第32話 宿敵との遭遇
――かつて、俺がノードのパーティーに所属していた頃。
俺たちはかなりの頻度でセプテム大迷宮の攻略に挑んでいた。
それでも辿り着けたのは四階層のボス部屋までが限界だった。
四階層のボス、石像の怪物であるガーゴイルを前に俺たちは何度も撤退を余儀なくされた。
四階層のボス部屋に至るまでの攻略で疲労した状態では、ガーゴイルの硬質な体に致命傷を与えることができなかったのだ。
その経験のせいか、俺はガーゴイルに対して苦手意識を持っていた。
今回、六階層攻略を目指す上でも難所になると予想していた。
予想していた、のだが――
「おわった。いえい」
胴体に大穴の空いたガーゴイルが、灰色の霧となって消滅していく。
その前には拳を振り上げた状態のまま、満足そうに頷くテトラの姿があった。
「まさか、一撃とは……」
決着は一瞬だった。
遭遇と同時に、フレアが接近し気を引く。
その隙に素早く近付いたテトラの拳が、ガーゴイルの体を貫いたのだ。
……ガーゴイルはBランク魔物。
中でも同ランクのサイクロプスよりも強力な魔物のはずなのだが。
ここにきて改めて、テトラが意思を得たことでどれほど強くなっているかを実感することができた。
これにて四階層の攻略が終わった。
かなりのハイペースだ。
まだ四時間程度しか経っていない。
魔物との遭遇数にもよるが、この調子なら十分に体力を残した状態で六階層に挑める。
……いや、その前に五階層だ。
決して気を抜いてはいけない。
俺はアルトからもらった地図を取り出す。
そこには五階層の詳細な地図が書かれていた。
これがあればかなりの時間が短縮できるはずだ。
前回俺とフレアが五階層に来たときは全てを探索できなかったから、道が分からない状態だしな。
とはいえ、ここから先は最低でもBランク以上の魔物しか現れないと思った方がいい。
一瞬たりとも油断はできない。
「先に進もう」
そして俺たちは五階層に降り立った。
――――
「くそっ、面倒なことになったな」
五階層の狭い通路をかけながら、俺は小さく舌打ちした。
後ろを見ると、二十対近くものハイオークの群れが俺たち目掛けて一列で駆けてきていた。
先頭にいる一体を斬り捨てた後、フレアが振り返る。
「アイク、どうする!? ここで相手したほうがいい!?」
「いや、ひとまずひらけた場所に出る!
そこで一気に叩くぞ!」
「了解!」
フレアも素早く俺たちに合流し、テトラ、リーシア、俺、フレアの順で駆けていく。
この狭い通路ではハイオークを一体ずつしか相手にできない。
フレアなら問題なく討伐できるだろうが、いつまでも続く戦闘に疲労は避けられない。
だから俺は、もっと簡単に敵を一蹴する手段を求めた。
「見えました、ご主人様! 通路が終わります!」
「よし!」
リーシアの言う通り、俺たちはその後すぐひらかれた空間に出る。
しかしこのままではハイオークの群れもやってきて混戦になる。
そうはさせない!
「テトラ、今だ! 出口を塞げ!」
「わかった。えいっ」
テトラは力強く、通路左右の石壁を殴り破壊する。
それによって支えを失った天井が、ガラガラと音を鳴らしながら崩れていく。
「グガァアアア!」
「ギァアアアア!」
天井の崩壊に巻き込まれたハイオークたちの悲鳴がこだまする。
この程度で死にはしないだろうから生き埋めになっているんだろう。
とりあえず、最低限の労力で窮地を脱することはできた。
「よし、ハイオークが出てくる前に先へ進もう。
――五階層のボス部屋まであと少しだ」
その後も俺たちは極力魔物との戦闘を回避していった。
そして、五階層の攻略を始めてから二時間弱――その場所に辿り着く。
いつの日か見た、虹色の壁に囲まれた空間。
通路の先からは、圧倒的な威圧感が伝わってくる。
「――やはりいるか」
ダンジョンにおいて、各階層のボスが再出現するまでには間隔がある。
一、二階層は数時間、三、四階層は数日。
五階層の
「また戦う必要があるみたいだね、アイク」
「そうだな、フレア」
そして俺たちは再び遭遇することになる。
人とは比べ物にならない巨躯に、禍々しい牛の頭。
巨大な金属斧を持つAランク魔物――ミノタウロス。
「グルォォォオオオオオ!」
かつて俺とフレアが死力を尽くした末に倒すことのできた宿敵。
――だけどもう、俺たちはあの頃とは違う。
フレアだけじゃない。
テトラもリーシアもいるんだ。
この先に待ち受けている
「さあ――圧倒するぞ」
かくして、宿敵ミノタウロスとの戦闘が始まった。
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