第30話 まあいいよね?

 俺からの説明を聞き終えた紫音は、納得のいかない表情を浮かべていた。



「アルスくん……助けるのですか? 貴方を貶めた方々を」

「ああ。それが俺の勇者として残された最後の役目なんだと思う。思い返してみれば、旅をする中で、こんな俺にも優しくしてくれた人は確かにいた。彼らまで死なせるわけにはいかないから」

「アルスくんがそう言うのなら、わたくしに止める権利はありません。ただ……」



 引き留めたいけど、そうするわけにはいかない。 

 そんな紫音の姿を見た俺は、一つ大きな決意をする。

 そして彼女を抱きしめ、告げる。

 

「紫音、ずっと言いたかったことがある。俺は君を愛している。俺が勇者としての最後の役目を全うしたら――その時は結婚してくれ」

「――――!」


 紫音は大きく目を見開く。

 そして涙を溜めて、こくりと頷いた。


「はい! わたくしも、アルスくんを愛しています!」

「――紫音!」


 抱きしめる力を強め、彼女の頭を撫でる。

 数分間の抱擁のあと、俺たちの体は離れる。


 紫音は寂しそうな声で言った。


「けど、それなら長い間、アルスくんの帰りを待つことになりますね」

「えっ? 帰らないけど。そんな魔力もないし」

「へ?」


 紫音は素っ頓狂な声を上げる。

 どうやら何か大きな勘違いをしているようだ。


「人間が世界間を転移しようと思ったら、相当な魔力量がいるんだ。命あるものは別格とでもいうのかな。そうするためには大量の人から魔力の供給を受ける必要があるけど、そんな時間はない」

「ならどうやって……」

「こうするんだ」


 聖剣を召喚し、一振り。

 目の前に巨大なゲートが出現する。

 このゲートは元の世界に繋がっている。


「ここから最終奥義を放つ。ゲートを通じて、世界中全ての魔獣や邪神を討伐するんだ」

「そんなことが可能なのですか!? それに、多くの方が巻き込まれるんじゃ」

「それは心配ご無用。神聖力は邪悪なるものを滅ぼす力。清い心を持ったものにはダメージが入らないからな」


 その代わり、邪悪な心を持った者には、この世のものとは思えない激痛が走るという。

 巻き込まれる人には災難だろうが、我慢してもらおう。

 激痛に遭う中で改心することができたら命だけは残るからな。

 彼らにとっても人生をやり直すきっかけになればいい。


 そんなこともあって、ガルフェン王に改心を呼び掛けたわけだが。

 改心するって誓ってたし……まあいいよね?

 俺はガルフェン王を信じている!


 そんなわけで。



魔滅ディス・聖閃剣ディヴァインソード!」



 俺は最終奥義を放った。

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