第2話
ルームランナーの上を走る。VRゴーグルの中は昔の日本の町並みが続く、
珍しそうにこっちを見ている子供もNPC[ノンプレイヤーキャラクター]
AIが時間・場所・天気、そこに住む人間や動物まで再現して現実と異なるのは、
匂いや触感くらいだろう。
話せば答えるし、道を聞けば教えてくれる。
言葉を現地の言葉に選び、方言なども様々。
上を見上げると雲もあるし、鳥も飛んでる。
野原を選択すればバッタや蝶だって再現される。
その中を走り、歩き、休んではまた走る。
(最初はいいけど、競争相手が居ないから直ぐに飽きるんだよなぁ・・ソレも設定を追加すればいい話なんだけど)
VRを外した途端虚しくなる、やっぱり現実の人間相手に競争したりしないと闘争心や競争感、燃える欲しい。
勝ち負けなどの考え方は野蛮、そう言った考えもある。
競争など無意味、そういう大人は確かに存在した。でも現実はどうだ?
世の中は競争社会だし、勝ち負けで人生の全てが決る。
負け犬には下を向いて生きるしか無く、勝者には道を譲り、社会の端を歩いて生きるのが現実だ。解るだろ?
足の遅い者が道の真ん中を歩くと、通行の迷惑になるのと同じだ。澱み無く、物・金人を運ぶには、どうしても早く動けるものはその道に、遅く歩く者にはその道にと分かられる。そうやって社会は普通から外れた者は社会の端に・・・
勝者は常に正しく、敗者の言葉は常に無視される。資本主義社会なら金だろう。
社会主義社会なら地位か?
常により高く積み上げた者が下を見下ろすのが社会の構造です。
皆一律なんて事は無く、そんな統一された社会も歪んでいる。
メディアすら黙らせる力[金]と[権力]があれば、世間に非難される事すら無くなるのが世の中です。
偉い学者達の中でも、自分の都合の良い人間の話だけ広め
『偉い大学の偉い教授がこう言っているんだ』と、全く馬鹿にした話だが。
プロパガンダと言うのは、事実人間を先導する方法として確立している。
『個人は賢くとも民衆は愚かだ』とはよく言った物だと思う、大衆は空気に流され易く、群れで生きる人間は内心はどうであれ、周りに迎合する傾向があるのだから。
敵であれ競争相手であれ、友人としても人間は仲間を・同世代の人間を求めるんよ。「・・もう終り?ならシャワーを浴びてきたら?」
見たのか・・格好付けるのが好きな彼女らしく、イリスがソファーに腰掛け優雅に オレンジジュース片手に笑う。
「そうする、けど、なにか用があるんだろ?先に用事を片付けてもいいよ」
どうせ汗をかくなら着替えるまでも無い。
「そんなの駄目よシンイチ、私の用は汗濁のままで出来る事じゃ無いのよ」
・・「肉体労働じゃないのなら、洗濯物の片付けか」時間は少し早いけど畳む前に アイロンを掛ける服もあるから時間的にはそんな物か。
「じゃ、シャワー浴びてくる・・・覗くなよ?」イリスには前科があるからな、
弟扱いされるのは・・まぁ仕方無いとしても、男の体なんか見てなにが楽しいのら。
「シンイチのくせに大人ぶっちゃって、
少し前まで一緒にお風呂に入った事忘れたの?」
・・・子供の頃と16の男子を同じにするなよ、色々大変なんだからな。
シャワー室の鍵は指さし二度確認・・・と言ってもマスターキーか家主権限で簡単に開く、防犯意識をもっと高めるべきじゃないか?
オレが女だったらなにも問題無かったかも知れ無いが、ガキの頃と距離の変わらないイリス達とは違うんだ。オレは男で彼女等は女の人だ・・・そこの所、解ってほい。
ホクホクになってしまった、体から上がる湯気とドライヤーで乾いた髪、後は牛乳が有れば満足だ・・・待たせる物がいなければね。
「・随分待たせてくれるじゃない、お陰さまで氷が全部溶ちゃったじゃないのよ?」
「汗の臭いが無いように念入りに洗ってたんだよ、失礼の無いようにね」
「そう・・」なにを思ったか立ち上がり、後に回った彼女の手が肩に回る。
「まあまあの匂いね」クンクン・・クンクンとくすぐったい息が当たる、
止めて欲しい。
「それじゃあ、用事ってのを片付ようか・・・なので、離れろ~~」離れてくれ~~
「シンイチと、くっ着いたままでも出来る用事だとは思わないの?」体を振っても腕が離れ無いのはなんだ、洗濯物の片付けが出来ないだろう。
「少なくとも2人共が動けない状態で出来る用なんてないだろ?」
いいかげん汗が出始めるから、へんな汗がさぁ、頼むよ放してよホントに。
「困った顔を見てるのも楽しいけど、困らせるつもりは無いのよ?
だから放してあげる」
それじゃぁ行きましょうか、手を掴まれ先を行く彼女の後を追う。いつも彼女の後を追うオレだったけど、いつかはきっと・・
「で?」屋敷の外に連れ出されてしばらく経つが・・・・・コレといった用事がある様に見えない。
一周十五分ほどある敷地、裏の雑木林と温室とビニールハウスと家庭菜園を合わせ、小一時間はかかる庭を黙々と歩く。
「さっきから敷地を歩いているのは解る、いいかげんどこに連れて行かれるのかぐらい教えてもらってもいいんじゃないか」
「・・どこ?・・」不思議そうな顔で振り返る彼女はどこか楽しそうで、なにか悪戯を思い付いたように笑う。不安しか無い。
「用事だよ、用事。なにかオレに頼みたい事があるから連れて来られたんだろ?
先に用の方を言ってよ」恐いから。
落とし穴とか、猪が掛かっていたとかそんなんじゃ無いよね。
「・・シンイチが退屈そうにしてたから散歩に誘っただけよ?」なんだと思ったの?
「昔落とし穴に嵌められた経験上警戒してるんだよ、
時々信じら入れない事するからねイリスは」
「かわいそうに・・こんなにやさぐれちゃって、一体誰がシンイチにそんな酷い事を」
・・貴女達ですよ、あともう1人・・
「ボウズ、いつも言ってんだろ。お嬢さんを虐めるなと、まったく小僧は、
背丈だけ伸びても中身はまだボウズのままかよ」
「功日彦、ちょうどお前の事を言ってたんだよ」
藁束の案山子に似た二本足の庭師、いつも軍手と麦藁帽の案山子頭は全部で七体。
庭の手入れからビニールハウス・家庭菜園・雑木林の手入れに害獣の駆除。
優秀なのは知っているがオレには厳しいヤツだ。制作者は何を考えて作ったんだよ。
「オレの事?・・ジャガイモの収穫はまだだぞ?・・それか・・クマさんの方か?
カボチャの追加か?」屋敷の食料事情を握っているとも言える功日彦の能力は重要だ、それでも何故かオレに対するあたりが厳しいのは何故だ。
「落とし穴の事よ、シンイチったらいつまでも子供の頃の事を気にしちゃって」
「ああ、お嬢さんに頼まれたアレですか?また小僧を落としてやりますか?」
本人の前で悪巧みとは良い度胸だ、次ぎはお前が落ちる番かも知れないと言うのに。
「お嬢、今度はもっと深く掘りましょうぜ、小僧も多少はでかくなったんで、それに合わせて・・3mくらい?」へたをすれば死ぬ高さだろ、
血の通わない案山子め人類の敵か!
「駄目よ功日彦、シンイチを怪我させたら承知しないから・・
でも怪我しない程度なら」
味方なのか敵なのかハッキリして欲しい。
「じゃぁデートの途中じゃましたら悪いんで・・・小僧、お嬢さまに怪我なんぞさせるなよ?オレ達が見てるからな」ヤクザか!!!どこから見てるんだ?
屋敷の警備も兼ねたロボットだから監視カメラと繋がっているのだろうが、木や虫に擬態したカメラのレンズを見分けるのは至難、悪ささえしなければ追われる事は無いのだけどさぁ。
「デートだったの?」散歩だったはずなんだが。
「人がどう見る・どう思うかなんて知らないわ。それともシンイチは散歩とデート
ならどっちがよかったのかしら?」
真顔で見つめる目が一瞬で笑みに変わる、全く意地が悪い。
「返答に困る質問には解答しない、イリスがどう捕えるかなんて僕は知らん」
「シンイチは困った時には僕っていうのね、フフフッ」じゃあ許してあげる。
子供扱いされ先に行く彼女を追う、怪我させたら案山子に怒られるし、彼女を守る事も弟分としてのオレの役目だから。
「ちょっと待ってよ、急ぎすぎだって」洗濯物はクマさんがやってくれるだろうし、
夕食まではまだ時間がある、急ぐ必要なんてないんだから。
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