第55話 攻略報酬
ケルベロスの討伐を終え、みんなと喜びを分かち合っていると、突然ゴゴゴという音が鳴り始めた。
奥の壁が崩れていき、その先に新しい空間が現れる。
全員でそちらに向かう。
そこにあったの一枚の石板に短刀、剣、それから純白の魔石だった。
それから、地面には転移の魔法陣と思わしき紋様が描かれている。
「短刀、剣、魔石はダンジョン報酬か。
魔法陣は帰還用のものだな。
残るこの石板は一体……」
その中で最も異質感のある石板に目を付けた俺は、報酬を後回しにしてそちらを確認する。
そこには、ダンジョンに関わる内容が書かれていた。
「ふむふむ、これは……」
読み進めるうちに、このダンジョンの仕組みについて少しずつ分かってくる。
俺の推測はある程度合っていたが、どうやら全て理解できていたわけではなかったようだ。
「アイクさん、そちらに何か気になることが書かれているんですか?」
エルの問いに対し、こくりと頷く。
「どうやらここトリア迷宮は、本来であれば三人一組で攻略するべきダンジョンみたいだ」
「三人一組、ですか……?」
「ああ。俺たちが三組に分断された場所を覚えているか?
あの先に進むためには、正確には先に繋がる転移魔法を発動するためには、一人ずつがあそこにあった赤色の魔石を中心とした魔法陣の中に入らなければいけなかったらしい。
迷宮の外で行き止まりだったと主張していた奴らは四人以上のパーティだったからな。きっとそのせいだろう」
「なるほど……しかし、それを言うなら私もそうでは?
私にシーナ、アイクさん、フレアさん、テトラさん、リーシアさんの六人パーティですし……」
「よく考えてみろ。その中に約三人ほど、例外がいるだろ?」
「――あっ!」
そう、人形だ。
フレアたちはこのダンジョンから人間以外の存在だと認識されたのだろう。
思えばできあがった三組も俺(アイク)とテトラ、フレアとエル、リーシアとシーナだ。
俺、エル、シーナの三人で一つのパーティだと認識されたとすれば、矛盾は消える。
さらにそれを証明するのが、三つのダンジョン報酬だ。
短刀はシーナ、剣はエル、そして用途不明の魔石は俺に合ったものが攻略報酬として用意されたのだろう。
ここまでの話を、俺は残る五人に伝えた。
「とまあ、俺の推測はこんな感じなんだが。
報酬もいま言ったように分けるので問題ないか?」
言うと、エルが「しかし……」と申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「正直に言って、報酬の三分の二を頂けるほど、私とシーナは活躍しておりません。
アイクさんたちの中に使い手のいない短刀はともかく、この剣はフレアさんに差し上げた方がよろしいのではないでしょうか?」
エルの考えは分からないでもない。
けれど残念ながら、その提案には根本的な穴があった。
「うーん。エルには申し訳ないんだけど、私、たぶんその剣使えないよ?」
「どういうことですか?」
「えっとね、普通に今振るったりするのはできると思うんだけど、戦い以外の場所ではって言うか。
うーん。なんて説明すればいいんだろ? お願い、アイク!」
「はいはい、分かったよ。
……人形の武器を作るのは、実は人形師(ドール・メイカー)の仕事なんだ。
人形と同じように大きさを自由自在に変えられる武器なんて、普通には売ってないだろ?
人形師ならば、その問題を解決してくれるんだ」
「――っ! そうだったんですね
……では、僭越(せんえつ)ながら。アイクさんのおっしゃる通り、こちらは私が使わせていただきます」
そのような経緯で、ダンジョン報酬の分配は無事に終わった。
最低でもAランクは必須のダンジョンにおける攻略報酬だ。
きっと二人の役に立ってくれるだろう。
さて、残す問題はあと一つ。
俺が貰うことになった、この純白の魔石だが……いったい何に使うものなのだろうか?
町に戻ったら、魔石について詳しい人にでも聞く必要があるかもしれない。
「ご主人様、こちらを拾い忘れていましたよ」
「ああ、ありがとう」
いつの間にかそばに来ていたリーシアが、ケルベロスの魔石を俺に差し出す。
礼を言って受け取った次の瞬間、その現象は起きた。
「っ、なんだ?」
「これはいったい……?」
既に手にしていた純白の魔石に触れた途端、ケルベロスの魔石はその中に呑み込まれていく。
ものの数秒足らずで全て呑み込み終えた純白の魔石は、赤黒い色に変わっていた。
「魔石を保管する魔石……?
いや、そんなものなはずないか」
謎がさらに増えたが、問題があるようなことではないので、ひとまずはいいだろう。
その後、俺たちは転移の魔法陣によって、トリア迷宮の外に帰還するのだった。
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