猫カフェでも甘々

「にゃあにゃあ」


 健斗はそう言い、学校帰りに雪奈と一緒に猫カフェを訪れていた。

 フロアには女性のお客さんを中心に猫と戯れている。

 色んな種類の猫がおり、楽しい時間が過ごせそうだ。


「健斗くんは猫が好きなんですか?」

「好きだよ」


 ペットとして飼うなら犬か猫かの二択で迷う人が多いだろうが、健斗は断然猫派だった。

 今住んでいるマンションでペットを飼うのは禁止させているが、将来は猫を飼ってみたいと思っている。

 だけど将来まで我慢出来なくなってしまったため、猫カフェに来てしまったのだ。


「そうなんですね。猫は気まぐれですし、私も気まぐれになった方がいいのでしょうか?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべた雪奈は、健斗好みの猫になろうとしているのかもしれない。

 好きな人の好みのタイプになりたいと思うのは当たり前なことで、雪奈は特にその傾向が強いと言える。

 何でもしようとしてくるし、一緒にいるためにどんなに恥ずかしいことだってしてくれるのだから。


「ダメ。雪奈は俺に従順であってほしい」


 チョーカーの金属製の輪っかに指を入れてから引き寄せて、雪奈の耳元でそう呟く。

 気まぐれ、ツンデレは猫だからいいのであって、人がツンデレとか良くない。

 ラブコメ漫画でツンデレヒロインは王道だから良く出てくるが、あくまで二次元だから人気があるのだろう。

 三次元で出てきても面倒なだけだ。


「はい。私は健斗くんに従順です」


 耳元で囁かれたからか、藍色の瞳が一瞬にして蕩けた。

 頬は紅潮し、猫より自分を構ってほしい、と思っていそうな顔だ。

 健斗に従順のがいいと言われたら、雪奈は何があろうと従順であるだろう。

 ギュー、と雪奈に抱き締められ、ムニュムニュと柔らかい男を誘惑する感触が襲ってくる。


「あの……そういったことは家でやってくれますか?」


 白い目でこちらを見ていた女性店員に言われ、健斗と雪奈は「すいません」と謝る。

 これではいつもと同じで、猫カフェに来た意味がない。

 たっぷりと猫との一時を楽しまなくてはお金の無駄になる。


「あの子は……」


 可愛らしいつぶらな瞳でこちらを見ている虎柄の猫と目が合う。

 少しだけ猫に近寄り、むこうから来てくれるのを待つ。

 猫は人から近寄られるのが嫌いなため、こちらが待っている必要がある。


 少し待っていると、思っていた通り猫の方からこちらに寄って来た。

 右手を猫の近くにやると、頬を擦りつけて甘えてきてとても可愛い。

 顎の部分を指で優しく撫でてみたら、猫は「にゃあ」と甘えた声を出す。

 人に飼われているだけあってどうすれば喜んでもらえるか分かっているようで、猫は媚を売るかのように甘えてくる。

 本当に可愛いため、このままお持ち帰りしてみたい。


「うう……健斗くんに甘えている猫が羨ましいです」


 ワンオーダーで頼んだジュースを飲んでいる雪奈は、羨ましそうな視線をこちらに向けている。

 授業中以外はずっとイチャイチャしているのだが、イチャつきすぎてくっつけていない時間は落ち着かないのだろう。

 雪奈は猫より健斗と触れ合いたいらしい。

 いい具合に依存してくれているようなので、猫カフェを出たら沢山イチャつく。


「雪奈もこっちにおいで」

「にゃん」


 何ではいじゃなくてにゃんなのか分からないが、嬉しそうに笑みを浮かべて来られては何も言えない。

 可愛らしく「えへへ」と楽しそうにながら、雪奈は健斗の太ももに頭を乗せる。

 いわゆる膝枕というやつで、まさか猫カフェですることになるとは思ってもいなかった。


「にゃあ」


 雪奈は猫撫声を出し、太ももに頬を擦りつけてくる。

 猫の真似をしている雪奈はとても可愛く、猫カフェだろうと思わず頭を撫でてしまう。

 彼氏がいるだけでも羨ましいのにこんなとこでイチャイチャするな、と思っていそうな視線を店員やお客さんから向けられるが、もう気にしないことにした。

 雪奈と猫が甘えてきてとても幸せな気持ちなのだから。


「雪奈可愛い」


 膝枕を堪能して横になっている雪奈のおでこにキスをした瞬間、店員から「出禁です」と言われて追い出されてしまった。

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