第31話 作戦会議
――とまあ、威勢よく出発したはいいものの。
そのままセプテム大迷宮に向かうというわけではなかった。
俺たちは一度冒険者ギルドに戻ったあと、エイラにヒュドラに関する資料を貸してほしいと頼んだ。
別室で待機する俺たちのもとに、数冊の資料を手にしたエイラがやってくる。
「アイクさんに言われた通り、ギルド内にある魔物の資料の中からヒュドラのものを持ってきました。
それにしても領主様の呼び出しの用件が何だったのかと思っていたら、まさかヒュドラの討伐だったなんて……
本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫じゃなかったとしても、やらなくちゃいけない理由があってな。
ありがとう、参考にさせてもらう」
礼を告げた後、俺は資料を読んでいく。
別のダンジョンで目撃された際の情報しかないが、やはり厄介そうな魔物だ。
ヒュドラはだいたい7~9本の首と猛毒を持つ大蛇だ。
複数の首から繰り出される、物理攻撃と毒攻撃の前には多くの冒険者がなすすべなくやられる。
それを聞くだけでも面倒なのに、さらに厄介なのがその再生力だ。
ヒュドラは全ての首を斬り落とさない限り死ぬことはない。
一本や二本斬り落としたところで、すぐに再生してしまう。
再生を防ぐためには断面を燃やす必要がある。
一撃入れるだけでも難しいにもかかわらず、しっかりとダメージを与えるには連撃が必要となる。
緻密な連携が肝となる。
そのためにも事前に十分な作戦を立てていった方がいい。
俺は資料を読みながら唸っている三人を見渡し、考えを告げる。
「皆、聞いてくれ。
ヒュドラと戦う際の作戦を伝える」
まず、俺はフレアを見る。
「フレアは攻撃の軸として動いてもらう。
ヒュドラにダメージを与えるのに最も適しているのは斬撃だ。
敵の首を斬り落とすことを優先してくれ」
「うん、任せて! 絶対に倒してみせるから!」
次にテトラに視線を送る。
「テトラにはフレアの援護を頼みたい。
打撃で首を切断するのは難易度が高いからな。
フレアに襲い掛かってくる攻撃を防ぐことを最優先に。
その上で隙を見つけたら積極的に胴体に攻撃を仕掛けてくれ」
「わかった。わたしにできることを、全力でやる」
最後にリーシアだ。
今回の作戦で最も重要となるのは彼女だろう。
「リーシアの負担が一番大きくなるかもしれない」
「はい、何なりとお申し付けくださいませ」
「まず何より優先してほしいことは、ヒュドラが放つ毒の浄化だ。
ただリーンを見て分かる通り、一度毒を浴びてしまえば呪いのせいで解毒は難しいだろう。
そこでリーシアには、俺たちに毒が接触する前の段階での浄化をお願いしたい」
「なるほど、それはなかなか難易度が高そうです。
しかし問題ありません。ご主人様を傷付けようとする攻撃など、指示がなくとも全て消してさしあげますもの!」
「それは心強い」
だが、リーシアに頼みたいのはそれだけではない。
「その上で、だ。
ヒュドラの再生を防ぐためにも、フレアが斬り落とした断面を黒い炎で焼いてほしい」
「ふむ、いわばダブルタスクというわけですね。
……ですが、わたくしでもそれほど難易度の高い二つを同時に行うのは難しいかもしれませんわ」
「そうなのか?
困ったな、それだと作戦を一から考え直さなければ――」
「もうっ、そういう意味ではありませんわ」
リーシアはぷくぅっと頬を膨らませながら、上目遣いで俺を見る。
「頑張るためのやる気が必要なのです。
作戦成功の暁には、ご主人様からご褒美を頂けるのでしたら、何の問題もないのですが」
「まあ、それくらいならお安いもんだ。
何が欲しいかは改めて聞くから考えておいてくれ」
「!!! 分かりましたわ!!! 言質!!!」
リーシアはパアッと満面の笑みを浮かべる。
どうやらやる気は十分のようだ。
最後の言葉はよく聞き取れなかったが、問題はないだろう。
と思った矢先、フレアとテトラが不満げにじーっと俺を見てくる。
「ねえねえアイク、私たちには?」
「ご褒美、くれないの?」
「……分かったよ。フレアとテトラにもな」
「うん!」
「やった」
ガッツポーズをする二人。
なぜそこまで喜んでもらえるのかは不明だが、やる気が出るのはいいことだ。
セプテム大迷宮の攻略は簡単なことじゃない。
少人数で挑むということもある。
気力が持続する短時間で達成しなければならない。
そんな風にして作戦会議を終えた俺たちは、今後こそセプテム大迷宮へと出発するのだった。
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