共同作業と昼休み

「うーん……」


 一時間目の授業が終わった後の休み時間、健斗は教室で唸っていた。

 何故かというと、一時間目の現代文は先生が黒板に書いた文字をほとんどノートに写すことが出来なかったからだ。

 辛うじて写すことが出来た文字はとても汚く、自分でも何て書いてあるかわからない。

 利き腕である右手が骨折で使うことが出来ないため、左手で書いたら散々な結果になった。

 来週には二年生になって最初のテストがあるので、せめて先生が読めるくらいに書けるようにならないといけない。

 もうテストの問題を作り始めているだろうし、今さら選択問題に変えて、と言っても遅いだろう。


「雪奈、ノート見せて」

「はい。どうぞ」


 見せてほしい、と言われるのを予想していたらしく、雪奈はすぐに机にノートを置いた。

 健斗の右肘にギュっと手で掴んで見てくる雪奈がとても可愛い、と思いつつも、今日の授業内容が書かれたページを開く。

 ノートは色つきのペンやマーカーペンも使われて綺麗に書かれており、とても分かりやすい。


「書きにくい……」


 左手で書くのはやはり難しく、右手と違って文字がぐにゃぐにゃに曲がってしまう。

 一ヶ月後には右手は完全復活するのだが、今月あるテストまでには確実に骨折は治らない。


「健斗くん、私が手伝います」


 下手な文字に見かねてしまったのか、それとも純粋に手伝いたいだけなのかは判断出来ないが、雪奈は健斗の左手に自分の手を添えてきた。

 事故に遭ってから何度も触れている雪奈の手はとても温かい。


「一緒に書きましょう。私が健斗くんの手になります」

「ありがとう」


 以前の健斗だったら恥ずかしくなったかもしれないが、今は初体験を済ませたから触られても大丈夫だ。

 ゆっくりと一緒にノートを写していく。

 先ほどより文字の歪みがなくなっており、支えてくれている雪奈のおかげだろう。

 以前から思っていたことだが、雪奈は尽くしてくれる系女子だ。

 家事をしてくれるのはもちろんのこと、健斗が望めば雪奈は何でもしてくれるだろう。

 好きな人には何でもしてあげたい、と思っているから出来るようだ。


「ゆっくりでもいいので書いていきましょう。ノートはいつでもお貸ししますから」


 休み時間はノートを写すことに時間を使った。

 一緒に書いている途中、男子からは嫉妬の視線を向けられ、女子からは黄色い声が上がったのは言うまでもない。


☆ ☆ ☆


「お腹空いた」


 昼休み、健斗は雪奈を連れて二人きりになれる場所である屋上前まで来た。

 屋上が立ち入り禁止になっているため、ここまで来る人はほとんどいない。

 教室で食べても良かったのだが、嫉妬と冷やかしが凄いので、昼休みくらいは二人になりたかった。

 左手を肩に置いてギュっと引き寄せると、雪奈は嬉しそうにしてお弁当箱を包んでいる布をほどく。


「サンドイッチだな」

「はい。もしかしたら健斗くんがお友達と食べるかもしれないと思ったので」


 色々と考えた結果、サンドイッチになったらしい。

 たまごサンドにツナサンドと定番なのばかりで、とても美味しそうだ。

 ある料理漫画で主人公が冒険して色んな味の料理を作っていたが、普段食べるのは定番で安心して食べれる味がいい。


「食べる前に」

「あ……んん……」


 教室では人がいてキス出来なかったので、二人きりである今することにした。

 唇を甘噛みするようなキスをし、ご飯の前に雪奈を味わう。

 甘い声を漏らしている雪奈に興奮しそうになるが、サンドイッチを食べたいからキスを止めた。

 少し残念そうにしている雪奈に「またしてあげるから」と耳元で言うと笑顔になった。


「はい、あーん」


 サンドイッチで口移しはあまりよろしくないと考えたようで、雪奈は手に持って健斗の口元に持ってくる。

 食べると、卵の味が口全体に広がっていき、とても美味しい。

 からしマヨネーズをパンに塗っているらしく、少しツーンとした辛さが鼻に広がる。


「私も健斗くんに食べさせてもらいたいです」

「いいよ」


 左手が離れてしまう代わりに、雪奈はギュっと健斗に抱きついてきた。

 柔らかい感触が体を包み込む。


「はい、あーん」

「あーん」


 ツナサンドを手に持って雪奈の口元に持っていくと、「あむ」っと小動物みたいに食べていく。

 一口が小さいのは好きな人の前だからかもしれない。

 モグモグと食べている雪奈は本当に可愛く、サンドイッチを置いて彼女の頭を撫でる。


「健斗くんが食べさせてくれるから、いつもより美味しく感じます」


 可愛すぎて反則だろ、と健斗は思いつつ、今度は雪奈にサンドイッチを食べさせてもらう。

 サンドイッチは元から美味しいが、美少女である雪奈に食べさせてもらうと本当に美味しく感じた。


「雪奈の手料理を食べれるのは俺だけだな」

「はい。私は健斗くんのためだけに料理を作ります」


 最早バカップルの会話だな、と思ったが、実際にはセフレの関係だ。

 だから本当は独占する権利はないため、健斗は雪奈に行動を強制することが出来ない。

 だけど雪奈は全てを健斗に捧げてくれるし、これから先もずっと側に居たがるだろう。

 今はセフレだけど、いずれは彼氏彼女になりたい、と思っているはずなのだから。

 なので雪奈を独占させてもらう。


「あーん」


 サンドイッチを交互に食べさせながら昼休みを過ごした。

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