命令と登校

「んん……朝か……」


 外から聞こえる鳥の鳴き声、カーテンの隙間から漏れる朝日で健斗は目を覚ました。

 隣には彼シャツをしてみたい、という要望があって健斗のワイシャツを着ている雪奈が寝息をたてている。

 とても幸せそうな寝顔で、思わず雪奈の前髪を退かしてキスをしてしまう。

 キスされても起きないのは、昨日いっぱいして疲れているからかもしれない。


「そろそろ起きろ」


 学校に行くまでまだ余裕はあるが、もう起こした方がいいだろう。

 肩を揺すって起こそうと、雪奈は「う~ん……」と軽く反応するだけだ。

 やはり疲れているようで、まだ起きようとしない。


「雪奈、起きて」

「んん……」


 唇を甘噛みするようなキスをし、雪奈を起こそうとする。

 キスされてるのを確認するかのように一瞬だけ雪奈は瞼を開けて再び閉じ、恐らくキスされたいがために寝たフリを開始した。

 唇を離そうとすると少しだけ目を開けたり袖を掴んでくるため、明らかにもう起きている。

 もしかしたら最初からキスで起こしてくれるのを期待していたのかもしれない。


「起きろ」

「ひゃん……」


 首筋にガブ、と牙を立てて噛みつき、雪奈を起こす。

 これでは本当に吸血鬼のようだが、起こすためなら仕方ない。

 雪奈は痛がっているようだけど悲鳴を上げず、むしろ甘い声を漏らす。


「おはよう」

「おはようございます。もっと噛んでても、良かったんですよ?」


 上目遣いで見つめてくる雪奈はとても可愛いが、言っていることはドMだ。

 起きてくれたので、雪奈を引き寄せてから軽く口づけをする。


「健斗くん……」


 ギューっと雪奈に抱き締められた。

 もう離れられないくらいに依存しているようで、最早病的と言っても過言ではないだろう。

 依存してくれた方が都合がいいし、絶対に離れられなくさせる。


「雪奈って俺の言うこと何でも聞ける?」

「はい。他の男とイチャついてこいや、今の関係を解消するなどじゃなければ大丈夫です」

「そうか。なら雪奈の意思で俺から離れないように」

「分かりました」


 あっさりと了承してくれた。

 離す気がないから雪奈に自由はほとんどないということだが、本人からしたらむしろ大歓迎らしい。

 「えへへ」と可愛らしい笑みを浮かべ、雪奈は女性の武器である大きな膨らみを押し付けてくる。


「んん……」


 頭を撫でてキスをし、朝から雪奈を味わう。

 学校を休んでずっとイチャイチャしていたい気持ちに襲われるが、流石にサボり癖がつきそうだから行かなければならない。


「学校では俺と付き合ってるって言うんだよ」

「はい。教室でもイチャイチャ出来ますね」


 学校でも離したくないし、セフレの関係にしたら他の人が雪奈に迫ってくる恐れがあるため、付き合い始めた、ということにした。

 堂々と交際宣言出来て嬉しいのか、雪奈は笑みを浮かべて健斗の胸に顔を埋める。


「そろそろ学校に行く準備しようっか」

「もう少しこうしてたいです」


 背中に腕を回し、雪奈はギューってして離さない。


「お弁当を作ってくれるんでしょ? ならもう作らないと」

「はい。料理の時は後ろからギューってしてほしいです」

「危なくないか?」


 料理は包丁や火を使うため、イチャイチャしながらだと危険を伴う。


「私は自分の意思で離れられないですから」

「そうだったな。離れろなんて言えない」


 つまりは料理を作っている雪奈ともイチャイチャしなければならない。

 嫌ではないので、なるべく邪魔をしないように料理を作る雪奈とイチャイチャした。


☆ ☆ ☆


「この時期にカーディガンなんて変な感じだな」


 学校に向かっている最中に健斗は呟く。

 ズボンは平気だったが、ブレザーが事故でボロボロになったから着ることが出来ない。

 ワイシャツだけだと外は寒いため、ブレザーの代わりにカーディガンを着ている。

 ちなみに学校までは家から歩いて十分ほどで着く。


「着てる人は着てますよ」


 一方の雪奈はブレザーで、健斗に手を繋がれて嬉しそうだ。

 基本的に肌の露出は最小限に止めており、足は黒いタイツをはいているから全く露出がない。

 見たいと言えばタイツを脱いでくれるだろうが、他の人に見られたくないからタイツをはかせたままでいる。


「俺はカーディガンなんて冬しか着ないし」


 冬にならブレザーの下に着るが、今の時期にカーディガンを着たのは初めてだ。

 ほとんどの人がカーディガンは冬しか着ないだろう。


「学校が終わったら制服買いに行かないとな」

「お付き合いしますよ」

「お願い」


 駅前に学生服を売っている店があるので、購入することが出来る。

 ただ、即日に持ち帰るには無理らしく、しばらく学校にはカーディガンを着て行かないといけない。


「雪奈といると目立つな」


 銀髪美少女と一緒にいると注目されるのは当たり前だが、見られるのはいい気分ではない。

 学校が近いから学生服を来た男子がおり、「学校一の美少女である白雪姫と一緒にいるなんて……」などとこちらを見ながら言っている。

 やはり雪奈は学校一の美少女だったようだ。


「白雪姫……」

「健斗くんは私のことを白雪姫って呼ばないでください。あまり好きではありませんから」


 白鷺雪奈って名前だから白雪姫なのだろうが、少し安直な気がした。

 本人は呼ばれたくないらしく、少し頬を膨らませている。


「わかった」


 別に呼びたいわけではないし、本人が嫌なら呼ぶ気はない。

 見られるのは嫌だけどどうしようもないので、手を繋ぎながら堂々と学校に向かった。

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