しくしててよ」
「ウン」目を瞑ったまま無防備なアリスの答えを聞き流し、倒れないように肩を支え、コーディネートのボトルを掴む。
(クソッ)柔か過ぎる肌と細く軽い背中に体が反応する、アリスが信用して任せてくれているのに・・冷静になれ!おれ。
髪全体に滑る溶液を塗り込み、タオルで包み上げて終了。今度は普段見えない肩口と首筋が上気したように染まっている。なにより肩と背中が近い!近すぎる。
フゥフゥ・・「次ぎは背中だな・・少しタオルを外すから前で押さえてよ」
・・真上を向いたアリスの顔が目を開く、透き通る碧と金の瞳にオレの慌てた顔が。
「キスをしてもいいわよ」ハイハイ
「じゃあ目を瞑って」つるりスベスベのおでこに、口を付ける、まったく子供みたいな事を言い出す。
目を瞑ったアリスのすこし振るえた頬と、目を開いた時の驚いた顔はいつもの綺麗な顔とは別の可愛い顔、そこで赤くなられたら恥ずかしいだろ。
(赤くなって顔を下げてくれたお陰で助かるのだけど)
うずくまるように前屈みになってタオルが落ちる、白い肌と滑るような肌に1本の紐、腰より下には目を向けないように・・って白い水着が。
「・・水着、付けてない方が良かったかしら」
「い・いやそんな事は無いよ、十分綺麗だから」下半身がそれを証明している。
・・・沈黙、二人とも沈黙したままオレは無言で背中を洗う、泡あわの背中を流し、一応肩続きで腕と指先を洗う、細い指に直接手で泡を当てたのはそうしたかったからだ。
水着なら全身洗ってもよかったのだが・・・足とかお腹を洗うのは・・恥ずかしい。
懸命に泡立てたタオルで体を洗うアリスから目を外し、体に着いた泡を落とし。
再度入浴、「んっ」とか、「んぁ」とか吐息が風呂場に響くたび反応してしまう。
洗い終わったアリスの体を流して抱き上げ、風呂に浸す。
軽くスベスベ彼女の体は、油断すると簡単に落としてしまう。結果的に体を密着させてしまう事になるが・・
逆上せる前に浴槽から飛び出し、水のシャワーで頭と体を冷やして脱衣所に。
「熱くなったら声を掛けて、手伝うから」
小さい返事が返ってきた、多分バレてないと思うけど・・バレてないよな?
新しいシャツと下着に着替え、持て余す時間は空調の風で頭を冷やす。
・・・・長いな、女性は長湯が得意なのか頭所か全身が冷えて湯冷めしそうなほど。
(大丈夫・・か?)こっそり覗いた風呂場は、曇りガラスと湯煙の中で動く仕草が無い。
ほんの少し隙間を開き、中を覗くと湯船の縁に動かない頭が見えた。
大丈夫じゃないだろ!飛び出して湯船から引き上げ、頭に冷水を当てる。
コンディショナーを落とし頭を冷やす。体の方に直接水を掛けるのは心臓に悪い、先ずは頭と髪、その後は・・足先か?
「ん・・」うっすらと瞼が開く、
寝ぼけたような無防備な顔を濡れタオルで汗を拭く。
「大丈夫か?動悸は?心臓は動いているか、喉は渇いてないか?」
溺れた様子は無かったが湯を飲み込んだかも、呼吸はしているが、気道の詰まりは無いか?顔に触れたタオルにアリスの手が触れる、そろそろ水シャワーを止めて。
「熱くなったら呼べって言ったろ、風呂場で寝るなんて危ないだろ」遊び疲れた子供か。
「泳げない人魚みたいね、惨めだけど・・少し幸せなのかも」
「アリスが人魚姫なら、きっと泡になんてならないよ」
声なんてなくても、キミから離れ無いから。
水を浴び、流れる髪がオレの足を撫でる。上向き、顔を見つめる彼女を手放す王子はいないだろ?オレは王子じゃないけど。
「姫なんて言ってないわよ?」少しだけ嬉しそうな笑顔・・ミスった!恥い!
「さて!そろそろ頭も冷えただろ?体を拭くから運ぶぞ」
頭に絞ったタオルを巻き、1度横にしたアリスをおいてバスタオルを持って来て、
体に掛けて抱き上げ。軽い体を脱衣所に運び、乾いたバスタオルとタオルで頭と手足を拭く。ドライヤーで髪の水分を飛ばしハチさんを呼ぶ、後は頼んだ。
下着の中までびしょびしょだ・・ああああああ恥ずかしい!なんであんな事言った!
いや違うんだ!人魚って言ったら人魚姫だって思うじゃん!
誤認したって仕方無いじゃん!そう、今日のオレはどこかおかしいんだってばよ!
無言でスクワット×40・腕立て30・追いスクワット30・腕立て20×2。
スポーツルームのルームランナーでひたすら走る、
忘れよう、そう今日のことは忘れるべき出来事だ、きっと10月の月が悪いんだ。
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