第10話 赤面

 アルス、紫音、千代が館で一緒に暮らすと決まった後。

 アルスは小屋を片付けてくると言って、一時的にこの場からいなくなった。


 残されたのは紫音と千代だけ。

 千代は顔を真っ赤に染め上げた主に対し、小さく微笑みかけた。


「よかったですね、お嬢様。アルス様が提案を受け入れてくださって」

「……はい」


 紫音はこくりと頷く。


 先ほどの説明通り、アルスに対するお礼の気持ちや、護衛としての働きを期待する気持ちはある。

 だけどそれ以上に、アルスに助けてもらった瞬間からこの胸に生じた初めての感情――彼と同じ時間を過ごしたいという想いが強かった。


 だからこそ紫音は、これからの未来を考えると、自然と口元が緩んだ。


「あっ、そうでした。千代、申し訳ありません。私が朝昼晩の料理を作ると言ってしまったせいで、あなたの仕事を奪ってしまいますが」

「そのようなことをお嬢様が気になさる必要はございません」


 千代は少しだけ、いたずらっ子のような笑みを浮かべて言う。


「それよりもせっかくの機会です。おいしい料理をアルス様に頂いてもらいましょう。花嫁修業の成果を、今ここで発揮いたしましょうね」

「はなよっ……! ば、ばか! 千代はいったい何を言っているんですか!?」


 ぷしゅーと蒸気を出しながら、必死に反論する紫音。

 そんな彼女を見て、千代は自分の主が可愛らしい少女であることを再認識するのだった。

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