第25話 勇者の誤認

「――――はっ!」


 アイクたちが冒険者ギルドから追い出されたのと時を同じくして。

 気絶していたノードは目を覚ました。


「ここはどこだ……ぐっ!」


 自分がどこにいるのか確かめようと辺りを見渡すノード。

 だが、直後襲ってきた激痛に動きを止められる。


「なぜオレがこのような怪我をしているんだ?」


 ノードは自身の記憶をさかのぼる。

 確か自分はアイクと決闘を行い――


「そうだ、その最中に悪魔が来たんだ!」


 人類の敵、悪魔。

 そいつに対して奥義を放ったところまでは覚えている。

 そこから先の記憶はなかった。


 しかし察しはついた。

 自分が奥義を放ったという事実、体中に感じる痛み。

 ここから導き出せる結論は一つ――



「オレが限界を超えた一撃を放ち、悪魔を倒したということだな」



 ――ああ、間違いない。

 そうとしか考えられない。

 けれども自分は冷静さが取り柄の勇者だ。

 一応の確認はするべきだろう、


 ノードは自分がいる場所が冒険者ギルドの医務室だということに気付いた後、すぐに立ち上がり受付に向かう。

 既に冒険者の姿はほとんどないが、受付は何人か残っている。


 その中にいた、アイクと仲のいい受付嬢を呼ぶ。



「おい、そこのお前」

「はい? ああ、目が覚めたんですね。どうしましたか?」

「悪魔はどうなった?」



 あれほどの強大な敵が出現したことを、ギルドが把握できていないわけがない。

 自分の獅子奮迅の活躍ぶりと共に語られているだろう。

 そう確信しての問いだった。


 受付嬢は「ああ」と頷いた後、告げる。


「悪魔についてですね。出現した際は町が滅ぼされるのかと思いましたが、無事に討伐することができたんです。それもなんとアイクさんが――」

「そうか、やはりそうだったのか! ふはははは、気分がいい!」

「――え?」


 ノードは身を翻すと、出口へ向け歩いていく。


「待ってください!」


 そんなノードの背中から、呼び止める声をする。

 町を救った英雄を称賛したい気持ちは分かるが、ここはこのまま去ったほうが恰好がつく――


「こちらでお預かりしているノードさんの聖剣、返しておいた方がいいですよね」

「……当然だ」

「では、こちらにお掛けになってお待ちください」



 ――ノードは改めて聖剣を返してもらった後、ギルドを出た。



 外の夜風は妙に冷たかった。

 それでも不安はなかった。

 悪魔を倒したという自信がノードの心を強くしてくれたから――




 その後、パーティーの待つギルドに戻るや否や、ユンが顔を赤くして叫ぶ。


「何やってんのよノード!

 新しくパーティーに勧誘する二人組を探しているはずが、アイクなんかと決闘して!

 しかも噂では負けたって言われているわよ!? それに加えて街中に出現した悪魔を倒したのもアイクだって話があるんだけど、どういうこと!?」

「なん……だと?」


 何とアイクは前回に引き続き今回もノードの手柄を奪った上で、さらには決闘にも勝利したと吹聴しているらしい。

 そうノードは判断した。

 はらわたが煮えたぎる。



「許さない。絶対に許さないぞ、アイクゥ!」



 その叫びは夜の空に響き渡り、

 宿屋の店主に怒られた。

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