第47話 分断
トリア迷宮の内部は、至って普通のダンジョンといった様相だった。
出てくる魔物のランクとしては基本的にD~Cランク。
セプテム大迷宮で言うところの一~四階層辺りに出現する魔物と同等だろうか。
出現頻度に関しては非常に高いため、そこらの冒険者パーティーであれば確かにある程度苦労するんだろうが――――
トリア迷宮を突き進むこと数時間。
順調に進み続けた俺たちは十階層にまで辿り着き、そこで遭遇したオークの群れと戦いを繰り広げていた。
「フレア、背後から一体迫ってるぞ!」
「分かった! 任せて――せいっ!」
三体のオークを一振りで斬り捨てたフレアは、その勢いのまま背後に迫るオークをも両断する。
ミノタウロスやヒュドラなど、様々な強敵と戦ってきた経験からか、その剣技は以前よりも明らかに洗練されている。
「こっちも終わったよ、アイクさん」
「お疲れ、シーナ」
フレアだけではなく、他の者たちも自分が対応していたオークを問題なく討伐し終えたみたいだ。
ここまで俺たちは一切のダメージを負うことなく進んできた。
以前、ノードのパーティーにいた頃からはとても想像できない。
……そう言えば、あいつらは今頃何をしているんだろう。
以前、街中でノードに決闘を申し込まれて以来、あいつらとは関わりがないままだ。
セプテム大迷宮の四階層程度はもう攻略できただろうか?
「俺が考えたって仕方ない話か」
「ん? 何か言った、アイクさん?」
「いや、何でもない。先に進もう」
独り言が聞こえたらしいシーナの疑問にそう答えた後、俺たちはさらに先へと進んでいった。
その空間に辿り着いたのは、それからすぐのことだった。
「ここは……?」
そこは直径約百メートルの、巨大な円形の空間だった。
俺たちが通ってきた道に続く部分を除いて、一面が灰色の壁に囲まれている。
十階層を順調に進み、辿り着いたのがこの空間だ。
下に続く階段、もしくは迷宮の最奥として相応しい何かがあってしかるべきだと思っていたが、何も見当たらない。
「ここが迷宮のゴールなのでしょうか?」
誰もが同じ疑問を胸に抱く中、リーシアが一番にそれを口にした。
普段ならばそんなはずがないと一蹴するが、今回に限ってはそういう訳にもいかない。
なにせ、俺たちはとある証言を聞いていたからだ。
「確かにさっきのパーティーは、最下層にはボス魔物も攻略報酬もなかったって言ってたからな」
疑っていたわけではないが、実際にこの目で見ると多少の驚きはある。
彼らは十階層中を探索しても何も見つけられなかったと言っていたが、俺たちも何か手掛かりがないか探してみるべきだろう。
「何か手掛かりがないか、皆で手分けして探してみよう」
俺の提案に、五人は頷く。
とりあえずこの空間内をしらみつぶしに調べてみることにした。
すると、すぐに気になる部分が見つかる。
「アイク! ここに何か埋め込まれているよ!」
「これは……赤色の魔石?」
フレアに呼ばれ駆け寄ってみると、壁の中に埋め込まれた赤色の魔石に気が付いた。
一面が灰色の中、確かに異質な存在感を発している。
俺の隣で一緒に魔石を眺めていたエルは、顎に手を当て考え込む。
「何か違和感を感じますね。
普通の魔石とは違う魔力を纏っている気がします」
「そうだな。何らかの術式が埋め込まれているのかもしれない。
触れるのは……ひとまず控えておいた方がいいか」
何が起きるのか想像もつかない。
まずは他にも似たようなものがないか確かめておくべきだ。
「ご主人様! こちらにも魔石が埋め込まれていますよ!」
「ここだけ魔力の流れが違うね」
そう思っていると、離れた場所を調べていたリーシアとシーナが声を上げる。
二人のもとに行くと、確かに同じように赤色の魔石が壁に埋め込まれていた。
「こっちにもあるのか。
しかしこうなると、この魔石には何らかの意味がありそうだな」
一つ二つと見つかれば、さらに見つかるような気がしてくる。
その証拠に、一人で探索していたテトラが遠くから俺を手招きしていた。
まさか、あそこにも同じものがあるのだろうか?
そう思いテトラのもとに向かう途中、俺は
「この形は――――」
仮に、テトラが今ある場所にも魔石が埋め込まれているならば。
見つかった三つの魔石は等間隔に設置されていた。
三つをそれぞれ線で結ぶと、三角形が出来上がる。
これは果たして偶然だろうか?
「見て、アイク。これ」
「やっぱりか」
予想通り、テトラの指さす先にも魔石が埋め込まれていた。
ここまでくれば、これが意図的に設置されたものだという確信が生まれる。
問題はそれがどんな意図であるかだ。
必死に頭を回転させ答えを導きだそうとした、その瞬間だった。
「っ、何だ!?」
「ッ」
突如として空間全体が激しく振動を開始する。
振動するのと同時に、魔石からは赤色の魔力が壁と地面を伝って円形に広がっていく。
そうして生まれた三つの円の上には、それぞれ俺とテトラ、フレアとエル、リーシアとシーナが立っていた。
さらに円の中にはそれぞれある魔法陣が描かれていく。
この術式は――転移魔法!?
「くそっ、こういう仕組みか!」
何がきっかけだったのかは分からない。
しかし、こうして転移魔法陣の罠は発動してしまった。
このタイミングでは抜け出すことはできない。
俺は咄嗟に、フレアとリーシアにそれぞれ視線を送った。
俺と目が合った二人は力強く頷く。
例え罠によって俺たちが分断されることになろうとも、彼女たちならば大丈夫なはずだ。
そしてそれから一秒も経たないうちに。
俺たちの体は、赤色の魔力によって包まれていった――――
――――――――――
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