第26話 認められた先に
――
俺を取り巻く環境は驚くほど変化していた。
「よおアイク、今日は何の依頼を受けるんだ?」
「それはまだ決めてない。Bランクでいいのがあればってところかな」
「そうか、まあ頑張れよ。じゃあな!」
「ああ、そっちもな」
このように。
あの日知り合った冒険者の方々とは良好な関係が続いている。
俺だけではなく、後ろのフレアたちに声をかける者も多い。
俺と人形遣いという職業は、ここ冒険者の町フィードにて徐々に認められつつあった。
その影響は予想していないところにまで現れる。
「っ、アイクさん!」
「どうしたんだ、エイラ?」
冒険者ギルドに入るや否や、エイラが焦った様子で俺の名を呼ぶ。
何かあったんだろうか?
「すみませんが、奥の部屋まで来てもらってもよろしいでしょうか?
あまり大っぴらにはしたくない内容でして」
「それは問題ないが……」
俺たちはエイラの案内に従い、応接室に向かった。
俺、リーシア、フレア、テトラの順で座る。
「何があるのでしょうね、ご主人様?」
「ちょっとリーシア、あまり騒いじゃ駄目だよ」
「お茶おいしい」
わちゃわちゃする俺たちの前には資料を手にしたエイラが座った。
「それで何かあったのか?」
「実はですね、以前アイクさんが悪魔を討伐されたことを、王立ギルドや領主様などにご報告させていただいたんです」
報告の際に、そうするとの確認はもらっていたため驚きはない。
それ以外に何か呼び出された理由があるのだろう。
「ここからが本題なのですが、なんとその話を聞いた領主様から直々に、アイクさんに依頼したいことがあるとのことです」
「……えっと、誰が、誰に?」
「領主様が、アイクさんにです」
衝撃的な内容に頭がパンクしそうになる。
領主、すなわち位の高い貴族が俺に直接用があると?
何を言い渡されるのか分かったもんじゃない。
「ほほう、その領主とやらはなかなか分かっていますね。
きっとご主人様の才覚を見抜き、その座を引き渡そうとしているのでしょう!
なかなか見どころが――」
「リーシア、それはさすがに冗談で済まされなくなるから」
「――ふぁ、ふぁ~い」
反逆を疑われそうな言葉を止めようと、俺は咄嗟にリーシアの口に手を当てた。
だけどなぜかリーシアは恍惚な表情を浮かべている。
原因は不明だ。
俺は一度深呼吸した後、改めてエイラに向き直る。
「それで、俺はどうすれば?」
「直接お話されたいとのことですので。
この後、貴族街にある領主様の館に向かっていただいてもよろしいでしょうか?」
「……分かった」
領主の要請を無視することはできない。
俺は領主――グレイス家の館に向かうことになった。
――――
「……ここが貴族の館か」
通常、足を踏み入れることはない貴族街。
その中でも特別際立った館が、領主のものだという。
俺は緊張を抑えながら、門番に声をかける。
「冒険者ギルドから来ました、アイクです」
「話は伺っています。念のため、冒険者カードの方を確認してもよろしいですか?」
「はい、これです」
「確認いたしました。それでは少々お待ちください」
待つこと一分足らずで、館から案内の使用人が現れる。
「ご当主様は応接室でお待ちですので、案内いたします」
そして俺は館の中に足を踏み入れた。
普段の生活では目にしないような高級品が溢れている。
不意に、俺の腰元からその声が響く。
「わ~、すっごい綺麗だね」
「……? アイク様、いま何か仰いましたか」
「い、いえ何も! ……こら、フレア、静かにって言っておいただろっ」
「あ、そうだったね。ごめんアイク」
そう、今の声は人形就寝具(ドール・ケース)から顔を覗かせるフレアのものだ。
彼女たちは意思を得てからまだ日が浅い。
貴族相手に何をしでかすか不明なため、今回は最小サイズのまま同行してもらっているのだ。
まさか顔を出して話すとは思わなかったが。
心臓がバクバクと鳴るのを自覚しながら歩き続ける。
そんな時だった。
その視線を感じたのは。
「……ん?」
廊下の奥の曲がり角から、こちらを見る少女がいた。
金色の長髪に、綺麗な青色の瞳。
しっかりとした服装に身を包み、白い犬のぬいぐるみを抱えた幼い少女だ。
何かを疑うような表情でこちらを観察している。
彼女は、いったい……?
「つきましたよ、アイク様」
使用人の声によって思考は止まる。
どうやらいつの間にか部屋に辿り着いたみたいだ。
「ご当主様、アイク様をお連れしました」
「入ってくれ」
使用人に促され、俺は応接室の中に入った。
そこには一人の男性が立っていた。
若々しくも精悍な顔立ちをしたその男性は、微笑んで俺を迎え入れた。
「初めまして。私はこのグレイス領を治める領主、アルト・グレイスだ」
「――冒険者、アイクです」
「アイクくん、本日はこちらの急な要請に応えてくれて感謝する。そちらにかけてくれたまえ」
貴族の地位を鼻にかけるような男性ではないらしい。
俺はアルトの言葉通り、ふかふかな椅子に腰かける。
さて、ここからが本番だ。
いったい領主様ともあろう者が、一介の冒険者に何を依頼したいのか。
そんな俺の疑問を理解しているかのように、アルトは開口一番に告げた。
「さっそくだが、君を呼び出した理由についてだ。
君にはセプテム大迷宮六階層のボス、ヒュドラの討伐をお願いしたい」
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