目を開ける。

 夢と現実の境目で不安定に揺らぐなにかが見えた。


「ア?」


 ――それは金の雨だった。

 視界に金色の線が無数に走っている。ぼんやりとそれに触れるとどうやらそれは髪の毛のようだ。誰かの髪の毛を頬に敷いている。金髪の知り合いなどいただろうか。寝ぼけた頭のまま起き上がりその主を探す。


「……ん?」


 そもそも見覚えのない寝具だ。天蓋付のベッドなんて映画でしか観たことがない。自分のような男がこんなファンシーなところで何故眠っていたのだろうか。

 眠る前はたしかに自室にいたはずなのにと思いながら天蓋をめくった。


「これはどっきりか?」


 恐ろしいほど豪華な部屋だ。ありとあらゆるものが金色に光っている。どこかのホテルのスイートルームとかに連れてこられたのだろうか。しかしそんな財力のある友人に覚えはない。どういうことだろうと思いつつベッドから下りる。

 寝ぼけ眼をこすりつつ、犯人は誰だろうと部屋を探索する。クローゼットの中には紗知に似合いそうな服がたくさん入っていたが犯人はいない。ベッドの下には埃ひとつない。カーテンをめくっても見覚えのない中庭が広がり、しかも誰もいない。


「どうなってんだァ……?」


 ふと視界の隅でなにか光った。近寄るとそこにいた人と目が合った。


「綺麗な人だな……天使か?」


 なにもかんがえずにその人に手を伸ばした。あまりにも美しくて現実味がなかったからだ。その人はつるりとしていた。


「ん?」


 それはつるつるとした、鏡だった。目の前の美しい女性はこちらを不思議そうに見ている。こちらが微笑むと彼女も笑う。


「は……?」


 自分の体を見る。

 目の前にあったその胸をつかむ。その柔らかな感触は現実のものだった。


「はァ……?」


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