第56話 勇者の失墜

 冒険者の町、フィード。

 その冒険者ギルド内に、一組のパーティがいた。


 パーティーは全部で五人。

 勇者・ノード、重戦士(タンク)・ルイド、魔法使いマジシャン・ユン、僧侶(プリースト)・ヨル。

 それから、彼らと臨時的にパーティーを組んでいた盗賊(シーフ)・メリィだった。



 メリィは、怒気を含んだ声でノードに告げる。



「私はこのパーティーではやっていけません。抜けさせてもらいます」

「なんだと? いったいオレたちの何が不満なんだ!」

「どの口でそう言っているんですか? 私は索敵(サーチ)のスキルさえ使えればいいと言われて勧誘されたんです。なのに、実際に強力な魔物と戦う際には前線で囮として働けって……盗賊をいったい何だと思っているんですか!? 盗賊は耐久力がありませんし、何より戦闘中、周囲の危険を察知する役目を果たせなくなります!」



 ノードは目を見開く。



「なっ……! それはお前が無能なだけだろう!? 以前このパーティーにいた人形遣いドール・オペレーターは、囮と索敵をどちらもこなしていたぞ!? 盗賊が本業であるお前にできないはずがない!」

「だから、そもそも貴方の認識が間違えていると言っているんです! そんなことが可能な人形遣いが実在するとはとても思えませんが……そこまで言うのなら、その人に戻って来てもらえばいいじゃないですか!」

「っ、それは……」

「ともかく、私はこのパーティーでやっていくつもりはありません。それでは失礼いたします」

「まて、貴様! ……くそっ!」



 離れていくメリィから視線を逸らし、ガンッ! と近くにあったテーブルの脚を蹴る。

 それだけで鬱憤が晴れるわけもなく、不満だけが胸に残る。


 アイクがパーティーを脱退してから、ノードたちはかつてない苦境に追いやられていた。

 これまでは簡単にこなせていた依頼さえ、失敗が続いている。

 これではいけないと危機感を抱き、やっとのことで見つけた新しい盗賊の仲間も、たった一度の依頼で脱退していく。


 かつての栄華は既に朽ち、ノードたちは他の冒険者たちから蔑む目で見られるようになっていた。



 ノードの失墜は、さらに続く。


 冒険者ギルドから呼び出されたノードたち。

 この町唯一の勇者パーティーである自分たちに何か依頼されるのではないかと考えたノードだったが、現実は残酷だった。


「大変申し上げにくいのですが……依頼の失敗が続いたことにより、パーティーのランクが、Cランクに降格されることになりました」

「……は?」


 何を言っているのか、ノードは一瞬理解できなかった。

 少し前までは、国でも数少ないAランク勇者パーティーまであと少しとさえ言われていたのに。

 なぜ、ここにきてCランクに降格するというのか。


 しかも、勇者パーティーにとってランク降格は言葉以上の意味を持つ。

 勇者は国民から羨望を集める存在。そんな勇者は常に高みを求め成長し続けることを望まれている。

 衰えていく勇者を、人々が英雄視することはない。

 勇者としての存在意義が失われることとなる。



 ――それは事実上、パーティーを解散するように言われているのと同義だった。



「ふざけるな! オレは勇者だぞ! そこらの冒険者とは格の違う存在だ! そんなオレがこのような目に合うなど間違っている! なあ、お前たちもそう思うだろう!?」


 ノードは周囲の冒険者たちに訴えかける。

 同意の言葉が返ってくるとばかり思っていたノードは、彼らの発言に衝撃を受けることになる。



「いやー、以前までならともかく、最近の様子を見てる限りちょっとな……それにこの前、人形遣いにタイマンで負けたって話も聞くし」

「ああ、人形遣いアイクのことか。あいつは単体で悪魔を倒せるだけの実力があるし、勇者が弱いってことにはならないと思うけどな」

「けど確か、その人形遣いがパーティーにいた時は、色んな高ランク依頼を達成してたんだよな? ってことは初めから、凄かったのはそいつだけなんじゃ……」

「そもそも、私たちと格が違うってなに? そんなふうに思われてたなんて、いい気はしないわね」



 誰一人として、ノードの肩を持とうとする者はいない。

 こんなはずがないと思いながら、ノードは残るルイド、ユン、ヨルの三人に視線を向ける。

 同じパーティーメンバーである彼らなら、共にこの状況を打破しようとしてくれるものだと信じて。


 しかしそこには、さらなる残酷な現実が待ち受けていた。

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