Ⅱ
◆
……夢と現実の境目はいつも憂鬱に塗りつぶされている。それは今に始まったことではない。コンツェルン家に生まれたものの宿命なのだ。上に立つものは考えなくてはいけない。努力しなくてはいけない。であるからこそ同時に、闇を孕まなくてはいけない。
下々を幸福にするためには自らの幸福は諦めろ。
……それが我が家の方針だ。
まず奉仕せよ。そうして忍耐せよ。
『と、いうのは今回でやめにしようと思うんだよね』
不意にそんな声が飛び込んできた。
『レオナ』
その声が私を呼ぶ。
『おはよう』
目を開くと、そこは見知らぬ場所であった。
なにもない空間だ。視界は白に染まっている。自分だけが色を持つ、そんな妙な空間だ。
『やあ、レオナ』
そこにひとりの少年が座っていた。少年といっても、人なのかどうかの自信は持てない。彼の声は少年のものだが彼の姿は人とはほど遠い。上半身は豚、下半身は魚、そうして尻尾は蛇だった。レオナの膝の高さほどしかないその少年は、理知的な瞳をしていた。
「あなたはなんでしょうか」
少年はレオナを見上げてぐうぐうと鼻を鳴らす。
「ここはどこでしょうか」
『それらの質問の答えは同一だ。僕も、ここも、世界の狭間だ』
「狭間?」
『コンツェルン家は罪深い』
……罪?
ぐうぐうと少年は鼻を鳴らす。
『権力を持つということは罪を持つことさ。それに加えて君は性格もよくないね』
……失礼な豚、だ。
けれど否定する言葉もない。わかっていることだからだ。持つものは疎まれる。当たり前の話だ。
『だからやめようと思うんだ』
「なにを、でしょうか」
『コンツェルンの歴史を終えよう』
「我が家は終わりませんよ。なにを喰らっても永らえるでしょう」
『……ごめんね、レオナ』
豚は何故かそう謝った。その理由を聞く前にまた意識が遠退くのがわかった。現実と夢の境目だ。豚がぐうぐうと鳴く。醜い声。ぐうぐうと、……そうして私は再び目を開いた。
そこにあったのは見知らぬ幼子と見知らぬ部屋だった。
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