自重を忘れた

「いらっしゃい」


 日曜日、健斗は白鷺家へと案内された。

 今まで何度も雪奈を抱いてはいるが初めて家に来たため、少し緊張してリビングのソファーに座る。

 もちろん雪奈も一緒に来たので、ずっと手を繋いだままだ。

 仲良くしている健斗たちを見て、雪奈の母親である春奈はニコニコと笑みを浮かべている。

 ずっと異性に興味を示さなかった娘が仲良くしているのを見て嬉しくなったのだろう。


「お兄さん、いらっしゃいです」


 雪奈の妹である夏奈が冷たいお茶を持ってきてくれた。

 緊張のせいで喉が乾いていた健斗は、夏奈からお茶を受け取って一気に飲み干す。

 歩いて行ける距離とはいえ六月も終わりに近づいてくれば気温が上がるので、緊張の他にも喉が乾く原因がある。

 なので夏奈に「もう一杯」と言っておかわりを要求した。


「今日はお父さんいないの?」


 雪奈は辺りを見回す。

 日曜なら弁護士も休みでありそうだが、どうやら貴史は家にいないらしい。


「そうね。最近はかなり忙しいみたいよ」


 間違いなく、雪奈を轢きそうになった加害者から慰謝料をふんだんに頂くべく働いているのだろう。

 休日くらいは休めがいいのだが、親バカの貴史はどうしても多額の慰謝料をもらいたいらしい。

 沢山貰ったことろで一番の被害者である健斗の元にいくのだが……。


「だから今日は健斗くんのハーレムね。親娘丼でも姉妹丼でもどんとこいよ」

「いや、しませんよ」


 他の女性を抱いてしまえば、間違いなく雪奈は嫉妬してしまうだろう。

 そんな雪奈は見たくないから淡々と拒否をした健斗に、春奈は少し不満そうに頬を膨らます。

 姉妹丼ということは夏奈まで巻き込む気でいるのだろうか? と思ったが、あえてツッコミはしないことにした。


「冗談を本気で返されるとつまらないわ。私は子供を産んでいるから絞まりは良くないかもしれないけれど、テクニックは雪奈に絶対負けないわよ」


 確かに学生の雪奈より主婦の春奈の方がテクニックはあるだろう。

 経験の差というのはどんなことにも顕著に現れる。

 天賦の才があったとしても、慣れていなければ才能がない人に負けることはあるのだから。


「俺が抱きたいと思うのは雪奈だけなので」

「あ……」


 セフレと穢れた関係であっても、他の人を抱きたいと思ったことはない。

 ギュって抱き締めてあげると、雪奈は嬉しそうな笑みを浮かべて健斗の胸に顔を埋めさす。

 おでこをグリグリ、と押し付けてくるのが本当に可愛い。


「ラブラブバカップルね」


 ふふ、と笑みを浮かべた春奈は、夏奈が持ってきたお茶を飲む。

 確かにぱっくりと胸元が空いた服を着ている春奈に視線はいってしまうが、健斗は雪奈を裏切りたくない。

 こんなにも尽くしてくれる雪奈のために、他の人に興味を抱きたくないのだ。


「いくら付き合っているとはいえ、普通は親がいるのにイチャつかないものよ」


 確かに彼女の母親がいるのにイチャつくのはマナー違反かもしれない。

 でも、イチャイチャするのは当たり前になっているため、どうしても止めたいと思えなかった。

 ずっとイチャイチャしても物足りなくなるし、どこでも何をしててもひたすら雪奈とくっついていたい。

 華奢な体躯ながらも柔らかい身体に依存しつつあるかもしれない。


「雪奈と離れるのは無理です」


 絶対に離さない、そう想いを込めて抱きしめた。

 健斗の想いを感じ取ったであろう雪奈はこちらを見つめており、自然と彼女と距離が近くなっていく。


「んん……」


 もう人前であっても自重がきかず、雪奈とキスをしてしまった。

 自分の母親目の前にいるのにも雪奈は一切抵抗してこないので、何があろうとも健斗優先なのだろう。

 ほれほどまでにも彼女にとって車に轢かれどうそうなことを助けてもらったことに心を射たれたようだ。


「お兄さんとお姉ちゃん大胆」

「あの人が見たら発狂しそうね」


 あの人とは貴史のことだろう。

 娘にベタ惚れなのだから、キスをしているとこを見たら発狂しても仕方ない。

 でも、以前会った時に手を繋いでいる健斗たちを見ても何言わなかったのだし、一応、付き合うことには賛成しているのだろう。

 今度白鷺家に来た時には自重しなけれなならないかもしれない。

 出来る自信はないが。

 もっともっとしたい気持ちが出てきてしまい、人前であってもキスしてしまう。


「健斗く……んん……」


 抱き合いながらキスをし、たっぷりたっぷりと雪奈の感触を味わっていく。


「どうやったらここまでのバカップルになれるのかしら?」

「さあ? 私は付き合ったことがないから分からないよ」


 二人の呆れたような視線を感じたが、気にせずキスを続けた。

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