第24話 祝勝会の後に
「ものの見事に追い出されたな」
「そうですね……」
祝勝会からの帰宅途中、俺が零した言葉に隣を歩くエルが頷く。
リーシアの語る愛の物語とやらに感化され、他の冒険者たちも騒ぎ始めたのだ。
冒険者が何十人も集まればこうなるのか、というような喧騒だった。
二時間近く、騒ぐのを許してくれたギルドには深い感謝を捧げたいところだ。
追い出される原因の一端となったリーシアはと言うと、不満げに唇を尖らせていた。
「納得いきませんわ。ここからが一番いいところでしたのに」
「あれでまだ話したりないんだ!?」
リーシアの発言に、フレアがびっくりしていた。
仲が良さそうでなによりだ。
「んー、えいっ!」
「きゃっ、なんですかフレア?」
フレアは突然リーシアを抱きしめる。
「まあまあ、そんなに落ち込まないでよリーシア!
これからいくらだって時間はあるんだからね!」
「……それもそうですわね。
では、機会があればまた聞いてくれますか、フレア?」
「あっ、それはちょっと……ごめんね?」
「ここで断るのですか!?
ふふっ、やはり侮れませんね。ご主人様に最も多く呼び出されているだけはあります。
ですが絶対に正妻の座は渡しませんわよ?」
「せ、正妻ってリーシア、気が早いよ!?
た、確かに私もアイクのことは好きだけど、それは仲間としてっていうか、恋愛はまだ私たちには早いっていうか……」
「ほう、両手の人差し指をちょんちょんとしながら恥ずかし気にそんなセリフを口にするとは。なかなかの演技力です。とてもあざといのですね」
「演技じゃないよ!?」
……うん、仲良しだ。
仲良しっていいことだよね!
俺は思考を一時放棄した。
そんなときだった。
どんっと、俺の腹に軽い衝撃があった。
下を見てみると、テトラがぎゅぅ~っと抱きついてきていた。
可愛い。
俺はテトラの頭をぽんぽんする。
「どうしたんだ、テトラ?」
「フレアとリーシアの会話を聞いて思った。
好きなら好きと本人に直接言えばいい。
わたしもアイクのことが好きだから、精いっぱいのアピール」
「そうか、ありがとう。俺もテトラのこと、大切に思ってるよ」
「むふぅ~」
俺を見上げながら、満足気な表情を浮かべるテトラ。
彼女から俺に対する好意の種類としては、家族間での愛情表現が一番適しているだろうか。
純粋に嬉しかった。
と、そんな俺たちを見たエルとシーナが何やら会話している。
「ほら、シーナはいかなくていいんですか?」
「えっ!? な、何言ってるのエル!?
べべべ別に、私はアイクさんのことを好きと思ってなんか……!
ただ命を救ってくれた恩人ってだけで!」
「じゃあ嫌いなのですか?」
「そんなわけない! ……あっ」
俺とシーナの目が合う。
すると、シーナの顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「そ、その、違うの、アイクさん!
今のは言葉のあやって言うか、その……
とにかく、何でもないから!」
「そ、そうか」
よくは分からないが、どうやら何かに照れているみたいだった。
光栄なことに俺を恩人だと思ってくれているようだが、それを素直に伝えるのが恥ずかしいのかもしれない。
年頃の女の子だしな、仕方ないことだ。
「くっ、今回も進展はなしですか」
「……エル?」
「はい、何ですかアイクさん?」
「い、いや、何でもない」
気のせいかな?
一瞬、エルがかなり悔しそうな表情を浮かべた気がしたんだが。
今はいつも通りの優しい笑みを浮かべている。
まあ気のせいだろう、うん。
そうに違いない!
「ちょっと、テトラ!?」
「少し目を離した隙に先を越されましたか……!」
楽しく二人で話し合っていたフレアとリーシアが、俺に抱きつくテトラを見て表情を歪める。
「まあいいや、私もいっちゃえ!」
「フレア!? も、もちろんわたくしもいきます」
「うおっ!」
両サイドからフレアとリーシアが俺の腕に抱きついてきた。
フレアからは控えめな、リーシアからは主張の強い何かが押し付けられる。
「じゃあ行こう、アイク!」
「みんな、素直が一番」
「さあ、楽しい夜のひと時を過ごしましょう!」
さらにそのまま歩くことを強制されてしまった。
かなり歩きにくいんだけどこれ!?
「……むぅ」
「ほら、だから言ったでしょう?」
何とか歩行する俺たちの後ろを、エルとシーナの二人がついてくる。
そんなこんなで、俺たちは宿に戻るのだった。
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