第11話 盲信

 フロンディア王国、王城。

 玉座に腰掛けるガルフェンは、意地悪い笑みを浮かべていた。


 勇者がこの世界から消えてから、一週間が経過した。

 勇者が魔王と相打ちになったという話を聞き、一部の民衆は深く悲しんだ。

 が、ほとんどの者は、こうして訪れた平和を心から歓喜していた。


 最も利益を得たのはガルフェンだった。

 勇者に向けられるはずだった羨望や感謝は、全てアルスを勇者に任命したガルフェンに向けられる。


 周辺諸国からも感謝の言葉や品物が届く。

 勇者に与えられるはずだった褒章や金品も含め、ガルフェンは贅沢の極みを尽くしていた。



「くはははは! 平民でありながら勇者になった奴を忌まわしく思っていたが、最後にこのような置き土産をしてくれるとは。少しは評価を変えてやっても良いかもしれんな」



 既にアルスがいなくなった世界で、ガルフェンは高らかに告げる。


 すると、謁見の場に側近がやってくる。



「陛下。王都の南方にて魔獣が出現し、幾つかの村に被害が出ているとの報告が上がりました」

「ふむ、であるならば、騎士団の中隊を一つ向かわせよ」

「お言葉ですが、今回の魔獣発生は、普段と少し様子が違うとのことですが――」

「ええい、我の決定に歯向かうというのか!?」

「い、いえ、そのようなつもりは一切ございません!」

「であるならば、さっさと動け」

「……はっ!」



 側近が出て行ったあと、ガルフェンは深く息を吐いた。


「まったく、使えぬ部下を持ってしまうとこれほど大変だとはな。まあいい、騎士団ならば問題なく解決してくれるだろう」


 勇者がいなくなったこの状況でも、我が国の戦力が健在であることを示すいい機会になる。

 そう考え、ガルフェンはほくそ笑む。


 魔獣討伐に向かわせた中隊の中には一人、神聖力の使用者がいる。

 問題なく任務を遂行してくれるだろう。


 ――この時、ガルフェンは心の底からそう信じ切っていた。

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