第57話 勇者の絶望

 ノードが期待を込めて、ルイド、ユン、ヨルの三人に視線を向ける。

 しかし三人の表情は、ノードが期待していたものとは違っていた。


 真っ先に、ルイドが諦観した声色で告げる。


「ノード……もう、諦めよう。俺たちがこれ以上やっていくのは無理だ」

「なっ……」

「あの時、アイクを見捨てた時点でもう俺たちは終わっていたんだ。お前ももう、本当は分かってるんじゃないか? 俺たちがBランクパーティーとして活躍できていたのは、アイクのおかげだって」


 ルイドの言葉に、ノードはとても頷くことはできなかった。

 呆然と立ち尽くすノードに対し、続けてヨルが言う。


「私も、ルイドさんと同じ気持ちです。以前までは、魔物と戦う際にも回避を徹底するという、人形遣いとしては稀有な戦いぶりに疑問を抱いたこともありましたが……彼がいなくなって、ようやく気付きました。このパーティーを影から支え、様々な弱点を補ってくれていたと」

「………………」

「パーティーの解散も、きっとあの日、ミノタウロスから逃げるために彼を見捨てた私たちに相応しい末路だと考えています」


 いったい何が起きているのか、ノードは理解することができなかった。


 てっきり、ルイドやヨルもノードと同様、アイクを足手まといだと思っていると信じていた。

 アイクがパーティーを抜けて以降、ことあるごとに彼を非難していたが、それに対して反論されたことはなかったからだ。


 しかし、先ほどの彼らの言葉を聞けば、その認識は間違っていたと分かる。

 彼らはアイクを役立たずだと思っていたから反論しなかったのではない。

 自分たちがアイクを見捨てた罪悪感から、反論する資格がないと思っていたのだ。



 仲間からも見捨てられ、ノードは一気に窮地に立たされた。

 このままでは本当にランクを降格させられてしまう。

 勇者として、それは絶対に避けなくてはならない事態だ。


 だからこそ、ノードは縋るようにユンを見た。

 彼女だけは、これまでノードと共にアイクを非難し続けていた。

 彼女ならばきっと、この状況に対して共に抗ってくれるはずだ。


 そう信じていたノードだったが、しかし――



「…………っ」

「なっ」



 ――ノードと目が合うと同時に、ユンは気まずそうに視線を逸らす。

 まるでそれは、自分を巻き込まないでくれと主張しているかのようだった。


 いや、きっと事実としてそうなのだ。

 ユンは力ある者に対して媚びをうっていただけ。

 これまではその対象がノードだったが、そうでなくなった今でもなお、彼に賛同するつもりはないのだろう。


 それを理解した瞬間、ノードの体の中から気力が失われた。


 いつもならば、正しいのは自分であると信じ、全力でランク降格を拒絶したはずだ。

 だが、今はもう、そうする気にはなれなかった。



 三人のパーティーメンバーの賛同もあり、その時点を以てパーティーは解散となった。

 いとも容易く、ノードの勇者としての輝かしい未来は闇の中に消えるのだった。

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