第54話 VSケルベロス 後編
ケルベロスの再生を見届けたリーシアが、ぽつりと呟く。
「む……どうやらヒュドラの時のように、全ての首を同時に斬り落とす必要があるようですね」
俺は首を横に振る。
「いや……多分、そうじゃない」
「え? どういうことですか、ご主人様?」
否定の言葉に驚いたかのように、リーシアが疑問の目を向けてくる。
先ほどまでは、俺も三本の首を切断すれば倒せると思っていた。
しかしすぐ、それではいけないという考えに至った。
というのも、俺たちはここに辿り着くまでに、わざわざ三組に分断され、それぞれの力で突破してくることを強制された。
このダンジョンではパーティのうち誰か一人が強いだけでは駄目なのだ。
一人一人が戦える力を持つことを証明する必要がある。
そこから考えると、おのずと答えは出た。
「ただ同時に斬り落とすだけじゃダメなんだ。
このダンジョンの仕組みから考えれば、恐らく――」
「――! そういうことですか。
でしたらわたくしは、彼女の援護に回った方が良さそうですね」
「ああ。二人への説明は任せる」
「かしこまりましたわ!」
どうやらリーシアにも正しく伝わったらしい。
彼女は急いでシーナとエルのもとに向かう。
対する俺は、残る二人に向けて言う。
「フレア! テトラ!
一旦攻撃を控えめにして、その状況を維持してくれ!」
指示の意図が分からなかったのか、一瞬不思議そうな表情を浮かべた二人だったが、迷うことなく頷いてくれた。
それが俺に対する信頼の証だというのなら、裏切る訳にはいかない。
「さて、残るは俺だけだ」
トドメは彼女たちに任せた。
残る俺がすべきは、作戦を実行するための隙を生み出すこと。
フレアたちが現状維持、すなわち防戦に徹することで、ケルベロスは攻撃に集中していた。
もはやその意識下に俺の存在はない。
狙うなら、今だ。
気配を消し、三頭に気付かれないように、ケルベロスの背後に回り込む。
俺の力でもダメージを与えられ、獣系魔物にとって弱点である尻尾に、全力で短剣を振り下ろす。
「はあああああ!」
『グルゥ!?』
短剣は深々と尻尾に突き刺さった。
断ち切れていれば、ケルベロスのバランスを崩すことができていたのだが、それは高望みか。
敵の悪感情(ヘイト)を集められただけでも、上々だと喜ぶべきだ。
「最終局面といこうか――囮(デコイ)」
ケルベロスの三頭が、それぞれ相手にしていた存在を忘れ一直線に襲い掛かってくる。
だが、
「遅い」
限界まで引き付けてから、バックステップで攻撃を躱す。
行き場をうしなった三頭はそのまま地面に強く叩きつけられ、一瞬だけ動きを止めた。
その一瞬は、戦場においては命取り。
「今だ、皆!」
「うん!」
「わかった」
「はい!」
応じるように、前に飛び出てくるのはフレア、テトラ、シーナの三人。
彼女たちはタイミングを合わせて、それぞれが剣、拳、短刀を振るう。
フレアの一閃が首を一本断ち切り、テトラの殴打によって太い首が一本弾け飛ぶ。
残す一人、この中では火力面で最も心配だったシーナについては――
「加勢します――嫉獄炎(インフェルノ)・纏(テン)!」
「いっけええええええ!」
――リーシアの力を借り、漆黒の炎を纏わせた刃を最後の一本に突き刺す。
シーナの限界を超えた一撃は、とうとう首を貫いた。
「よしっ!」
その光景を見届けて、力強く俺は叫んだ。
先ほど分断された三組が、ケルベロスの三頭を一頭ずつ倒す。
それこそがケルベロスの倒し方だと考えていた。
その予想はどうやら正しかったらしい。
全ての頭を失ったケルベロスは再生することなく、魔力の霧となって消えていく。
残されたのは赤黒い魔石だけだった。
かくして、俺たちはトリア迷宮のボス、ケルベロスに勝利した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます