第4話
4時間程休み、昼からの授業と少しの運動。今日のイリスの顔は何か微妙だったが、眠そうなオレを気遣ってくれているのだろう。
(少し頭が眩むけど、イリスの調整は手足だけの筈、半分位の時間で済むだろうから・・) 少しの熱はシートを貼っておけばいい、病気じゃないから紅茶の香りで熱くらい下がる。
・・・・
「それで、イリスは何をしているんだ?!」
調整室の部屋の明かりで一瞬だけ見えた白く細く、柔かそうな肌と体。マントを広げたようにタオルを広げ、大の字を作る我が家族。
「アリスのも見たのだから、私の体も見せたげてるのよ!・・どうかな・・」
「カプセルの中は見えないよ!」
恥を知ってるなら早くタオルを巻け!風邪を引いても知らないぞ。
「どう言う事?」
急ぎタオルで体を隠したイリスがカプセルの影に隠れて睨んでくる。
「キミの姉、アリスが何を言ったのか・・大体は想像つくが、
間違っていると言って置く。シンイチの表情を見れば解ると思うが」
・・・
「全部見せたわよ・・とか言ってたし、恥ずかしい秘密、知られたって・・」
「調整中の体の数値は全て確認させた、当然骨格や臓器・血液の数値まで全てね」
!!!?!???「シンイチ!全て忘れなさい!今!直ぐに!」
「見て無い!オレは何も見てない!照明の明かりで何も見えなかった!
危険な気配を感じて後を向いていただろ!」無実だ無罪だ冤罪だ。
もう少し育ってから見せたかったのに、とか聞こえ無い。
なんで家族の育った体を見たがる男がいるかよ。
・・・・多分しばらくは忘れられないだろうけど。
「見ないでよ」見て無いから、早くカプセルの中に入りなさい。
カプセルの蓋が閉じ、体の洗浄が始まるまでイリスの目がオレを追ってくる、
なんだか怒っているような目だ。
「大丈夫だから、カプセルのガラスは曇っているだろ。信用しろよ」
体を縮込めて睨まなくても見えないよ、だから落ち着いて・・離れるからな。
「数値は・・少し興奮しているようだな、後筋肉に緊張が見られる・シンイチ、
ちょと胸でも揉んでこい、多分落ち着く筈だ」
「絶対嘘だとわかる嘘は言わないでよ、オヤジもあの拳を一度喰らってみろよ」
・・・チタンの骨格と人口筋肉、感情でリミッターが外れた彼女の拳は凶器だ。
セイフティーのお陰で死にはしないだろが、死ぬほど痛いのは知っている。
「おおこわいこわい」口ぶりは適当だが目は数値を追っている。技術者としては信用しているオヤジだが、どうもその辺が両親が揃ってない原因だろうな。
「肩・腰の関節部通常摩耗値、筋肉の損傷無し。運動・成長共に想定の範囲内・・・シンイチ、彼女は美人になるぞ、今の内に告白でもしておけよ」
・・何が『可愛い娘が欲しかったんだ』一体オヤジはどうしたいんだ。
モニターに浮かぶイリスの成長した姿は確かに・・・絶対誰かの理想が入っている。
オヤジがそれともイリス達の両親か、全く大人連中はいつでも娘が可愛くてしか無いのか・・シミュレーション結果が出来過ぎだ。
「手足の成長は胴体骨格の成長値と合わせるんだよな?」
チタン骨格の数値を㎜単位で合わせ、ハニカムバブル加工が内側から骨を延長させる。
・・成長値が15㎝を越える度に骨の入れ替えを必要とするチタン骨格・・その度に使用者に苦痛と疲労を与えるのは・・どうにかならないのか。
(知識では知ってたけど)
ガキの頃に見たイリスの玉のような汗、多分この施術が理由だろう。
なんであの時イリスが笑えたのか、オレを心配させない為だったと今なら解る。
気の強い彼女の事だから弱った所を見せたく無かったのだろうが、家族の前くらい文句を言ってもいいんだ。
「骨延長による痛みは、人間の成長痛より遥かに痛い。人間の骨は㎜以下の成長だからな、辛そうにしてたら優しくしてやれよ」
当り前の事を聞くなよ・・・いままで以上に優しくするべきという事だろうか。
「わかってるよ」
数値上一晩で1、3㎝伸びた事になる、このまま行けばオレの身長を抜くだろう。
インチキ成長も大概ズルイと思う。(予想身長187だと?卑怯だろ!)
・・牛乳と小魚と小エビの料理を増やして貰おう。
「血液内ナノマシンの数値は規定数、内臓・脳・ホルモン体全て異常無し、健康その物だ。
シンイチ、よく見ておけよ彼女の綺麗な内臓を」
健康状態の確認からすれば正しい発言だと思うが、なんとなく変態的な気配。
「輪切りにされた内臓が綺麗とか・・医者のような事を」
三次元CGで浮かぶ内臓をアップで眺め、心臓の脈動・肺の収縮を見られているイリスはどんな気分なのだろうか。(内臓だから、恥ずかしく無いもん)とか?
脳の輪切り・眼窩神経・内耳の状態・・・生身の部分を見る必要があるのだろうか?
「・・・少し長いじゃない、いつもはもっと・・」
「ははは、情報差異による事故があったからね。
少し時間を置いた方が良いと判断したんだよ。これでも気を使ったつもりなんだが」
そのシンイチはすでに部屋を離れ、休憩している。
父親としては起き上がる彼女を手伝う程度の気を使って欲しかったが。
車椅子で部屋を出てくイリスを見ればそれは杞憂か、あの勢いなら息子が多少痛い目を見るかも知れないが・・(シンイチのやつ、変な事してないだろうな?)
(それはそれで面白いか)
眠気の限界に達したシンイチが寝ている中で、拳骨で起こされ説教からの添い寝に気付くのは翌朝の事である。
自給自足生活と必要品のネット配送で殆ど全てが足りる生活でも、やはり買い物は必要。特に引き籠もりっきりになりやすいシンイチからすれば、息抜きの時間として絶対なくせない時間だ。それがたとえ月一回・半日としてもだ。
「雨が降りそうよ・・今日は止めておかない?」
「私が遊んで上げるから今日は家にいなさいよ!」
「雨が降れば傘をさすし、家の中で遊ぶのは今日は止めとく。
もう子供じゃないんだ、1人で行けるし帰ってこれる、心配し過ぎだよ」
姉妹の姿は目立つ、特に体の多くを機肢にしているアリスはそれだけで資産家の娘だと思われる。誘拐・強盗など必要の無いごたごたを屋敷に持ちこまない為だろう、
彼女達は外出を極力極限までしない。
彼女達が最後に外の町に出たのは2・3年くらい前だろうか?
分厚い窓ガラスと防弾装甲の車に乗って、窓も開けず外を珍しそうに眺めていた。
(それで無くても、昔っから美人は災いを呼ぶって言うし)アホの金持ちが
『一目見て』とか言い出したら・・困る・・のか。
カードとGPS、携帯端末と・・銀のナイフ?
「姉さん、食器は食器洗い機に戻すように。あと住所を書いた紙も要らないから」
朝食で使ったナイフを何故渡す?月一回だけど毎月出かけているだろ?
毎月大体こんな感じではあるけれども。
「通話の電源は落とさない事!あと困った時には必ず連絡を入れる事!それから・・」
「外の女に気を付ける事」
アリスの言葉にそれだ!見たいな顔をしない。我が姉妹は何を考えているんだ。
昔『姉さん以上の美人がいたら付いて行っちゃうかもね』とふざけて言った結果、
ロープでグルグル巻きにされて外の木につり下げられた事があった、
「外の空気は美味しかった?」とはイリスのやつ、酷いやつだ。
電気自転車で20分、ベルトは音も静かに周りタイヤは地面を蹴って走る。風は季節の空気を含みつつ、季節を足踏みするような日差しで暖かい。
道路に走る車は少なく、空を飛ぶドローンが荷物を運んでいる。
大型大量の荷物は海路を船で、陸からは長々と続く電車輸送、僻地にある屋敷には大型無人ドローンで十分事足りる。
風と雨で運べない時もあるが、田舎の家は大体が自給自足。
医療品が必要な家は元々田舎に住んだりはしない。
田舎の医者不足・医療の減少・不便、そんな事は地理的に解っている事だ。
不便・無理なら人間は工夫し、それでも無理なら住む場所を変えるのは当然。
結局我が儘を通すには体力か資本力が必要と言う事。
公共力は少数の為では無く多数の納税者、もしくは多くの税を納める者の為に使われる、金を払う者に対する公共の[サービス]なのだから。
湿っぽいトンネルを抜け、ようやく見えて来るのがシンイチの屋敷から最も近い町だ。
見た目古くさいクンクリート3階建の事務所、下にはスターフルーツやドリアン・ ライチなど誰か買うのか解らない果物と共に『みっくすじゅ~す』の文字。
隣の八百屋も赤いほうれん草やビーツ、赤いパプリカ・・赤を基調としているのは
「情熱の赤だぜお客さん!赤を喰って元気モリモリ、買ってくかい?」
珍しいので赤い茄子と赤い豆を買った、茹でると色が抜けるので焼くと良いらしい。
肉も魚も種類だけは多い、ウエットエイジングのガンガルー肉は誰が買うのやら。
(クローンか牧場か、保存技術のお陰でいつの肉か知らないけど・・美味いのか?)
消費から計算して保存解凍を行うから、生産者からすれば適時適量の動物を処理加工すれば良くなったと聞くけど・・鮮度を求めるオレとかはやっぱり罪深いのか。
人はまだ命を殺して喰う事からは離れられない、そのくせに美味い不味いと口にして陸海空に手を伸ばす。殺される側からすれば・・・なんて考える事自体傲慢なのだろう。
「いらっしゃーい・・って坊やか、また何か探しに来たのか」
古書店のオヤジは人が宇宙に行く時代になっても本に埋って、古書を開いて読んでいる。
「神明究晋史・・また変な物を見つけたの?・・少し触らせてよ」
「本物は木管に書かれた古代の神様の系図だぞ、それを3000年前の僧侶が書き写したいわば写本だな。それでも結構なお宝だ、古代地球文化の欠片だからな」
手触りはゴワゴワして表面はつるつる、麻紙に蝋をコーティングしてあるのか?。
「情報はデータ処理出来るがよ、現物の手触り・感触や匂いは、見て触って見ねぇと解らねぇ、文字や絵はカメラに収まっても、書いた者の心・本が渡り歩いた空気はその物に触れないと感じる事はできねぇ。」そうだろ?
「少しわかる気がするからオレはこの店が好きなんだ・・・
でも今日は何も無さそうだ」
「手書きの絵本とか、標本付植物辞典とか渋すぎるんだよ。
たしか16世紀のヨーロッパの物を集めていたっけ?」
「・・・今は古代の大陸国の水墨画かなぁ・・」大革命で殆どが焼き尽くされ焚書された古代芸術、その後お土産としてマガイモノが多く作られ、
名人名品も生まれたが。それ以前と以後では墨も筆も紙も大きく違う。
「お前なぁ・・・ボウズ、アノ国は今、大鎖国状態だ。あの辺の物を持ってるだけで共有主義・覇権主義を疑われるんだぞ?」まぁ解るけどな。
芸術・美しい物に国境は無い。国家も制度も、制作者だって関係無い。有るのは、人が求めさせる作品だけだ。
「無いから欲しいって気持ちは解る、手に入らないから飢え乾く気持ちもな・・まぁ憶えていたらな・・」
こう見えて古書店のオヤジのコネクションは広い、本気で頼めば手に入れる事は可能だろう、でもその分値が張る。だから運良く手に入れば、程度でお願いします。
(大体オレに売るのは模写した贋作、B品二流三流の偽物でも結構高くなるのは・・・ね)
天井まである水槽に動く魚を見つめつつ、金魚の尻尾を観察。海の無い山奥で巨大魚を飼うのは余裕のある証拠だ。今も商談中の店長は銀色の魚を前に水質・水温、水槽の広さを聞きながら何かのカタログを広げている。
鯛や鰺もそうだが、オレは食べるならここの水槽の魚は選ばない。ストレスと餌の違いで肉が不味くなっているからだ。だから「面倒になれば焼いていただいて」とかは聞き流すべきだ。でもペットの豚とかガチョウとかは美味しく戴けるだろうね、何せ餌が良い、飼って喰うならお勧めだ。
外側だけは古くさい町並をコロコロと歩くと向こうから・・はこが歩いて来る、
顔が四角の手足は人間っぽい箱、ソイツの目?がオレを捕まえ真っ直ぐ歩いて来た。
箱頭の知り合いはいない筈だが・・ヨシハルか?
「ようやく気が付いたのかよ?シンイチ、友達?がいの無いやつだなおい」
箱の頭の下、首の辺りから声がする。たしかにヨシハルの声、いつの間に顔まで機械に換えたんだ?
「馬鹿!ちげぇよ、課題だよ課題!遠隔操縦・操作運転の課題だ。俺って遠隔センサーの課題取っちゃってよ、今は家でセンサー周りの確認を兼ねた散歩の途中」
「おお、あまり自然だから顔まで整型したのかと思った。まさか友人?が違法行為に手を出すほどに顔について悩んでいたとは思わなかったから、一瞬心配したよ」
過去、脳まで機械化し全身100%機械の体になった人間がいた。もっと詳しく言えば生身はベットのままで、脳とネットを繋ぎネット上で動くように機械の体を動かす技術だ。
オンライン上のゲームさながらに武器を振り回し、肉体を越える動きで戦う戦士。
実験は、ほぼ成功し、実戦に投入される寸前まで計画は進んだ。
オンラインゲームの上位者、成績や敵に対する反応を元に選抜される筈だった。
・・・だが計画を立ち上げた者、計画を進めた者達は根本が解ってい無かった。
ネットゲーム・オンラインゲームの上位者とは・・重課金者の事・灰課金の事である。
更になんチャラーーオンラインはネットに存在する、据え置きゲームでは無い。
初期からバグの多発、デバックすらまともにしていない実験ゲームは多くのユーザーを飲み込み長期メンテに入った。
曰く『メンテが明ければ何が待っているんだ』それは希望か新しいストーリーかそれとも追加パックか新キャラか新しいマップか。
『それはな、新たなメンテがまっているんだ』と言う名言が残ったくらいだ。
メンテの無いオンラインゲームは無い、そして長く続くメンテはユーザーに課金すら許さず結局サービスは終了した。全てのユーザーはネットに閉じ込められ、サービス終了と共に人生を終えたのだ。
それ以降脳を直接機械に繋ぐ事は禁止された、電脳空間に意識を置く時には必ずバックアップを外付けハードに置く事を義務付けられた。
ただでさえ出生率の下がった国民を、自殺させる可能性は排除したかったのだろう。
高齢出産・高い磁場・脳を酷使する世界・肉体を長く保つ為のサプリ、あらゆる可能生は考えられるが、子供の数が激減している事は数値が物語っているのだ。
(それを解決する気の無い国も、どうなんだ?と思う所はあるが。多分食料事情とか、 一人あたりの医療費・掛ける税金の補助とかが関係しているんだろ)
物の生産は機械の発達と改良でなんとかした。なら削減出来きて、押さえられる出費を減らそうとするのは通常の反応・・そうやって人間の世界は閉じて行くのかも知れない。
「また変な事考えているんだろ?シンイチの時々考え込む癖は変わんねぇなぁ」
「そっちは外見から変わったよ、センサーの調整だっけ?レンズはどこだ?」
「全16有るカメラで360度モニターよ!昔で言うVR?頭を振り向く必要無く、背中だって見えるぜ」
当然ロボットの背中だろう、なんだか本気で軍用スーツでも開発しているみたいだ。
機械処理すれば、俯瞰視点とセンサー視点を切り替える事だって出来るだろう、
それはまるで・・・考え過ぎか。
「まあいいや、シンイチ。少し手伝え、キャッチボールでもしようぜ」
「なんで手伝いがキャッチボールになるんだよ、暇してるからいいけど」
機械相手ではどうしても相手の計算速度に異存する事になる、それに対して生身の人間なら、疲れ・コントロールミス・足場など不確定な情報を処理する必要ができる、
「いい加減で適当な相手が必要なんだよ、不意の反応とかよそ見とか。そう言った行動に対してもセンサーが反応出来たら最高だろ?」
所詮戦場も人間対人間だと言う事か、機械を相手するなら相手より処理の早いスパコンを持つ方が必ず勝つだろうが、人間は時に計算に合わない行動をとる事が有るからな。
「やるとなったら手加減はしない、そっちは手加減しろよ」なんせオレは生身なんだから。
「・・・シンイチ、お前・・良い根性してるよ、全く」
秋草を刈られた空き地はこう言った遊び・実験用に、町中に点在していた。
窓ガラスは瓦礫が飛んで来てもキズ付かない硬質アクリル、音も振動も熱も遮断する壁。子供のキャッチボール程度なら、周りの家人は気付く事すら無い。
買ってきた紙製のグローブは濡れても使える安物、ボールもゴムを麻紐と合成皮で包んだ合わせて300円もしない玩具。
手に弾けるボールの感触。バシッと鳴る度に手の骨が痺れ、投げる度に指先に引っかかる合皮の感覚、しばらく筋トレ以外で体を動かしていなかったシンイチの体に血が巡る。
涼しい秋の空気の中でも汗が出る、外側がロボでも中身・操作するのが人間なら、
動きにも僅かな誤差がある。
特に力を込めてボールを投げると、捕ったヨシハルは早い球を投げて返す。
ド真ん中に投げるとヤツも腹に向けての直球が帰って来る。
緩急とわざと捕りにくい位置への返球、無意味に体が喜ぶのは猫と遊んだ時に似ていた。
(相手が人間だから全力で動ける分、もっと楽しい。汗を流す楽しさ、筋トレでは使わない筋肉の隆起、スポーツしているって感覚だ!)
壁打ちテニスと人間相手にするテニスは違う、バッティングも人間相手の方が楽しい。人間ってのは競争相手がいることで勝ちたい・勝負したいと思うだから限界を超えて体を動かそうとして筋肉が喜ぶ。
「・・・ちょっとたんまだ。シンイチ、ここで待ってろ」
しばらく待たされたあと、生身のヨシハルが数人を集めて戻って来た。
「待たせたな!野球やろうぜ!」「断る理由が無い!」
空き地から公園に、集まったのは8人だが、4×4でキャッチャーはロボ。盗塁は禁止で外野もロボ。
「ホームランラインまで飛ばさないと全部フライ扱いって」
「ワンバンさせればライナー扱いだからいいだろ、それより・・」
ガキがワーワー集まれば、大人達がやって来る。ジロジロ見ている中にバットとグローブを持って来た大人までいる。
「ひょとして、空き地を使える時間が決っている?」町の決りとかで公園を借りるには、予約が必要なのかも。
時間がおしているのか、そこの一人は素振りを始めている男もいる反面、座って観客となっている大人もいる。
「人数が少ないんで・・一緒にやりませんか?」素振りを始めた大人に近づき誘う。
「おお!?しゃーねぇなぁ、人数が足らないなら入ってやるか!」
次ぎの打席に割り込んだ男が素振りを繰り替えす(やりたかったのか、あのまま放置してたら・・・・・)
焼き肉を始めた大人・ビールを飲みながら順番を待つ大人、一応チーム分けしたけど、月一でしか顔を出さないシンイチにはよく解らない。
「おっさん外野で吐きやがった!掃除ロボ、おっさんの退場と掃除だ」
体型や体力・筋力・年齢・性別とかはもう関係無い。
空いた場所に好き勝手入り、打席に立ってバットを振る。
打っても三振しても笑って走り、戻ってビールを呷る。
[9回の裏12対8]最後のストレートがグローブに突き刺さった。
「・・勝ったのか?」もうチームとか勝敗とは全くの不明、スコアボードには点が書かれているが、誰がどっちのチームかもうわかんねぇなこれは。
「あ~~もう終りか、しゃーねぇな。ボウズ、肉食っていくか?鳥肉だが、美味いぞ?」
焼きそば・焼き魚・シュウマイ・・簡易蒸し器から饅頭とサツマイモの匂い。
4時近くになって騒ぎも少し落ち着き始め、帰る大人もちらほらと。
「ガキ共には喰わせてやれ、残りは持ち帰れ。ゴミを残さず来た時より綺麗にな!」
代表っぽい大人が声を上げ、大人達の中でゴミを放置する者はいない。
「久し振りに体を動かせた、やっぱりいいもんだな。ありがとよ」
食い物が無くなった者・酒の缶が尽きた者が次々と去って行った。
「オレ達も帰るか」そう言うとヨシハルの仲間達も帰って行く「またな!」手を振って背中を向けた男の名前をオレは知らない。
「オレも汗濁だから帰るわ・・シンイチ、お前シャワーでも浴びてくか?」
(どうせ自転車で帰るから汗はかくんだけど、汗の付いたシャツくらいは乾かせるか?)
「じゃあ頼むわ」ついでにシャツの洗濯もさせてもらう乾燥こみで15分くらいな。
ヨシハルの後をノコノコと付いて行く、夕日が沈み始める前には帰る事を思い出した。空を見あげて空の曇りに時間を確認・・4時半か?電話くらいしておく必要が有るかな。
友の「ただいまー」とオレの「おじゃましまーす」が重なる。
玄関を開け右に納屋、母屋には客を休ませる為の部屋もある。土間に靴を置き、汗で濡れた靴下を脱ぎスリッパを借りた。
「ヨシハル・・自分家だからって靴くらい並べろよ」そういうの気になるんだ。
散らかした靴を並べている間にヨシハルはすでに家の奥に入って行った、汗が気持ち悪いのは解るけど。
ヨシハルの行水はしばらく掛かる・・その間なにか・・
「ってシンイチ何やってんだ?」
「お前こそ何やってんだよ!服くらい着ろ!」シャツとパンツで濡れた頭にタオル、自分の家だからってだらしなすぎる。
「調整だよ調整、ロボットの手足と関節の微調整と油挿し。どうでもいいから服を着ろ」
イリスより発達した胸部と足、顔は男勝りだと思うがヨシハルは女だ。
ガキの頃は男と勘違いしたオレも悪いが、友人として一言いうとすれば自分の体の成長を考えろ!と言いたい。
「めんどくせぇなぁ・・じゃあっち向いとけよ」
ゴーグルをしたオレを他所に脇を抜け、ごそごそと何かやっている。こっちはこっちで手を離せない、クルリとネジを回し、微調整の数値を入力。
「ジャージを着ただけじゃねぇか・・後ロボの整備はまめにしておけよ、結構傷んでたぞ」「耐久テストも兼ねてんだよ、整備は・・・得意のヤツにやらせるつもりだったんだよ」 どっちなんだよ全く、開発脳の人間は前ばかりしか見ないから。
調整・整備は日々の積み重ね、性能の向上は格段には見込めないが機械を十全に使う、精度・耐久力を持たせる為に必要な技術だ。
「ってかお、顔が近い!」覗き込むなら一言声を掛けろよ近い近い!。
「細かい事の得意なヤツめ、ーーー予想数値がコレか、14%の反応値向上・・」
匂いがおかしい、湯上がりのヨシハルは髪も乾かさず、濡れた首筋から湯気がまだ上がって見える。近すぎるんだよこのやろう!。
整備が終わるまでジャージのヨシハルの監視が続く、タオルを交換するタイミングで部屋の空気を入れ換え素早く座る、結局全体の調整まで手を出したが文句は出なかった。
「シャワー借りる、それとシャツの洗濯もするから15分くらい使わせてもらう」
あいよ~、返事は聞いた「・・・あと、覗くなよ?」
思春期のすぎるヨシハルがシャワーを覗きに来た事がある、野郎の体に興味があるならオヤジの体でも観察しろよと思う。
返事は無いが信用する、しばらくはロボの作動確認で忙しいだろうし。
(つい最近、もっとすごい物を見ていなかったらやばかった。具体的に何がやばいかは、解らないが、とにかくやばかった)
幼馴染みとか家族とか、ガードが緩み過ぎだ。オレを男として見ていないだけだろうが、親はなにを教えているんだ・・・最近の親共は放任主義が過ぎる。
熱いシャワーが汗を流す、手の油・頭の汗・全身の汗が足まで落ちる。
「あとガラスの向こうに影が丸見えだ、覗くなって言っただろ!動作確認はどうした!
自分の課題だろ!」
「動作確認なんていつでも出来る!それに覗かないなんて言って無いぞ!」
ハアハア荒い呼吸と、ガラスに張り付くように顔を付けているのは部屋の扉を開かないくらいには理性が残っている証拠。
(このまま表にでてやったらどんな顔するんだよ?なにがそんなに見たいんだ?)
考える人、彼の姿はこんな状況から生まれたのか。顎の下に手を置いて熱い水滴を頭に浴びる・・10秒考えても答えの出ない問題は1分考えて答えがでるといいなぁ。
現実逃避の逃避行・・・何だかどうでもよくなった。風呂場から出るぞ、
扉に手を掛けた瞬間、猫が飛び上がるような動きを見せたヨシハルは完全に扉が開く前に逃げた、本当に何がしたかったんだ?・・あ、バスタオルの新しいのが置いて有る。
(タオルを持って来たならそう言えよ・・・・洗濯終わってた)
下着を着ると少し落ち着く、やはり顔見知りの友人宅でも裸は落ち着かん。
「お!!お邪魔しています」ヨシタカの母親と廊下で遭遇、台所からは煮物か?良い匂い。
「シンちゃん、お久しぶりね。靴が揃えてあったからそうじゃ無いかと思ったんだけど、あの子ったらはしゃいじゃって、ごめんなさいね」
いやいやこちらこそ、ご両親の不在に押しかけてしまって・・ハハハ。
恵春の母親が困った風に微笑むとどこからか「勝手な事いうな~~」と叫び声が、
本当に仲の良い親子だ。
「服も乾いたんで、帰ります。あんまり遅いと心配掛けるんで」いつまでも厄介になる事は出来ないし、そろそろ夕食時だ、迷惑になる。
「??・・シンちゃんも食べて行くと思って多めに作ってしまったのに、帰っちゃうの?遠慮なんてしなくて良いのよ?」
男の子供が欲しかったらしいヨシハルの母さんは、いつもシンイチにオヤツとかを出してくれる、親戚のおばちゃん感覚だ。
少し前ならヨシハルと取り合いになったんだけど、最近はオレもお土産も無いのに少し悪いのでは?と思い始めていた。
貰いっぱなしてのは、気が止めるくらいには大人になったんだ。
あと、ここの家の家長・父親の目が鋭くなるから退散退散。タッパーに入った煮物は帰ってから美味しく頂かせてもらいます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます