第53話 VSケルベロス 中編

 テトラがケルベロスに一撃を浴びせ、一度はこのまま押し通せるのではないかと思ったが、そこまで甘い敵ではなかった。

 態勢を整えたケルベロスは、俊敏な動きでフレアたちと対等に渡り合っていた。

 現在はケルベロスの三つの頭を、フレア、テトラ、シーナ&エルがそれぞれ相手にしているという状況だ。


 普段なら俺も前衛で囮を務めるのだが、今はシーナとエルという頼れる存在もいる。

 後方から戦況を把握し、指示を出すことに徹していた。


 そして残る一人、リーシアはというと――


「……何度か試してみましたが、どうやら嫉獄炎(インフェルノ)は通用しないようですね」


 悔しそうにそう呟いていた。

 ケルベロスが炎を扱う魔物だということもあり、リーシアの攻撃はあまり効果がなかったのだ。


 なら、方法を変える必要がある。

 俺は以前、リーシアが発動していた力を思い出した。


「リーシア、ケルベロスにダメージを与えるんじゃなく、一時的に動きを止めることは可能か?」

「……! ええ、もちろんですわ、ご主人様!」


 気合を入れなおした後、リーシアは両手をケルベロスに向けた。


「――嫉獄炎(インフェルノ)・縛(バク)!」


 放たれた漆黒の炎が、ケルベロスに向かって一直線に伸びていく。

 炎はそのまま、三つのうち一つの首を捕らえ、ケルベロスの動きを制限した。


「グウッ!?」


 突然の妨害に驚愕の声を漏らすケルベロス。

 そこに生まれたわずかな隙を逃す彼女たちではなかった。


「今っ! 喰らえぇ!」


 地面を強く蹴り高く飛んだフレアが、勢いよく剣を振り下ろす。

 彼女の全神経が注がれた全力の一振りは、見事にケルベロスの首を斬り落とした。


 さらにこちらの攻撃は、これだけでは終わらない。


「えいっ」

「ギャンッ!」


 頭を一つ失い、態勢を崩したケルベロスの頭をテトラが力強く殴打する。

 そして――


「これで、二本目っ!」


 そこにすぐさまフレアが剣を振るい、二本目の首を断ち切ることに成功した。


「よし! ナイスだフレア! そのまま畳みかけろ――!?」


 残るは一本。

 間もなく決着がつくと思った直後、驚くべきことが起きた。


「これは、まさか……」

「ヒュドラの時と同じでしょうか」


 驚愕する俺の横では、リーシアも同じ考えに至ったようだった。


 もぞもぞと、フレアによって斬り落とされた首の断面が膨れ上がる。

 そして、ものの数秒足らずで二つの頭が生え、元通りの姿に戻ってしまった。


「冗談だろ……!?」


 前回のヒュドラ戦の時のように、一つの断面から二つの頭が生えてくることはなかったとはいえ、とても驚くべきことだ。

 ケルベロスに再生能力があるなどという話は、これまでに聞いたことがない。


 深い思考の海に沈み、俺はケルベロスを倒す方法を模索する。 


 俺たちが敵にしているケルベロスが、普通のそれとは異なる点。

 一つは再生能力を保有していること、そしてもう一つは――ダンジョンのボスであるということ。


 ダンジョンのボスとして現れた魔物には、通常の魔物と違う能力を保有していることが多々ある。

 そしてその傾向として、ダンジョンと関連した能力になることが多々あるのだ。


 ここ、トリア迷宮の最大の特徴。

 それは攻略途中に三組に分断され、それぞれが大量の魔物を倒しながら進む必要があったことだ。

 そして今、目の前にいるのは三つ首の魔獣――ケルベロス。

 共通するのは、三という数字。


「もしかして……」


 一つの答えが、導き出されようとしていた。

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